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経理DXをどこから進めていくのか、全社展開できる立替経費精算は選択肢

1.全社レベルに影響がある業務が望ましい


社長含めた経営陣などの上層部から、「DXを始めるように!」、「まずは経理部門でDXを進めるように!」といった号令がかかった会社もあるのではないでしょうか。

いざ始めるにも何から始めたらよいのか悩むのが実情かと思います。

経理DXの場合は、実行すれば売上が上がるという類のものよりも、作業効率があがって、結果として利益があがるという類のものが多いので、経営陣に訴求する際に伝えにくいという面もあります。

売上アップに直結はしないものの、効果を実感できるものということになると、全社レベルで活用が可能な内容が望ましいと考えられます。

経理部門だけにしか適用されない内容のもので効果が高い経理DXの例もありますが、はじめの取っ掛かりとして取り組むのであれば適用範囲が広く、なおかつ効果が実感できるものの方が良いでしょう。

号令をかけた経営陣自身も効果を確認できるということもその理由の一つと言えます。

2.業務改革をピンポイントで進めることがショートカットとなる場合もある


経理DXを上手に導入するために』で、経理DXを進めるにあたっての方法の一つとして、経理業務をリスト化して現状分析をする方法について解説をしました。

この方法の場合、経理業務全体を俯瞰的に見て改善を進めていくので、全体最適となる可能性は高いですが、業務をリスト化することや現状分析をする時間含めて、かなりの工数を実際の経理DX実施前に要するケースが多いです。

そこで、実務上適用しているのは、工数がかなりかかっている業務をピンポイントで抽出して、その業務の改善に注力する方法です。

全体最適にならない可能性もありますが、少なくとも工数がかなりかかっている業務であるということから、改善をすれば部分最適にはなりえます。また、経理業務全体を俯瞰的に分析するといった前工程がない分、スタートを切るまでに時間がかからないので、ショートカットができるというのは利点です。

このような観点から、経理業務で工数がかかっているものを抽出すると

●決算業務
●固定資産業務
●経費精算業務

といったものが抽出されることが多いです。


決算業務に関しては、早期化の課題もあり、重要な課題とは思いますが、主として経理部門にかかわる業務なので経理DXをはじめに行う対象として全社レベルのものを抽出するという観点からはやや外れます。

次に記載した固定資産管理ですが、設備投資が多い業種などでは、決算業務と重なることもあり、かなり負担が大きな業務であることから改善が求められることは間違いないです。ただし、固定資産業務にかかわるのは、経理部門と設備投資を実際に行う部門が主な関係部門となるので、やや全社レベルという点からは不足感が否めません。

3番目に記載をした経費精算業務ですが、従業員がいる会社であればおよそ全ての会社にある業務であり、なおかつ全社レベルで関係する業務と言えます。そのような背景もあってか、経理DXを何から始めてよいのかわからないというケースで、比較的お手軽かつ全社的に影響を与えながら進められるものでおススメなのは、経費精算システムを導入してDXを実感する方法です。

3.経費精算業務は効能が高い対象業務


従業員の立替経費精算業務は、およそすべての会社にある業務でしょう。

公共交通機関やタクシーを使って移動する、業務に必要な消耗品を購入する、取引先との食事など接待をするといった取引が発生し、従業員が立替えて支払った場合には、後日会社に請求することになります。

立替経費精算業務は全社でほとんどの人が実施をしている業務なので、経理DXを実施して効果が出ればその影響度が大きいといえます。

また、経費精算業務は従業員に限った話ではなく、経営陣も行います。ですので、経理DXを経費精算業務を通じて実施すれば、作業を通じて体感することが可能です。

仮に経営陣の秘書が代行して経費精算を行っていたとしても、秘書の作業工数が劇的に減少すれば他の業務を実施することも可能となるので、間接的とは言え経営陣に効果が伝わるでしょう。

4.申請者・決裁者・経理部門でそれぞれ実感する


経費精算業務で経理DXを進める場合、経費精算システムを導入することとなりますが、導入後具体的にどのようなことを実感することになるでしょうか。


① 申請者

人工知能の機能を肌で感じながら、手作業が劇的に減少することに加えて、ペーパーレス化を自然と実感することが可能となります。

今まで無駄に感じていた経費精算の作業負担が軽くなったことで、DXに興味を持ってくれれば他の業務での活用へとつながるかもしれません。


② 決裁者(申請者の上司)

承認者にとって、真剣に経費精算の内容をチェックしようと思うと、それなりの工数がかかります。それなりの工数がかかって、結果として正しい申請であれば、それはそれでよいのでしょうが、調べるためにかかった時間を考えると無駄に感じてしまうかもしれません。

もちろん、それが承認者の仕事と言ってしまえばそれまでですが、忙しい承認者にとってはなかなか理解が得にくいことかもしれません。そのため、多くの会社で承認者のチェックがいい加減であるという悩みも聞きます。

経理精算システム導入後は、例えば電車の経路であれば、ICカードで読み込みをした場合は、ICカードから読み込みがされたという事実がシステム上目印として表記されるシステムもあり、承認者としてはその目印があれば少なくとも乗車した実績を疑う必要はなくなります。ちょっとした時間の圧縮のようですが、取引の数、部下の人数分だけ工数が減るとなると合計すると相当の工数削減となるでしょう。


③ 経理部門担当者

経理部門の効果を実感できる面でインパクトが大きいのは、今まで申請部門から入手した申請書をもとに、改めて経理側で会計システム等へ入力をしていたのであれば、それらの入力が不要になることです。正確には申請者のデータを活用して、仕訳データとして取り込まれることになりますが、申請者や承認者のミスがなければ、そのデータをそのまま活用できるので作業工数は激減します。

経理担当としては、既存データを活用して極力二重入力をなくすということを経費精算システムの導入を通じて認識が高まれば、他の業務への適用を考えるきっかけとなるでしょう。

また、経理側のチェックに関しても承認者のチェックと同じように異常値がアラートとして表示される機能が実装されているシステムが多いので、その点を重点的にチェックすれば不正やミスが起こる可能性は減少します。もちろん作業工数の減少ということも実現されます。

クラウド型のシステムを活用すれば在宅勤務をしながら経費精算業務も実施可能なので、働き方の多様性も生まれることになります。

このように経費精算業務は、業務に関与するメンバーが経理部門以外の事業部門含めて多岐にわたるので、DXの効果があると全社でそれらを実感できます。

「何か経理DXを始めてほしい」と言われて思案されている方の選択肢の一つとしてみてください。

5.費用対効果についても考えよう


立替経費精算で経理DXを推進するメリットを中心にお話をしてきましたが、コストについて検討することも肝要です。

システムの利用料金が社員数等で課金が行われる場合は、企業が成長し、人数が増加していった場合は、当然課金額が増えることになります。

増加した分、社員全員が利用しているのであれば特に違和感はないかもしれませんが、仮に経費精算のようなシステムで、経費をたまにしか利用しないような社員が多数いる場合は、毎月ほとんど利用をしないにも関わらず人数分の課金がされることが妥当なのかという点も検討が必要です。

企業として利益を追求する以上、費用対効果について追求することは忘れないようにしましょう。

執筆者:公認会計士/税理士 中尾 篤史


CSアカウンティング株式会社  代表取締役社長 
日本公認会計士協会 租税政策検討専門委員会 専門研究員

上場企業グループから中堅・中小企業まで幅広く経理・人事のアウトソーシング・コンサルティング業務に従事。
著書に『経理業務のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)活用のススメ~新しい経理部門が見えてくる50のポイント~』、『DX時代の経理部門の働き方改革のススメ』、『瞬殺!法人税申告書の見方』(税務研究会出版局)、 『正確な決算を早くラクに実現する経理の技30』、 『BPOの導入で会社の経理は軽くて強くなる』(共著)、 『対話式で気がついたら決算書が作れるようになる本』(共著)、 『経理・財務お仕事マニュアル入門編』(以上、税務経理協会)、 『たった3つの公式で「決算書」がスッキリわかる』(宝島社)、 『経理・財務スキル検定[FASS]テキスト&問題集』(日本能率協会マネジメントセンター)、 『明快図解 節約法人税のしくみ』(共著、千舷社)など多数。

≫HP:CSアカウンティング株式会社

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