第3回 AIにも対抗できる効果的なチェックの仕方
~ロジックチェックとストーリーチェック~

2021年10月25日

 

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3つのシリーズに分けて、中小企業の管理会計について話をしてきました。このコラムのまとめとして、「正しさ」を確保するためのチェックの方法について紹介します。ここで、「正しさ」とは、平たい言葉でいえば、「データや資料を利用して問題がない」状態と言い換えることができます。そこで、資料提出前にどのようなことをチェックするべきなのか、チェックの視点を考えてみましょう。

 

2つのチェック方法、「ロジックチェック」と「ストーリーチェック」。

私たちが何か数字を作ったときに、実はしなくてはいけないチェックというのが2つあります。

●ロジックチェック
●ストーリーチェック

 

1つはロジックチェックです。これは何かというと、金額が正確なのかどうかという視点で見ることです。具体的には、転記の正確性、計算の正確性の確認などから構成されます。例えば、転記ミスにより売上の数字を1ケタ多く入力してしまっているとか、集計された表がなんだかおかしい、といった事柄がこれにあたります。経理の方はおそらく実感がわく内容かなと思います。

 

一方で、もう1つ、ストーリーチェックというものがあります。これはちょっと馴染みがない方もいらっしゃるのではないでしょうか。思い浮かべていただきたいのは、前期比較や予算比較での増減分析のときに書くコメントがこれに当たります。

当期の数字が締まりました。前期比ですごく差が出ています。その差が出ているのが正しいかどうかを確認するのがロジックチェックです。つまり、そもそも当期の数字が正しいかどうかを見るのがロジックチェック。それを前提として、なぜそうなっているのか、この数字が意味しているものは何か、というのを確認するのが、ストーリーチェックです。このため、データを利用する人が、有益な情報が得られるということを確かめるための見方といえます。

例えば、前期との比較で売掛金が増えていた場合に、回収が遅れているわけではないけど毎月の売上が右肩上がりのため売掛金が増えてますという感じです。あるいは、〇〇商事の入金が遅れていて売掛金が増えていますということもあるかもしれません。同じ売掛金の増加でも、理由によってこの後のアクションは変わってきますよね。

 

ロジックチェックとストーリーチェック、どちらが経営者にとって大事でしょうか。管理会計は、経営者のための会計ということで、経営者の視点から考えてみましょう。もちろん正しくないと駄目ではあるのですが、やはりどちらかというと、昨今経理や会計事務所の方に望まれているのは、このストーリーチェックのほうなんですよね。

要は、何なのか。なんでこうなったのか、もう少し一歩二歩深掘りして説明してもらいたいというニーズを、経営者の方はお持ちなのです。なので、皆さんもロジックチェックは慣れているでしょうから、ぜひこのストーリーチェックの観点をやや強めに持たれると、ちょうど良いくらいでしょう。

 

 

チェックの順番は!?ロジックチェック、ストーリーチェックの順で。

また、実務ではやる順番が大事です。まずロジックチェック、次にストーリーチェックの順で行うように徹底しましょう。なぜなら、間違った数字に対して、背景がどうのこうの考えても、結局、「あ、すみません、数字違ってました」では、もったいないですよね。手戻りになってしまいます。ですので、順番としては、ロジックチェックで理論的な正しさを確認した上で、ストーリーチェックで感覚的な正しさを確認することが大切です。この順番でやっていただくことで、最も手戻りが減ります。

 

 

ここで出てきた「手戻り」というのは、業務改善の大事なポイントの1つでもあるのです。手戻りとは、①担当者が上司に数字や書類を提出して、②チェックで間違いなどがあって担当者に戻ってきて、③また直して上司に出してというループのことです。なるべくこのループの回数が少ないほうが仕事は早く終わりますよね。なので、今申し上げたとおり、ロジックチェックを先にやって、あとでストーリーチェックという順番を大事にしないと、どうしてもこのループが多くなってしまいます。ぜひこれも頭の片隅に入れておいてください。

 

 

 

時間がないときは、取り敢えずストーリーチェックだけでも。

実務では時間が十分じゃないときがあります。そのときに全くチェック無しで行くのではなく、例えばストーリーチェックだけはするというのもアリだと考えます。自分の認識と、数値や書類のストーリーが合っていれば、大きな方向性だけは外していないという安心感を持って、打合せに望むことができます。

もちろん、担当者が正確性のためのロジックチェックをしているのを前提として考えて下さい。それでも、上司や同僚が担当者の資料を使う場合のチェックとして、このように合わせ技で状況に応じて使えるように、技を幾つか持っておく。そのあたりを押さえておいていただくのがいいかなと思います。

 

 

ストーリーチェックは、AIに対抗できる。

私たちの仕事はデータを正確に作成することはもちろんですが、その上で役に立つ経営情報を届けることです。そのためには、「ロジックチェック」だけでなく、「ストーリーチェック」が必須といえます。経理の仕事を奪うと騒がれているAIは、ロジックチェックが得意ですが、ストーリーチェックはまだまだ難しいようです。AIは相手に合わせたカスタマイズは得意でないため、コミュニケーション領域への進出は難しいと言われています。経理の仕事の中にも、この「ストーリーチェック」のようにAIに代替できない仕事は多く存在しますので、ぜひそういったスキルを積極的に身に付けていってください。

 

 

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公認会計士・税理士林健太郎

税理士法人ベルダ代表社員
監査法人トーマツ(当時)、辻・本郷税理士法人を経て、2011年に地元で独立開業し、広く四国・関西エリアで活躍中。管理会計を活用したアドバイスを中小企業の経営者に提供するとともに、大学院でも管理会計を教えている。「中小企業での会計の活用」を目指す。趣味は地元サッカーチーム、徳島ヴォルティスの応援。徳島県鳴門市出身。

» 事務所HP:http://www.kh-kaikei.com/

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公認会計士梅澤真由美

管理会計ラボ㈱代表取締役
通称「管理会計のマドンナ」。監査法人トーマツ(当時)を経て、日本マクドナルド㈱とウォルト・ディズニー・ジャパン㈱にて、経理業務などに10年間従事。「経理のためのエクセル基本作法と活用戦略がわかる本」(税務研究会)など著書多数。「つくる会計から、つかう会計へ」がモットー。趣味は、オンラインヨガと「あつまれどうぶつの森」。静岡県沼津市出身。

» 会社HP:http://www.accountinglabo.com/

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