
経理業務で活かせる資格
皆様、こんにちは!公認会計士の白井敬祐です。
『経理人材に求められるスキルとは』で述べたように、経理に最低限必要なスキルは3つあります。それは、「簿記」、「Excel」、「コミュニケーション能力」です。さらにキャリアアップを目指すなら、「ITスキル」、「英語」、「複雑な会計基準の知識」が必要です。
しかし、いくらスキルがあると口ではいっても、経理のキャリアを築くためには、専門的なスキルや知識を客観的に証明する資格が重要です。経理業務で活かせる資格を取得することで、業務の効率化や精度向上、そしてキャリアアップの道が広がります。今回は、「基礎的なスキルを証明する資格」と「応用的なスキルを証明する資格」に分けて、それぞれの資格について詳しく解説していきます。
基礎的なスキルを証明する資格
■日商簿記検定2級
日商簿記検定2級は、経理の基礎的なスキルを証明するための代表的な資格です。この資格は、企業会計の基本的な知識を身につけるためのものであり、経理の初心者から中級者にとって非常に有用です。
簿記2級を取得することで、財務諸表の作成や読解、仕訳の基本的な処理ができるようになります。具体的には、貸借対照表や損益計算書の読み方、商品売買や現金の管理、固定資産や減価償却の処理などが学べます。
また、原価計算や税務の基礎知識も学べるため、実務に直結したスキルを習得できます。企業の経理部門での業務や、会計事務所でのアシスタント業務に必要なスキルを身につけることができるため、多くの企業で重宝される資格です。
日商簿記2級の試験は、合格率が30%前後とされており、合格するためには基礎的な知識をしっかりと身につけ、過去問を繰り返し解くことが重要です。独学でも十分に合格可能ですが、最近では、無料のeラーニングサイトも活用できます。講義の視聴や、教科書・問題集のPDFをダウンロードすることも可能です。また、ネット模擬試験を受講することもできます。
■MOS試験
MOS(Microsoft Office Specialist)試験は、Microsoft Office製品の利用スキルを証明する資格です。特にExcelのスキルは経理業務において非常に重要です。データの集計や分析、グラフ作成、関数の活用など、日常業務で頻繁に使う機能を効率よく使いこなせるようになります。
MOS試験は、Word、Excel、PowerPoint、Access、Outlookの各製品についてのスキルを認定する試験で、それぞれの製品に対するスキルを証明できます。特にExcelのスキルは、経理業務においてデータの管理や分析、報告書の作成に役立ちます。ピボットテーブルやVLOOKUP関数、マクロの作成など、業務効率を飛躍的に向上させるスキルを身につけることができます。
MOS試験に合格することで、Office製品を使った業務効率の向上が期待できます。経理部門では、多くのデータを扱うため、Excelを駆使してデータを整理・分析する能力は欠かせません。MOS資格を持っていることで、経理の現場で即戦力として活躍できることを証明できます。
応用的なスキルを証明する資格
■日商簿記検定1級
日商簿記検定1級は、簿記の最高峰の資格であり、高度な会計知識とスキルを証明します。1級を取得することで、連結財務諸表の作成や企業結合、税効果会計など、複雑な会計処理に対応できる能力を身につけることができます。
日商簿記1級の試験は、工業簿記、商業簿記、会計学、原価計算の4科目で構成されており、それぞれの分野で高度な知識が求められます。合格率は10%前後と低く、難易度が高い試験ですが、その分取得した際の評価も高いです。
この資格は、経理部門のリーダーや管理職、または上場企業の経理職を目指すためのステップアップとして非常に有効です。企業の経営戦略に直結する財務情報の分析や報告を行うためのスキルを証明できるため、企業の中核的な役割を担うことが期待されます。
■簿記論・財務諸表論
簿記論と財務諸表論は、税理士試験の科目の一部であり、高度な簿記・会計知識を証明する資格です。これらの科目は、税理士試験の基礎科目として位置づけられており、合格することで会計の専門知識を深めることができます。
簿記論では、仕訳や伝票の作成、帳簿記入などの基本的な会計処理から、複雑な会計処理まで幅広く学びます。財務諸表論では、財務諸表の構成要素や作成方法、会計基準について学びます。これらの知識は、実務において財務諸表を正確に作成し、分析するために不可欠です。
簿記論と財務諸表論に合格することで、経理業務において高度な会計知識を活かし、正確な財務情報の提供や分析が可能になります。これにより、経営者への適切な助言や企業の財務戦略の立案に貢献することができます。
位置付けとしては、簿記1級の上位資格のイメージであり、簿記1級を取得した後にさらなる上位資格を手に入れようと思った際には最適の資格になります。
■TOEIC
TOEIC(Test of English for International Communication)は、英語のコミュニケーション能力を測定する試験で、特に国際的なビジネス環境での英語力を証明します。経理部門でも、国際取引や外国企業とのコミュニケーションが必要な場合、英語力は大きなアドバンテージとなります。
TOEICスコアが高いことで、英語でのビジネスコミュニケーションや英文会計書類の理解、国際会計基準(IFRS)に対応するための基礎力を証明できます。グローバル企業や外資系企業でのキャリアアップを目指す方にとって、TOEICは非常に有用な資格です。
プライム市場の大手上場企業に転職しようとする場合、高いレベルの英語力が必要になってきますので、TOEICスコアは830点以上必要という企業が多いです。
■公認会計士
公認会計士(CPA:Certified Public Accountant)は、日本国内で最も権威のある会計資格の一つであり、会計、監査、税務、コンサルティングなど幅広い分野で活躍できます。この資格を取得することで、企業の財務報告の信頼性を確保するための専門知識とスキルを証明できます。
公認会計士は、経理部門だけでなく、経営企画や内部監査、コンサルティングファームでの業務など、多岐にわたるキャリアパスが開けます。また、独立して税理士業務やコンサルタントとして活躍することも可能です。高い専門性と倫理観を持つプロフェッショナルとして、企業の信頼を得ることができます。
公認会計士試験は、短答式試験と論文式試験の2段階に分かれており、会計学、監査論、企業法、租税法、経営学などの幅広い知識が問われます。合格率は令和5年で7.6%と低く、非常に難易度の高い試験ですが、その分取得した際の評価も高いです。公認会計士としてのキャリアは、多くの企業での信頼と評価を得るための大きな武器となります。
■USCPA
USCPA(米国公認会計士)は、国際的に認知されている会計資格であり、特に英語圏やグローバル企業でのキャリアに有利です。USCPAを取得することで、米国会計基準(US GAAP)に基づく財務報告のスキルを証明できます。
USCPAは、日本国内の企業でも、国際取引が多い企業や海外展開をしている企業で重宝されます。グローバルな視点での経理業務や財務分析が求められる場面で、その専門知識とスキルを発揮できます。また、海外の会計事務所やコンサルティングファームでのキャリアを目指す場合にも有利です。
USCPA試験は、各州の会計士試験委員会が管轄しており、受験資格や要件は州ごとに異なります。試験はAuditing and Attestation (AUD・監査と証明業務)、Business Environment and Concepts (BEC・企業経営環境と経営概念)、Financial Accounting and Reporting (FAR・財務会計)、Regulation (REG・諸法規)の4セクションで構成され、合格基準は各セクション75点以上です。試験は全て英語で行われるため、高い英語力も求められます。
日本の公認会計士試験は、働きながら勉強して取得するには非常にハードルが高いですが、USCPAはそれに比べるとハードルが低いため、働きながら勉強して取得する方が増えています。そのため、キャリアアップのために、自分のキャリアに箔をつけるには最適な資格といえます。さらに、USCPAと簿記1級を組み合わせれば、英語と会計知識をアピールするのに最適です。
まとめ
■キャリアアップのためには資格勉強は必須
経理のキャリアアップを目指すためには、資格勉強は欠かせません。資格を取得することで、専門知識とスキルを証明し、企業内での信頼を得ることができます。また、資格は自己成長の証でもあり、常に新しい知識や技術を身につけるためのモチベーションとなります。
■資格勉強だけに走るのも危険。スキルをバランスよく身につけよう
しかし、資格勉強だけに集中するのは危険です。資格はあくまで手段であり、実際の業務で活かせるスキルをバランスよく身につけることが重要です。経理力は、ハードスキル(会計知識やExcel能力など)とソフトスキル(コミュニケーション能力・問題解決能力など)、そして人間力(倫理観・信頼性など)の掛け算で成り立っています。

経理部門では、正確な会計処理やデータ分析能力だけでなく、チーム内外との円滑なコミュニケーションや、問題解決に向けた柔軟な思考が求められます。また、誠実さや信頼性は、経理業務において最も重要な要素の一つです。
資格を取得することは、キャリアアップの大きな一歩ですが、実務経験や人間力を同時に磨くことが、長期的なキャリア成功への鍵となります。資格と実務経験をバランスよく積み重ね、総合的な経理力を高めていきましょう!
執筆者:公認会計士 白井 敬祐
2011年公認会計士試験合格後、清和監査法人で監査業務に従事した後、新日本有限責任監査法人及び有限責任監査法人トーマツでIFRSアドバイザリー業務や研修講師業務に従事。その後、株式会社リクルートホールディングスで経理部に所属し、主に連結決算業務、開示資料作成業務や初年度のIFRS有価証券報告書作成リーダーを担当。
2021年7月に独立開業し、現在はCPA会計学院で会計士講座(財務会計理論)やCPAラーニングの講師を務め、近畿大学経営学部の非常勤講師として学生向けに会計士講座を開講。
会計を楽しく学べる「公認会計士YouTuberくろいちゃんねる」を運営(登録者数4.3万人(2024/10/11))。
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