経理部からのキャリアチェンジ

皆様、こんにちは!公認会計士の白井敬祐です。

経理部での経験を活かし、キャリアチェンジを考える方が増えています。経理のスキルは多岐にわたり、様々な分野で求められるため、異動や転職の選択肢も豊富です。

今回は、経理部からのキャリアチェンジについて、「同じ会社内の他部署に異動」「他の事業会社に転職」「監査法人/税理士法人に転職」「コンサルティングファームへ転職」の4つのパターンを中心に解説していきます。

同じ会社内の他部署に異動


大手上場企業には、経理部以外にも多くのバックヤード業務を担う部署が存在し、それぞれが専門的な役割を果たしています。

主な部署には「管理会計部」、「税務部」、「財務部」、「IR部(Investor Relations)」、「経営企画部」などがあります。これらの部署に異動することで、経理部で培った知識や経験を活かしながら、新たなスキルや視点を習得することができます。これらの異動はキャリアの幅を広げ、成長の機会を提供するため、非常に魅力的です。

経理部門にのみ所属していると、どうしても経理部門の視点から見た世界に限られてしまいます。しかし、異動を経験することで、視野が大きく広がり、新たな視点を得ることができます。たとえば、経理部門からIR部門に異動すると、これまで経理部として作成していた財務データが、IR部門において投資家とのコミュニケーションにどのように活用されているかを直接見ることができます。

このように、異なる部門での経験を積むことで、企業全体の仕組みや他の部門との連携の重要性を理解し、より広い視点で物事を捉える力を養うことができます。これは、単なるキャリアの幅を広げるだけでなく、将来的に経営層としての視座を持つための基盤を築くことにもつながります。異なる立場や役割を経験することで、より戦略的な判断力を身につけ、組織全体を俯瞰する能力を高めることができるのです。

■税務部
経理部から税務部への異動は、会計知識を基に新たなスキルを磨く良い機会です。税務部では、企業の税務申告、税務調査対応、税務戦略の策定などが主な業務です。具体的には、法人税や消費税の計算、税務リスクの管理、税務調査への対応などが含まれます。経理部での経験を活かして、より専門的な税務知識を身につけることができ、企業のコスト削減やリスク管理に貢献することができます。

■財務部
財務部への異動は、資金調達や資金管理など、企業の資金運用に関する業務に携わることを意味します。財務部では、資金計画の立案、資金調達、資金管理、投資戦略の策定などが主な業務です。例えば、銀行との交渉や資金繰りの調整、M&Aのファイナンスなどが含まれます。経理部での経験を基に、企業の財務状況を把握し、戦略的な資金運用を行うことで、企業の成長をサポートします。

■IR部
IR部への異動は、企業の投資家対応を担当する役割です。IR部では、投資家向けの情報開示、株主総会の運営、アナリストとのコミュニケーションなどが主な業務です。経理部での経験を活かし、企業の財務情報を投資家に分かりやすく伝えるスキルが求められます。IR業務を通じて、企業の信頼性向上や株価の安定に寄与することができます。

■管理会計部
管理会計部への異動は、企業内部の経営管理をサポートする役割です。管理会計部では、予算編成、業績管理、コスト分析などが主な業務です。経理部での経験を基に、企業の経営陣に対して適切な経営判断を行うための情報提供を行います。具体的には、予算と実績の差異分析やコスト削減の提案などが含まれます。管理会計は、経営戦略の立案と実行に不可欠な役割を果たします。

■経営企画部
経営企画部への異動は、企業の長期的な戦略立案に関与する役割です。経営企画部では、会社によって役割が異なる可能性もありますが、基本的には中長期計画の策定、事業戦略の立案、新規事業の企画などが主な業務です。経理部での経験を活かして、企業の財務状況を分析し、将来の成長戦略を立案することが求められます。経営企画部での経験は、企業全体の経営視点を養い、さらなるキャリアアップに繋がります。

他の事業会社に転職


待遇や経験の幅は、一つの事業会社に留まっていると、どうしても限界が生じることがあります。現在の環境で待遇やスキルの向上が頭打ちになっていると感じ、将来に不安を抱いている場合、転職という選択肢も視野に入れる価値があるでしょう。

転職を通じて新しい環境に飛び込み、異なる業界や企業文化での経験を積むことで、これまで得られなかった知見やスキルを身につけ、キャリアの成長を再加速させることができます。また、新たな職場では、自分の強みをより発揮できるポジションを見つけたり、これまでにないチャレンジを通じて自身の市場価値をさらに高めたりすることも可能です。

規模の大きい同業他社へ転職(待遇改善)
経理部での経験を活かして、規模の大きい同業他社に転職することは、待遇改善を目指す上で有効な手段です。大手企業では、給与や福利厚生が充実していることが多く、キャリアパスも明確に設定されているため、さらなるキャリアアップが期待できます。経理の専門知識を活かし、より大規模なプロジェクトや複雑な会計業務に携わることで、自身のスキルを一層高めることができます。

■他の業種の他社へ転職(経理の経験の幅を広げる)
他の業種の他社に転職することで、経理の経験の幅を広げることができます。異なる業種では、経理業務の内容や求められるスキルが異なるため、新たな知識や経験を積むことができます。例えば、製造業、サービス業、IT業界など、それぞれの業種特有の経理業務に触れることで、より広範な経理スキルを身につけることができます。このような経験は、将来的により多様なキャリアパスを選択する際に大いに役立ちます。

監査法人/税理士法人に転職


監査法人や税理士法人で働くことは、事業会社での勤務とは大きく異なる側面があります。事業会社では、自社にとって最適な意思決定は何かを考え抜くことができる戦略的思考が求められます。そこでは、専門知識よりもむしろ、部門間の調整やコミュニケーション能力、さらには社内の政治力といったスキルが重視される傾向があります。これにより、組織全体の利益を最大化するための調整役としての役割を担うことが多くなります。

一方、監査法人や税理士法人での勤務は、専門性が何よりも重視されます。これらの専門機関がクライアントに提供する価値は、まさにその高度な専門知識にあります。そのため、監査法人では監査や会計の深い知識を、税理士法人では税法や判例に関する高度な知見を、常に磨き続ける必要があります。このような環境では、自己研鑽を怠らず、常に最新の知識を吸収し続けるプロフェッショナル意識が求められます。専門性を追求し、それを武器にクライアントに価値を提供したいという意志がある方にとって、これらの職場は非常に魅力的なフィールドとなるでしょう。

■公認会計士として監査業務に従事
公認会計士資格を取得し、監査法人に転職することは、経理から監査業務にキャリアチェンジする一つの方法です。監査業務では、企業の財務諸表の信頼性を検証し、法令遵守を確認する役割を担います。経理部での実務経験を基に、監査法人での業務を遂行することで、会計の専門知識をさらに深めることができます。また、監査法人での経験は、将来的に独立して税務やコンサルティング業務を行う際にも大いに役立ちます。最近では、公認会計士だけでなくUSCPA保持者も監査法人に就職し、監査業務やアドバイザリー業務に従事している人も増えています。

■税理士として税務業務に従事
税理士資格を取得し、税理士法人に転職することも、経理からのキャリアチェンジの一つです。税理士業務では、企業や個人の税務申告、税務相談、税務調査対応などが主な業務となります。経理部での経験を活かし、税務に特化したスキルを身につけることで、クライアントに対する付加価値の高いサービスを提供することができます。税理士としてのキャリアは、独立開業やフリーランスとしての働き方も選択肢に入るため、柔軟なキャリアパスが描けます。

コンサルティングファームへ転職


コンサルティングファームでプロフェッショナルとして働くことは、事業会社での働き方とは大きく異なる点があります。コンサルティングファームでは、監査法人と同様に専門的な知識の深い研鑽が重要視されますが、それだけでは不十分です。専門知識を効果的にクライアントに伝えるコミュニケーション力や、クライアントの抱える課題を正確に特定・整理し、それに対する最適な解決策を提案する能力も求められます。

コンサルティングファームでは、いわゆる「クライアントファースト」の精神が重要視され、常にクライアントのために考え抜く力が不可欠です。しかし、事業会社での勤務と異なり、コンサルタントにとってクライアントは自社の一員ではないため、どうしても他人事になってしまう側面があります。このような状況では、クライアントに対して真に価値を提供するのが難しくなることもあります。

しかし、事業会社での経理経験がある場合、その経験を活かしてクライアントの立場をより深く理解できるという強みがあります。経理の視点から、クライアントのニーズや悩みに共感しながら、実際の業務に即した解決策を提案できるコンサルタントになることができるでしょう。このように、事業会社で培った経験をもとに、クライアントの真のパートナーとして価値を提供する力を持つことが、コンサルティングの現場で大きな強みとなるのです。

■会計コンサルサービスに従事
コンサルティングファームに転職し、会計コンサルサービスに従事することは、経理経験を活かしてクライアント企業の課題解決に取り組むキャリアパスです。会計コンサルタントとしては、企業の財務改善、内部統制の強化、M&A支援、ERP導入支援など、様々なプロジェクトに携わります。経理部で培った実務経験と会計知識を基に、戦略的な提案や実行支援を行うことで、クライアント企業の成長に貢献します。コンサルティングファームでの経験は、広範な業界知識と高度な問題解決能力を養うことができ、キャリアの幅を広げる大きなステップとなります。

まとめ


経理部からのキャリアチェンジは、多くの選択肢があり、自分の興味やキャリアプランに応じて最適な道を選ぶことが重要です。ここで紹介した以外にも、例えばフリーランスとして独立する道や、ベンチャー企業で経理業務を担当する道など、多様なキャリアパスがあります。

経理経験を通じて会計に強くなれば、それは非常に心強い味方となります。経理業務で培った専門スキルは、多くの分野で高く評価されるため、そのスキルを活かしてキャリアアップを目指しましょう。

最後に、専門スキルに特化するか、または様々なスキルを幅広く経験するか、どちらの道を選ぶにせよ、しっかりとキャリアプランを立てることが重要です。経理力 = ハードスキル × ソフトスキル × 人間力の公式を念頭に置き、バランスの取れた成長を目指しましょう。

執筆者:公認会計士 白井 敬祐


2011年公認会計士試験合格後、清和監査法人で監査業務に従事した後、新日本有限責任監査法人及び有限責任監査法人トーマツでIFRSアドバイザリー業務や研修講師業務に従事。その後、株式会社リクルートホールディングスで経理部に所属し、主に連結決算業務、開示資料作成業務や初年度のIFRS有価証券報告書作成リーダーを担当。
2021年7月に独立開業し、現在はCPA会計学院で会計士講座(財務会計理論)やCPAラーニングの講師を務め、近畿大学経営学部の非常勤講師として学生向けに会計士講座を開講。
会計を楽しく学べる「公認会計士YouTuberくろいちゃんねる」を運営(登録者数4.3万人(2024/10/11))。


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