経営の意思決定に貢献する
1.資料作成の早期化は経営者の大いなる期待
経理部門で仕事をしていて、経営陣から期待をされているかどうか?という問いかけがあったなら、「大いに期待をされている」というのが回答だと思います。
経営陣として数字に明るい人材を輩出している経理部門には多くのアドバイスを求めたいし、求めているという実態はあります。
ただ、現場の作業に追われていて、なかなか経営者の期待に応えられていないという経理部門の方も多いかもしれません。
実務の現場では、
●月次決算を締めるので精一杯
●依頼された管理会計の資料は作成するけど分析までには至らない
●経理部門の人手が足りなくて過重労働となっていて、ワークライフバランスが良いとは言えない
●作業効率が悪く生産性が低いため、人事評価でも良い評価とならず、賃金もあまり上がらない
といったことで悶々としている方もいるのではないでしょうか。
以下の図にある“現実”を脱却して“理想”の形に持っていこうとしている会社や既に理想の形に到達している会社もあります。
理想の形に近づくための一歩として、わかりやすいテーマは月次決算を含めた各種資料作成の早期化でしょう。
経営者は、意思決定をしなければならない局面が多く、その際に必要なのは判断材料となるデータです。そこで経理部門の出番となります。いつも早く資料の作成や分析をしていれば、経理部門への信頼は高まるでしょうし、社内でのプレゼンスも高まります。
そのためにも、作業効率をいかにあげていくのかが重要となってくるのです。
2.意思決定の加速化にはシステム活用、マスタ活用
経理DXの活用はここでも威力を発揮します。
システムの活用を通じて、
“一次入力データを活用し、二重入力がなくなる”
“他システムのデータを活用したAPI連携でそもそも入力が不要となる”
“AI-OCR機能を活用して手入力が不要となる”
“入金消込を過去の実績に基づいて自動で消込を行う”
といったことが実現し、今まで経理のスタッフが経理知識を駆使して手作業で行っていた作業がシステムに置き換わることで大幅に作業時間の圧縮が可能となります。
さらにRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)と言われる業務プロセスの自動化ソフトを活用することで、人の作業時間を縮減することができます。
“会計システムの所定のメニューを自動実行して、管理会計資料を自動で作成する”
“定期的に経理システムやインターネット上から必要な情報をダウンロードさせる”
“必要な印刷物や出力データを自動実行させて出力あるいは格納させる”
等々、各社で様々な単純業務がRPAに置き換えられています。
ここで自動実行して管理会計の資料等を作成することもシステムに置き換えられると記載していますが、この際に留意をしなければならないのは、集計を効率的に行うためにマスタの設定を適切に実施することです。この点については、『経理DXを上手に導入するために』で述べたとおりです。
3.経理部門のプレゼンスを高める経理DX
最近では、会社が様々な活動を行った際に、得られた膨大なデータを活用、分析して経営の意思決定に役立てるためにBIツールと呼ばれるシステムを活用している会社もあります。BIとはBusiness Intelligence(ビジネス・インテリジェンス)を省略した略称です。
BIツールでは、財務データ、非財務データともに利用されますが、経理部門が管理している財務データとBIツールとの連携を図ることで全社の経営の意思決定に役立つのです。
当然、月次決算等がスピーディーに完了すれば、データの連携も速やかに行うことができるので、経営陣のニーズと合致します。
そして、ルーティーンの作業時間が大幅に削減できると、経営陣が求めている業務に時間を割くことが可能となります。
今までは過去の実績をとりまとめることが業務の中心だった場合、未来にまつわる業務に関与できる時間が増えます。
例えば、管理会計に関する資料を作成するだけで終わっていたようであれば、それを分析時間に充てることができるでしょう。
また、成長投資を継続的に実施している会社であれば企業買収の検討を定期的に行っています。この際に、企業価値の算定や財務・税務・労務・ビジネスの観点からデューデリジェンスに関与することで、適切な企業買収を行うことに貢献できます。
外部にデューデリジェンスを委託するケースも多いですが、外部が作成するレポート等を正しく読み取る力がないと正しい判断を下すことはできないので、ある程度自社で実施する能力をつけることも必要です。
また、企業買収をする場合に、重要なのは買収後に当初の予定通り成長軌道に乗せることです。
買収された会社のバックオフィス部門の機能が低いケースも少なくなく、その場合は、経理部門が買収後のPMIと言われるプロセスでの活躍が期待されます。
PMIとはPost Merger Integration(ポスト・マージャー・インテグレーション)の略称で、企業買収後の統合効果を最大限にするための統合プロセスのことですが、バックオフィス部門の機能を強化してビジネスを安定化させることも、PMIのひとつです。
M&Aを活用するのではなく、オーガニックグロースで成長を推進する会社であれば、ビジネスをローンチする前に事業部門とリスク分析や資金調達について検討をしておくことも重要な役割と言えるでしょう。
新会社の設立を伴うのであれば、バックオフィス部門を構築することも業務の一つであり、今の時代に適合した生産性の高いバックオフィス部門を構築することを期待されます。その際に、今まで経理DXを推進してきた中で培われた能力を発揮することができるのです。
4.業務効率化だけと考えるのはもったいない
経理DXというと、業務効率が上がる点に脚光を浴びることが多いですが、重要なのはその先です。
業務効率が上がって、生み出された時間が生じたときこそ経理DXが成功したかどうかの真価が問われます。
生み出された時間を付加価値の高い業務にあて、経営者の参謀的な役割を果たすことができれば経理DXが成功したと言えるでしょう。
また、経理部門の中には、ルーティーン業務から脱して、より難易度の高い業務にかかわりたいと考えているスタッフも多いです。そのようなスタッフにとって、経理DXの結果、より付加価値の高い業務に携わることができたのであれば、やりがいや成長につながるでしょう。
人的資本経営が叫ばれる昨今、経理DXはこれらの新たな経営手法とも親和性があるのです。
執筆者:公認会計士/税理士 中尾 篤史
CSアカウンティング株式会社 代表取締役社長
日本公認会計士協会 租税政策検討専門委員会 専門研究員
上場企業グループから中堅・中小企業まで幅広く経理・人事のアウトソーシング・コンサルティング業務に従事。
著書に『経理業務のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)活用のススメ~新しい経理部門が見えてくる50のポイント~』、『DX時代の経理部門の働き方改革のススメ』、『瞬殺!法人税申告書の見方』(税務研究会出版局)、 『正確な決算を早くラクに実現する経理の技30』、 『BPOの導入で会社の経理は軽くて強くなる』(共著)、 『対話式で気がついたら決算書が作れるようになる本』(共著)、 『経理・財務お仕事マニュアル入門編』(以上、税務経理協会)、 『たった3つの公式で「決算書」がスッキリわかる』(宝島社)、 『経理・財務スキル検定[FASS]テキスト&問題集』(日本能率協会マネジメントセンター)、 『明快図解 節約法人税のしくみ』(共著、千舷社)など多数。
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