【コラム】超富裕層に対する課税強化措置の見直し
[あいわ税理士法人コラム]
2026/09/02
【コラム】超富裕層に対する課税強化措置の見直し
1.はじめに
日本の所得税は原則として超過累進課税制度を採用しており、所得が高くなるほど税率も高くなります(最高45%)。
しかし、配当所得や株式等・⾧期保有の不動産の譲渡所得は税率15%による分離課税とされていることから、これらの資産所得(資産を保有することで得られる所得)の割合が高いほど実質的な税負担率が下がるという事象が生じていました。一般的に富裕層ほど多額の資産所得を持つため、税負担が公平ではないという指摘がされていました。
これを是正するため、極めて高い水準の所得に対し最低限の税負担を求める措置が令和5年度税制改正で導入されました。更に令和8年度税制改正での見直しにより、特別控除額の引き下げ、税率の引き上げが行われ、令和9年分以後の所得税に適用されることとなりました。
2.計算方法
次の①より②が大きい場合、その差額分を通常の所得税に追加して納税します。
① 基準所得税額(※2)
② (基準所得金額(※1)-1.65億円)×30%(注)
(注)改正前はそれぞれ「3.3億円」「22.5%」

3.本措置が適用された場合の影響額
例として、合計所得金額(例:給与所得)1億円、申告不要制度に係る所得(例:上場株式の譲渡所得)10億円の場合の追加納税額を試算すると以下の通りです。

① 合計所得金額1億円×45%(概算計算)+申告不要制度所得10億円×15%
② (基準所得金額11億円-1.65億円)×30%
∴①<②より、0.85 億円の追加納税額が発生します。
しかしながら、令和8年度改正前の判定では、
②’ (11億円-3.3億円)×22.5%=1.73億円<①
となり、本措置は適用されませんでした。今回の改正により、令和9年分の所得税から適用対象者が増えることが見込まれます。
なお、改正後の本措置が適用される所得の目安は、株式譲渡所得のみとした場合では3.3億円超(改正前では10億円超)となります。
① 基準所得税額:3.3億円×15%=0.495億円
② (3.3億円-1.65億円)×30%=0.495億円
∴①<②ではないため適用なし。ただし、所得が3.3億円を超えると①<②となり、適用あり。
4.影響を受けやすい納税者
例えば、「相続・事業承継・M&A等により、多額の不動産譲渡・株式譲渡が見込まれる場合」、「特定口座(源泉徴収あり)で生じた株式譲渡所得、配当所得について申告不要を選択し、かつ、その金額が多額である場合」には、本措置により追加納税が生じる可能性があるため、事前の試算により影響額を把握しておくことが重要です。
「可能であるならば」という前提が付きますが、本年(令和8年)中に譲渡する、適用判定は暦年単位で行うことから、所得の種類によっては年度を分散して生じさせること(実行年度の選択)も検討対象にあげられます。
5.おわりに
超富裕層に対する課税強化措置そのものは令和7年分の所得税から適用されており、国税庁の公式資料によると、令和7年分確定申告で本措置は744件の適用があり、申告納税額は4,077億円(加算された額を含む申告納税額の合計額)とされています。
分離課税が適用される所得(資産)は、一般的には、法人よりも個人で保有する方が課税上有利であったわけですが、追加課税の税率は30%であり、これに個人住民税(5%~)を合わせると、その税負担率は35%を超え、法人における税負担率よりも高くなることもあり得ます。この点なども踏まえた中⾧期的な検討が求められます。
筆者:中井 健治
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