【社団・財団法人】個人が公益法人等へ財産を寄附した場合の課税関係
[あいわ税理士法人 News Letter 2026.10]
2026/10/14
【社団・財団法人】個人が公益法人等へ財産を寄附した場合の課税関係
1.はじめに
本ニュースレターではこれまで、企業が自己株式を活用して企業財団を設立するスキームや、社団法人・財団法人を利用した租税回避を防止するための規定(相続税法65条・66条)など、主として財産を受け入れる法人側の論点を取り上げてきました。
一方、財団法人の設立や基本財産の充実に際しては、創業者やオーナー個人が自ら保有する自社株式や不動産を寄附するケースも多く見られます。この場合、寄附をした個人は対価を一切受け取っていないにもかかわらず所得税が課税され得るという点に注意が必要であり、この課税を回避するために設けられているのが租税特別措置法(以下「措置法」)40条の非課税承認制度です。
本稿では、同制度の概要と、実務上特に問題となりやすい株式の寄附に関する留意点を整理するとともに、令和8年4月に施行された新公益信託制度への適用についても確認します。
2.原則的な取扱い みなし譲渡所得課税
個人が法人に対して財産の贈与等をした場合には、その時における時価により譲渡があったものとみなされ、その財産の含み益に対して譲渡所得等として所得税が課税されます(所得税法59条1項1号)。財団法人のような持分の定めのない法人への寄附も「法人に対する贈与」に該当するため、この規定の適用対象となります。
例えば、取得費が僅少な自社株式(時価10億円)を個人が財団法人に寄附した場合、寄附者には約10億円の譲渡所得(約2億円の所得税等。令和9年分以後はミニマムタックスの強化により約3億円の所得税等。)が生じることとなり、無償で財産を手放した個人に多額の納税義務が発生するため、寄附の実行そのものが困難となりかねません。
そこで、公益の増進に寄与する寄附を促進する観点から、国税庁⾧官の承認を受けることを条件として、このみなし譲渡課税を行わないこととする特例が設けられています(措置法40条1項後段)。なお、国又は地方公共団体に対する贈与・遺贈については、承認を要することなく当然に非課税とされます(同項前段)。
3.措置法40条の非課税承認 一般特例と承認特例
(1)対象となる法人
措置法40条1項後段の対象となる「公益法人等」には、公益社団法人・公益財団法人のほか、特定一般法人(非営利性が徹底された非営利型の一般社団法人・一般財団法人)、社会福祉法人、学校法人、認定NPO法人等が含まれます。
(2)一般特例
一般特例は、上記のすべての公益法人等への寄附に適用され、次の3要件を満たす必要があります(措置法施行令25条の17第5項)。
| ① | 教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与すること |
| ② | 寄附財産(代替資産を含みます)が、寄附があった日から2年を経過する日までの期間内に、公益目的事業の用に直接供され、又は供される見込みであること |
| ➂ | 寄附者等の所得税又は相続税・贈与税の負担を不当に減少させる結果とならないと認められること |
③については、次のすべてを満たす場合に要件を充足するものとされています(同条6項1号)。
| ・ | 役員等に占める親族等の割合が、それぞれ3分の1以下であること |
| ・ | 寄附者、役員等又はこれらの親族等に対して特別の利益を与えないこと |
| ・ | 解散時の残余財産が国若しくは地方公共団体又は他の公益法人等に帰属する旨の定款の定めがあること |
| ・ | 法令に違反する事実その他公益に反する事実がないこと |
| ・ | 寄附により取得する株式について、その公益法人等が有することとなる当該発行法人の株式が発行済株式の総数の2分の1を超えないこと |
(3)承認特例
承認特例は、対象法人を公益社団法人・公益財団法人、国立大学法人等、学校法人、社会福祉法人、認定NPO法人等に限定する代わりに、承認要件を簡素化したものです(措置法施行令25条の17第7項)。
| ① | 寄附者が、その法人の役員等及び社員並びにこれらの者の親族等に該当しないこと |
| ② | 寄附財産が基金又は基本金に組み入れる方法(特定管理方法)により管理されること、又は公益社団法人・公益財団法人においては不可欠特定財産とする旨の定款の定めを設けること |
| ➂ | 理事会等において、寄附の申出を受け入れること及び②の方法により管理することが決定されていること |
承認特例では、申請書の提出があった日から1か月(特定国立大学法人等以外の法人に対する株式等の寄附である場合には3か月)以内に承認又は不承認の決定がないときは、承認があったものとみなされます(同条8項2号)。承認時期の見通しを立てやすい点は、実務上の大きなメリットといえます。
(4)申請手続
承認申請書は、原則として贈与又は遺贈があった日から4か月以内(その期間の経過前に所得税の確定申告期限が到来する場合には当該申告期限まで)に、寄附者の納税地の所轄税務署⾧を経由して国税庁⾧官に提出します(措置法施行令25条の17第1項)。期限を徒過すると特例の適用を受けられないため、寄附のスケジュールを設計する段階から申請準備を織り込んでおく必要があります。
4.株式を寄附する場合の実務上の留意点
自社株式を財団法人に寄附する場合、一般特例と承認特例のいずれによるかで、実務上の制約が大きく異なります。
一般特例による場合には、上記3(2)③のとおり、寄附後にその公益認定法人等が保有することとなる株式が(その会社の)発行済株式の総数の2分の1以下でなければなりません。また、寄附財産を2年以内に公益目的事業の用に直接供することが求められますが、株式のようにその財産そのものを公益目的事業の用に供することができないものについては、各年の配当金等その財産から生ずる果実の全部が公益目的事業の用に供されるかどうかにより判定するものとされています(措置法40条関係通達13ただし書)。したがって、株式を保有し続けてその配当を活動原資とする形態も認められますが、配当金の全部を公益目的事業に充てる必要があることのほか、毎年定期的に配当金が生じない株式にはこの取扱いの適用がないことに留意が必要です。
一方、承認特例による場合には、2分の1要件は課されず、寄附を受けた株式を基金に組み入れて管理すれば足りるため、株式そのものを公益目的事業の用に直接供する必要はありません(措置法施行令25条の17第7項)。ただし、承認特例は寄附者がその法人の役員等やその親族等に該当しないことが前提であるため、創業者やオーナーが自ら理事に就任している財団法人への寄附では利用できません。また、対象法人に特定一般法人(非営利型の一般社団法人・一般財団法人)が含まれていないため、非営利型の一般財団法人への寄附も対象外となります。
5.非課税承認の取消しと事後管理の必要性
非課税承認は寄附の時点で完結するものではなく、その後の財産の管理・使用状況が継続的に問われる制度になっています。
寄附財産が2年を経過する日までの期間内に公益目的事業の用に直接供されなかった場合等には、国税庁⾧官は承認を取り消すことができ、このときには、その承認が取り消された時において贈与又は遺贈があったものとみなされ、寄附者に対して所得税が課税されます(措置法40条2項)。
他方、寄附財産がいったん公益目的事業の用に供された後にその用に供されなくなった場合や、不当減少要件に該当しないこととなった場合等には、その公益法人等を寄附をした個人とみなして、当該公益法人等に対して所得税が課税されます(同条3項)。寄附者ではなく法人側に納税義務が生じる点が特徴的であり、法人の運営実務における継続的な管理が不可欠となります。
また、承認特例の適用を受けた場合には、寄附者は、特定管理方法による管理の状況等を明らかにする書類を(寄附を受けた公益法人等の寄附を受けた日の属する)事業年度終了の日から3か月以内に提出する必要があり、これを怠ること自体が取消事由とされています(措置法施行令25条の17第9項、10項3号)。
なお、寄附財産を譲渡した場合であっても、その譲渡による収入金額の全部に相当する金額をもって買換資産を取得し、所定の届出を行うこと等により非課税承認を継続することができる特例(買換資産・特定買換資産の特例)が設けられています(措置法40条5項)。
6.新公益信託制度への適用と通達改正
令和6年度税制改正では、公益信託に関する法律の制定に伴い、措置法40条の適用対象に公益信託の受託者が追加されました。これにより、令和8年4月1日以後、個人が公益信託の信託財産とするために財産を拠出する場合についても、国税庁⾧官の承認を受けることでみなし譲渡課税が非課税となります。
これを受けて国税庁は、令和8年6月25日付で措置法40条関係通達の一部改正を行い、同年7月28日付でそのあらまし(資産課税課情報第13号)を公表しています。主な内容は次のとおりです。
| ・ | 信託行為の定めるところにより適正に運営される公益信託であるかどうかの判定(運営委員会等の設置、その構成員に占める親族等の割合等) |
| ・ | 受託者等が特別の利益を与えることの意義(信託財産の無償利用、金銭の貸付け、過大な報酬の支払等) |
| ・ | 主宰受託者の意義 |
| ・ | 公益信託への拠出における「贈与又は遺贈のあった日」の考え方(信託契約により設定する場合には、契約締結の日と公益信託の認可の日のいずれか遅い日とする等) |
公益信託は、公益財団法人と比較して一般に設立・運営の負担が小さい一方、含み益のある財産を拠出する場合の課税上の手当ては公益法人等への寄附と同様の枠組みで整理されています。前号(2026年4月号)で取り上げた新公益信託制度の活用を検討される際には、この税務面の取扱いについても併せて確認が必要です。
7.最後に
措置法40条の非課税承認は、財団法人や公益信託への財産の寄附を促進するうえで不可欠な制度ですが、非課税措置の適用を継続的に受けるためには、承認を得ることがゴールではなく、寄附後の財産管理と法人のガバナンスが継続的に問われる制度でもあります。
とりわけ、承認特例を利用できるか否かは、公益認定を取得するかどうか(特定一般法人では承認特例を適用できない)、寄附者が役員等に就任するかどうかといった設立時の設計に大きく依存します。また、持分の定めのない法人への財産の移転については、本稿で扱った所得税のみなし譲渡課税のほか、受贈側における相続税法66条4項の不当減少課税(2023年6月号参照)も併せて検討する必要があります。
財団の設立や基本財産の充実を検討される際には、寄附する財産の種類、寄附者と法人との関係、法人の形態と機関設計を一体のものとして設計し、早い段階から税務上の取扱いを確認しておくことが重要であると考えられます。
■本ニュースレターについて
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