2020/11/05 10:00
税務上の低価法における棚卸資産の期末時価は、正味売却価額と解説されています。一方で、棚卸資産の評価に関する会計基準では、「正味売却価額」、「合理的に算定された価額(販売実績価額や契約により取り決められた売価)」、「処分見込価額」、「一定の回転期間を超える場合に規則的に切り下げた価額」、「再調達価額」などで評価することが定められています。それぞれの評価額は、税務上の時価(正味売却価額)として認められるのでしょうか?
「棚卸資産の評価に関する会計基準(以下、基準)」においては、従前の原価法と低価法の選択適用ではなく、『通常の販売目的で保有する棚卸資産は、取得原価をもって貸借対照表価額とし、期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とする(基準7)』こととされ、正味売却価額による低価法を適用することとされています。
法人税法においても、法人の事務負担を考慮して税務処理が会計基準と同様の処理になるように、従来は再調達価額とされていた低価法評価額を「事業年度終了の時における価額(時価)」によることとする改正が平成19年度に行われており、この「時価」については、会計基準における「正味売却価額」と同義と考えられています。
しかし、会計基準では、例えば製造業等一定の場合には正味売却価額によらず、再調達価額をもって貸借対照表価額とすることができる等規定されており(基準10)、一律に正味売却価額を適用する規定とはなっていません。
まず、会計基準で認められている「合理的に算定された価額(販売実績価額や契約により取り決められた売価)」及び「処分見込価額」、は、税務上の時価として認められると考えます。平成19年度税制改正の改正の趣旨は、会計上低価法を適用した評価額と税務上の低価法の評価額をイコールにし、申告調整の手間を排除することでした。その趣旨からすると、「販売実績価額や契約により取り決められた売価」並びに「処分見込価額」というのは、時価としての合理性もあり、税務上の時価としても許容されると思われます。
次に、「一定の回転期間を超える場合に規則的に切り下げた価額」については、税務上の時価としては認められないと考えます。この方法による評価額は、低価法の大前提である正味売却価額とは距離があると思われ、この場合は、税務上の評価損の事実として検討すべきものだと考えるからです。
最後に、「再調達価額」は、法人税基本通達5-2-11の逐条解説にある通り、税務上の時価として認められます。製造業などは、再調達原価の方が把握しやすいこと、正味売却価額との連動性が認められること、から、時価として差し支えないとされています。
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No.3623(令和2年9月28日号)DB限定解説