経理人材に求められるスキルとは

皆様、こんにちは!公認会計士の白井敬祐です。

経理部は、企業規模によって仕事内容は大きく変わってくるというお話を『事業会社の経理部で働く〜力を活かせる現場①〜』の回でさせていただきましたが、経理部の基本的な役割としては「お金の管理」「経営の意思決定に役立つ情報提供」「決算書の作成」というものがあります。

それではその役割を果たすためには経理パーソンとしてどのようなスキルを持っておかなければならないのでしょうか?今回はそんなお話をお届けしたいと思います。

経理部に最低限必要なスキル


経理は専門職であり、様々な知識やスキルが必要とされます。前述のように企業の規模によって、経理部の仕事の内容は変わってきますが、仕事の内容によっては高度な知識やスキルが必要な場合もあります。

ですが、どんな規模の企業の経理パーソンにおいても、共通して最低限必要なスキルというものがあります。

それは、「簿記」「Excel」「コミュニケーション能力」です。この3つがないと経理パーソンとして、満足に仕事はできないですし、それ以降のキャリアアップは難しいでしょう。

この3つをちゃんと習得して、それを土台として、応用的なスキルを習得し、キャリアアップを狙うことになります。

応用的なスキルというのは様々ありますが、例えば、「ITスキル」「英語」「複雑な会計基準の知識」などです。これらのスキルについては次の項目『応用的なスキル』でお話しします。

この章では、経理部において必要最低限のスキルのそれぞれについてどういうことかを説明していきます。

■簿記

これがないとスタートにも立てないといってもよいでしょう。経理パーソンとして絶対的に必要な知識となります。一般的な経理部ならば簿記2級まであると望ましいですが、最低でも3級は必要です。

経理部の役割として「決算書の作成」がありますが、簿記はこの決算書を作成するまでの一連のプロセスのルールも定めています。

そのプロセスとは大まかに言うと仕訳入力→総勘定元帳・補助元帳への転記→試算表へ集計→決算書の作成というような流れです。

これは世界共通のルール「簿記の原則」にのっとってプロセスが進んでいき、決算書が作成されます。そのため経理部の最終ゴールでもある「決算書」ができるまでのプロセスとそのルールを知らないと経理部員として活躍することは当然ながらできません。

また、経理部員の会話は基本「簿記」の専門用語を使って会話しており、経理レベルが上がるにつれその内容も難易度が上がります。

例えば、「太郎くん、君がきった仕訳だと借方の勘定科目を雑費にしているがこれだと内容がわからないから消耗品費にしてくれるかな?貸方の勘定科目はあっているから、借方の勘定科目だけ雑費から消耗品費に振り替えておいて。」

さぁ、みなさんはこの会話を理解できますでしょうか?経理部員としてはこの会話を瞬時に理解して手を動かす必要がありますので、簿記は経理部員にとっては必須のスキルです。

Excel

経理の仕事≒Excelの仕事と言っても過言ではないくらい経理部員はExcelを触ります。Excelは経理部員の親友と言えるでしょう。経理部員は膨大な量のデータを取り扱います。それは取引量が増える大手企業になればなるほどデータ量は増えていきます。その膨大なデータ量の中から自分の欲しい一部分の情報だけを抜き出したり、集計したりするときに活躍するのがExcelです。

例えば、会計システムから一年分の仕訳データを抜き出して、5月分だけの売上の金額を知りたい場合に、Excelの表の中から5月分の売上の仕訳だけを目をこらして力技で抜き出していると日が暮れてしまいます。

そんなときは「関数」をつかって一気に5月分の売上だけを抜き出すことによって業務を効率的にこなしていきます。そして、日々そんなExcelと格闘しますので、素早いキーボード操作が求められます。理想はなるべくマウスに手を移動させずにキーボード上だけで操作を完結させることによってタイムロスを減らすことです。「マウスに手を移動させるだけなんて1秒もかからないじゃないか」とお思いかもしれませんが、それが毎日数百回も続いたらかなりのタイムロスです。そんなときに活躍するのが「ショートカットキー」です。

この「関数」と「ショートカットキー」は極めようと思ったらいくらでもできてしまい途方もない道のりになりますが、最低限覚えた方が良いものとして下記に一覧にしているものくらいは最低限覚えましょう。

著者も経理部で働いている中で気づいたらこの関数やショートカットしか使っていなかったなと思っているものを一覧化していますので参考にしてみてください。

経理部で最低限知っておくべきエクセルショートカット17選

経理部で最低限知っておくべきエクセル関数10選

これら最低限のものをおさえたうえで、発展的なものを覚えるようにしましょう。ショートカットは便利なものを知っていれば知っているほど早くなるので、実務をしながら徐々に覚えていくと良いでしょう。

ですが、関数に関しては、難しい関数を知っていれば評価されるかといえばそうではありません。難しい関数をコテコテに使ったExcelファイルを作ったとしても、それはただの自己満足でしかなく、他の人にとっては理解できないので、周りからは小難しいファイルを作ったなぁ…困るなぁ…と思われていることでしょう。そんな人が評価されますか?当然されませんよね?

エクセルの極意は、「いかにシンプルな作りにするか」です。簡単な関数を使って、シンプルなエクセルファイルにし、手入力を極力減らしてミスが生じにくいものを作成する人が評価されます。だって、その方が使いやすいし、引き継ぎするときも楽だしって感じですね。

いわばエクセルをいかにシンプルにできるかという「想像力」を働かせることが一番大事なので関数やショートカットを覚えることよりも、そのエクセルファイルで何がしたいのか?どうやればシンプルになるか?を考え抜くことが成長への近道です。

シンプルなExcel作成を心がける

■コミュニケーション能力

経理部は話さなくてもいい部署と思われがちですが、みなさんの想像以上に会話しています。忙しい会社だと日中はすべてミーティングなんてこともあります。

経理部で多く話す機会があるのは、営業部または事業部の方とのミーティングでの場面ではないかと思います。事業部の方々が新サービスをリリースしようと思っているが、新サービスの売上や費用はどの時点で計上すべきかなど会計処理の相談を受けたり、営業部の方が新しい契約を取ってきた際にも同様の相談を受けます。新サービスを作っている段階から経理部もミーティングに入って事業部と一緒に取引スキームを考えて採算管理しやすい方法などを模索したりもします。

このように経理部は単にパソコン作業のデスクワークだけではなく、日々ミーティングなどに出席し、経理部としての意見を言う必要がありますので、一定のコミュニケーション能力は必要とされます。ここで注意していただきたいのは、コミュニケーション能力とは、単に「流暢に話す」ことを指しているわけではありません。全然流暢に話す必要もなく、ノリが悪くても大丈夫です。

正しいコミュニケーション能力とは、相手とうまく良好な関係を築けるようなコミュニケーションができるスキルのことをいいます。流暢に話してノリが良くても、事業部が間違った方向に進んでいるのに止められなかったり、経理部に事務負担の多い提案を要求されているのにそれを受け入れてしまったりしているとそれは単に事業部にうまく利用されているだけであり、コミュニケーションがとれているとはいえません。

逆に一方的に経理部の要求だけを押し通すだけの人は、うまく事業部と関係を築けているとはいえず、コミュニケーションがとれているとはいえません。悪いことは悪いとつきかえしつつ、自分の意見だけを押し通すのではなくお互いの部署の妥協点を一緒に探り合うことができるようなコミュニケーションを取れる人こそがコミュニケーションスキルがある人と言えるでしょう。

正しいコミュニケーション能力

コミュニケーション能力はエクセルや簿記の知識と違って即席で習得できるようなものではありません。このスキルをつけるためには数年は必要でしょう。もともと話し上手な人や話が好きな人は比較的短期間で身につくかもしれませんが、そうでない方は割と時間がかかります。

そんな著者の私もコミュニケーションには苦労しましたが、10年たった今ようやく人並みに身についてきたような気がします。10年間会社員として働いてきて他人と良好な関係を築くためのコミュニケーションのコツは「恩の貸し借り」にあると思っています。人間誰しもが完璧ではなく、自分一人でできることは限られており、時にはミスもします。もし自分が困った時に助けてくれる人がいるかどうかは普段のコミュニケーションで良好な関係者が何人いるかによると思います。

よって、会社内で困った人がいれば率先して助けてあげるようにしましょう。そうして普段から「恩を貸す」ことで、もし自分が困った時に恩を返してもらえる人を増やしていきましょう。自分が困った時に協力者が多いことはそれだけで会社内でもアドバンテージです。同僚や上司、あるいは他部署の人からちょっとした相談事に乗る際に「私は詳しくないのでわかりません」と突き返すだけじゃなく「私は詳しくないのでわかりませんが、あの人が詳しかったと思うので聞いてみたらどうでしょう?」などと解決の糸口をつなぐだけでも感謝されます。このような恩の貸し借りの積み重ねを多方面で行えば多くの人と信頼関係を構築することができます。

コミュニケーション能力は喋る量ではなく、相手への貢献度の量だと思いますのでそれを意識して行えば自然と相手と良好な関係を築けていけることでしょう。

※恩を仇で返してくる人もいるので見極めは大切です(笑)
※もちろん簿記などの専門性がないと頼りにもされないのでその他のスキルもつけましょう。

コミュニケーションのコツ

応用的なスキル


ここでは前述のような土台となる必要最低限のスキルが習得できたとして、そこからさらに何を求めるかというお話をしていきます。

応用的なスキルは様々な種類があり、正解なようなものはありませんが、一般的に大手上場企業に就職したいと思ったときに何が必要かという目線で解説しようと思います。

大手上場企業に就職しようと思った時に何が必要かというと「複雑な会計基準の知識」「ITスキル」「英語」の3つだと思います。それでは、それぞれどういうことかひとつずつ解説していきましょう。

■複雑な会計基準の知識

一般的な経理ですと簿記2級程度の知識が必要とされますが、大手上場企業にいこうとすると簿記1級程度の知識は必要とされます。なぜなら、大手上場企業は、取引規模が大きく複雑な取引を行っていることが多いので、当該複雑な取引を規定している会計処理について様々な会計基準を深く学習する必要があるからです。

また、大手上場企業の親会社では、連結会計の知識も必要とされますので、複雑な連結会計の処理でも難なくこなせる必要があります。

さらに、上場企業になると連結キャッシュ・フロー計算書、連結包括利益計算書、IFRS…などなど複雑な決算書や国際的な会計基準までもが登場しますので、これらに対応できるような人材が大手上場企業には求められます。

■ITスキル

ITスキルが必要だ、とよく耳にすると思いますが、このITスキルという言葉は本当に不思議で、何か凄そうな響きがあり習得しなければならないと思われますが、実際は何をしたらいいかよくわからない、人によって解釈の幅のある言葉だと思います。

著者が考える経理パーソンにとってのITスキルとは「会計システム」を自在に操れる能力です。現代の会計業務はこの会計システムと切っても切り離せない存在であり、すべての取引の情報は会計システムを経由して決算書に数値化されます。

そのため、経理パーソンとしては、どこから数字が会計システムに入ってきて決算書に反映されるのかを理解するためには、業務フローと会計システムの仕組みを理解する必要があります。大手上場企業は、取引規模も大きく複雑であるので、業務フローや会計システムの仕組みも複雑なことが多いです。業務改善をするためには、これらを紐解いて会計システムを効率的に運用できるように仕組み化しなければならず、これができる人が評価されます。

よって、業務改善のできる経理パーソンになろうと思ったらITスキル(特に会計システムに詳しい)が必須であるといえるでしょう。

■英語

大手上場企業になると、子会社が国内だけでなく、海外にもあります。むしろ、海外の拠点の方が国内よりも稼いでいる場合もあります。このとき、日本の親会社として、海外の子会社たちに会計方針や会計処理の仕方などを伝えて、管理する必要があるのですが、その時のコミュニケーションとして必要になるのが英語です。

特に英語も会計もできる人材は本当に希少です。さきほどあげた複雑な会計基準など知らなくても簿記2級程度の知識と英語が堪能であれば、かなり重宝されるでしょう。

著者も大手上場企業で働いておりましたので、周りは普通に英語で会議をしたり、メールができる人たちばかりでした(著者は英語が壊滅的なレベルの代わりに、会計基準の知識で補填していたタイプですが…)。

多くの上場企業の募集条件でもTOEICなどのスコア800や900などで絞っており、そのことからみても英語が必要とされることがわかると思います。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

経理パーソンは、領収書の処理しかしない単純で簡単な作業しかしていないようなイメージが一般的にはあるかもしれませんが、大きな誤解です。

地味な作業はあるかもしれませんが、それ以上に専門職としてたくさんの高度な知識やスキルが必要とされます。まずは必要最低限である3つのスキル「簿記」「Excel」「コミュニケーション能力」の習得から始めましょう。

そして、その上で応用的なスキルを習得し、大手上場企業へのキャリアアップを図ることができます。上記で、紹介した応用的なスキルはほんの一部であり、紹介した3つをすべて習得する必要があるかというとそうではない場合もありますし、現実的に無理かと思います。

自分の強みが英語であれば、英語を強みとして会計基準の知識は必要最低限にするとか、ITスキルが強みであれば英語は必要最低限にするとか…この辺はキャリア戦略になるかと思いますが、自分の強みと弱みを分析しながら、自分に合った最適な道を選択し、楽しい経理パーソンキャリアを歩んでいってほしいと思います。

執筆者:公認会計士 白井 敬祐


2011年公認会計士試験合格後、清和監査法人で監査業務に従事した後、新日本有限責任監査法人及び有限責任監査法人トーマツでIFRSアドバイザリー業務や研修講師業務に従事。その後、株式会社リクルートホールディングスで経理部に所属し、主に連結決算業務、開示資料作成業務や初年度のIFRS有価証券報告書作成リーダーを担当。
2021年7月に独立開業し、現在はCPA会計学院で会計士講座(財務会計理論)やCPAラーニングの講師を務め、近畿大学経営学部の非常勤講師として学生向けに会計士講座を開講。
会計を楽しく学べる「公認会計士YouTuberくろいちゃんねる」を運営(登録者数4.3万人(2024/10/11))。


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