【コラム】取引相場のない株式の評価に関する見直し
[あいわ税理士法人コラム]

【コラム】取引相場のない株式の評価に関する見直し

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1.はじめに


会計検査院が令和2年度及び3年度の相続税及び贈与税の申告内容を検査した結果、「評価方式の違いで評価額に相当の乖離が生じている」との指摘を、当時の石破内閣に対して行ったことをきっかけに、現在、国税庁において取引相場のない株式の評価に関する有識者会議が行われています。

そこで本稿では、令和8年4月20日から同年6月4日までに行われた全3回の有識者会議の内容を中心に、取引相場のない株式の評価のうち、特に原則的評価方式に関する議論の方向性をご紹介いたします。なお、議論の状況次第では令和9年度税制改正大綱に盛り込まれ、早ければ令和10年1月から新たな評価方式になる見込みです。

 

2.現行の評価方式について


(1) 原則的評価方式の各評価方式

評価する会社の規模区分に応じて評価方式は以下の通りです。

評価会社の規模区分は、業種別に定められた総資産価額、従業員数及び取引金額の基準に基づき区分されます。
原則の評価方式は「◎」、選択可能な評価方式は「○」としています。

 

(2) 純資産価額方式

純資産価額方式の計算式は以下の通りです。


「38%控除」は、仮に会社を清算した場合に、純資産の相続税評価額と帳簿価額の差額(いわゆる「含み益」)に課せられる法人税相当額を38%とみなして控除することで、株主が受け取る実質的な価値へと株価を近づけるための措置です。

 

(3) 類似業種比準方式

類似業種比準方式では以下の変数①~④を掛け合わせて求めます。なお「類似業種」とは、事業内容が類似する業種目に属する上場会社群のことで、国税庁が取引相場のない株式の評価に用いるためにまとめたものです。

類似業種の株価
以下3つの比準要素の平均値
・評価会社の1株当たりの配当金額÷類似業種の1株当たりの配当金額
・評価会社の1株当たりの利益金額÷類似業種の1株当たりの利益金額
・評価会社の1株当たりの純資産価額÷類似業種の1株当たりの純資産価額
しんしゃく率
大会社は0.7、中会社は0.6、小会社は0.5
1株当たりの資本金等の額÷50円

 

(4)併用方式

併用方式は小会社と中会社に認められる評価方式で、以下の通りです。

小会社 …類似業種比準方式×50%+純資産価額方式×50%
中会社 …類似業種比準方式×Lの割合+純資産価額方式×(1-Lの割合)

Lの割合は中会社の規模に応じて、0.9、0.75、0.6に変動します。

 

3.類似業種比準方式が純資産価額方式よりも株価の評価が低くなる要因


冒頭の会計検査院の検査結果によれば、類似業種比準方式による株価の中央値は、純資産価額方式による株価の中央値の27.2%となっており、株価に相当の乖離が生じていることが指摘されました。

類似業種比準方式が純資産価額方式に比べて低くなる要因として以下が考えられます。

 

(1)しんしゃく率

類似業種の株価は上場会社の株価を参考にしています。取引相場のない株式の評価においては会社規模が大きいほど上場会社との類似性が強いと考え、しんしゃく率を0.7とし、評価会社の規模が小さくなるに従って、上場会社との類似性が希薄になっていくと考え、中会社は0.6、小会社は0.5としています。取引相場のない株式は上場会社と違い市場性がないため、上場会社の株価を参考にするのであれば、市場性がないことを株価の評価に織り込むために加えられた一種のディスカウントといえます。

 

(2) 評価会社の1株当たりの配当金額等の比準要素

類似業種比準方式では、評価会社の1株当たりの配当金額や、利益金額、純資産価額が類似業種の同じ要素に占める割合の平均値を計算に用います。このとき、例えば評価会社が意図的に配当を取りやめるなどして、平均値を低くすることで、株価を圧縮することができてしまいます。

このように類似業種比準方式は評価の仕組みにおいてディスカウント要素があることと、比準要素を恣意的に操作することで、株価を圧縮することができる点が類似業種比準方式と純資産価額方式の各株価に相当程度の乖離が生じている要因です。

 

4.評価方式の見直しの方向性


相続税及び贈与税における株式の評価は税法評価であり、税法では、見積もりの要素を排除した資産・負債によって純資産を捉えることが純資産価額方式の現在の考え方ですが、有識者会議においては「退職給付債務」や「資産除去債務」などのうち確実なものは適正な減価要素として控除することが検討されています。

また、類似業種比準方式については「配当・利益・会社規模等の操作」などによって株価を圧縮することができる評価方式が株価の中立性を損ねていることに着目し、「しんしゃく率」の見直しや、「3つの比準要素」の在り方について検討が進められています。

つまり類似業種比準方式と純資産価額方式における株価の乖離は、①純資産価額方式による株価が高すぎるという点と、②類似業種比準方式による株価は会社規模が大きいほど低くなる傾向にある点の両面から生じていると考えられています。

さらに類似業種比準方式は、評価会社の経営実態と直接関係しない外部環境(上場株式市場)に影響を受けて評価額が大きく左右され得る点で、評価制度の在り方自体を検討すべきという議論もなされています。

 

5.事業承継の観点


ここまで、現行評価方式の説明から、今後の評価方式の見直しの方向性について触れてきましたが、事業承継の観点から議論をまとめたいと思います。

まず、中小企業庁の調査によれば、中小企業は日本の企業数の99.7%であり、雇用の69.7%(3大都市圏を除くと約90%)を担っており、地域経済における中核的な存在です。したがって、取引相場のない株式の評価の議論は日本の企業のほとんどすべてに対して影響があると言えます。

そして、相続が発生し、又は贈与が行われるのは、多くの場合、会社の現オーナー兼経営者から次世代の後継者である子供に株式が承継される局面です。ここでは株式という財産の承継と同時に事業の承継も行われます。株式の評価額が高くなるほど重い税負担を課せられることになりますが、「相続税のために借金を抱えてまで会社を継ぐメリットがあるのかなと思ったが、後継者として事業を承継することが社会的な役割だと考えて事業を引き継いだ」という声も中小企業経営者からあがっています。

このように税負担が中小企業の事業承継に影響を与え、時には承継を諦めることがある他、重い税負担が事業資金を圧迫するなどの影響があることから、株価の評価と税負担の在り方を一体的に議論するように日本商工会議所や日本税理士会連合会などから意見が示されています。

 

6.おわりに


税負担の在り方としては、現在、事業承継税制(特例措置)によって、相続及び贈与による株式承継の税負担を猶予したうえで免除するという制度がありますが、手続き面の負担や、税負担の免除等と引き換えに、後継者が亡くなるまで経営に縛られてしまうといった制約の他、要件に違反すると猶予されていた税金の一括納付に加えて利子税の支払いも発生するという点でリスクが高く、実際には普及が進んでいません。

なお、特例措置の適用期限は令和9年12月31日となっておりますが、延⾧されるかどうかは未定です。

取引相場のない株式の評価の議論がなされるとともに、事業承継税制の見直し・延⾧を通じて事業承継における税負担の在り方も見直されることで、適切な株式評価方式の策定と、多くの中小企業の成⾧や永続に資する税負担の制度が作られることを期待します。

 

 


 

筆者:兼古 督士

 

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