免税事業者との取引と独禁法・下請法
~最終チェック!消費税インボイス制度の実務

2023年2月2日

 

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( 1 )免税事業者がインボイス制度に与える影響


適格請求書発行事業者に登録するには、課税事業者にならなければならず、インボイス制度導入後も免税事業者であり続けたいということになると売上先(相手先)が仕入税額控除を行うことができないため影響を生じる可能性があります。

ただし、売上先(仕入側)が消費者、免税事業者、簡易課税制度を適用している事業者の場合には、免税事業者(売上側)と取引を行う場合であっても影響は生じません。

なお、免税事業者から行った課税仕入れについては、仕入税額控除の経過措置として、施行日以後3 年間は消費税相当額の8 割、その後の3年間は5 割を仕入税額控除として認められることとなります。

また、免税事業者等の小規模事業者は、売上先の事業者と比べて取引条件についての情報量や交渉力の面で格差があり、取引条件が一方的に不利になりやすい場合も考えられます。このような状況の中で、売上先の意向で取引条件が見直される場合、その方法や内容によっては、売上先は独占禁止法又は下請法若しくは建設業法により問題となる可能性があるので注意が必要です。

インボイス制度の実施を契機として、売上先から取引条件の見直しについて相談があった場合は、免税事業者も自らの仕入れに係る消費税を負担していることを踏まえつつ、売上先と交渉をするなど対応を検討しなければなりません。

インボイス制度導入後における免税事業者と取引する場合のポイントは、以下のようになります。

① 免税事業者側のポイント

イ 課税事業者の選択について
免税事業者は、インボイス制度導入後においても免税事業者のままにするのか、売上先(相手先)の状況又は要請により課税事業者を選択し適格請求書発行事業者となるかについて検討しなければなりません。課税事業者を選択した場合には、消費税の申告及び納付義務が生じることとなります。
なお、免税事業者が課税事業者(簡易課税制度を選択している場合を含む)を選択したとしても適格請求書(インボイス)を発行するには、所轄税務署長へ適格請求書発行事業者の登録申請が必要となります。また、適格請求書発行事業者は、発行する適格請求書が記載事項を満たしていなければならず様式の変更が必要となります。さらに、適格請求書発行事業者は、売上先への適格請求書(インボイス)の交付義務及びその写しの保存義務が生じることとなります。

ロ 簡易課税制度の選択について
インボイス制度導入にあたって、免税事業者が課税事業者を選択した場合、消費税の申告及び納税等が必要となりますが、基準期間における課税売上高が5,000万円以下の事業者は前課税期間の末日までに簡易課税制度選択届出書を提出することで簡易課税制度を選択適用することができます。
なお、免税事業者が適格請求書発行事業者の登録をする際に登録日から課税事業者となる経過措置規定を適用する場合には、その登録日の属する課税期間中に簡易課税制度選択届出書を提出すれば、その課税期間から簡易課税制度が適用されます(前課税期間の末日ではない)。
簡易課税制度は、売上げに係る消費税額にみなし仕入率を乗じることにより仕入税額を計算することとなりますので、仕入れの際にインボイスを受け取り、それを保存する必要はありません。

ハ 免税事業者が行う課税仕入れについて
免税事業者の場合には、そもそも申告義務がないことから、課税仕入れとなる取引について、相手先から受け取る請求書が適格請求書かどうかは関係ありません。

② 課税事業者側のポイント

イ 免税事業者からの課税仕入れについて
課税事業者であっても簡易課税制度を選択している場合には、仕入税額控除につき課税売上げに係る消費税額を基に計算することとなっており、適格請求書等の保存は適用要件となっていないことから免税事業者からの課税仕入れであっても消費税の計算には、影響がありません。
簡易課税制度を選択していない場合には、原則として、免税事業者からの課税仕入れについて仕入税額控除を適用できないこととなっていますが、経過措置規定によりインボイス制度の施行日以後3 年間は消費税相当額の8 割の控除が認められています(全額は控除できないので注意が必要)。

ロ 免税事業者へ支払う消費税について
消費税の性質上、免税事業者も自らの仕入れに係る消費税を負担しており、その分は免税事業者が行う取引価格(売上げ)に転嫁する必要があることから、免税事業者が請求書等で消費税を請求すること自体は、法的に違反になることはなく、その請求書を受け取った場合には、消費税も含めて支払う必要があります。
相手先が免税事業者だからといって一方的に消費税を支払わなければ、独占禁止法又は下請法若しくは建設業法により問題となる可能性があります。

ハ 免税事業者との事前交渉
課税事業者が継続取引をしている取引先(仕入先)に対して事前に適格請求書発行事業者の申請を行っているかどうかを確認すること自体は、何ら問題ありません。
したがって、免税事業者の可能性がある取引先に対しては、事前に確認した上で取引条件を見直すなどの対応を進めておく必要があります。
例えば、免税事業者との取引について、現在の内容が「税抜」なのか「税込」なのかといった価格の設定が曖昧な場合には、消費税相当額の支払いの有無について、互いに認識の齟齬がないよう確認しておかなければなりません。
なお、免税事業者との取引条件の見直しについて、免税事業者側が一方的に不利になるような状況での変更については、独占禁止法又は下請法若しくは建設業法により問題となる可能性があるので注意が必要です。
また、免税事業者である仕入先との取引条件を見直すことが適当でない場合には、仕入税額控除額が減少する分について、原材料費や諸経費等の他のコストとあわせ、販売価格等に転嫁することが可能か、自らの売上先等と相談することも考えられます。

ニ 賃貸借契約における賃貸人について
対象物件が居住用ではない場合の賃貸借契約において、賃貸人が免税事業者である場合には、賃借人は、その賃料に係る消費税額に仕入税額控除ができなくなる可能性があるので注意が必要です。
したがって、賃貸人が適格請求書発行事業者に該当するか否かについて事前に確認しておく必要があります。

 

 

( 2 )独占禁止法・下請法の取扱い


事業者がどのような条件で取引するかについては、基本的に、取引当事者間の自主的な判断に委ねられるものですが、免税事業者等の小規模事業者は、売上先の事業者との間で取引条件について情報量や交渉力の面で格差があり、取引条件が一方的に不利になりやすい場合も考えられます。

また、自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が、取引の相手方に対し、その地位を利用して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となる可能性があります。
仕入先である免税事業者との取引について、インボイス制度の実施を契機として取引条件を見直すことそれ自体が、直ちに問題となるものではありませんが、見直しに当たっては、「優越的地位の濫用」に該当する行為を行わないように注意する必要があります。

そこで、財務省や公正取引委員会は、令和4 年1 月に「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」を公表しました。

公正取引委員会としては、インボイス制度の実施に伴い免税事業者と取引を行う事業者がその取引条件を見直す場合に、優越的地位の濫用として問題となる可能性がある行為であるかについて、その行為を類型化し、類型ごとの考え方を公表していますが具体的には以下のようになります。

なお、独占禁止法上で問題となるのは、行為者の地位が相手方に優越していること、また、免税事業者が今後の取引に与える影響等を懸念して、行為者による要請等を受け入れざるを得ないことが前提となります。

① 取引対価の引下げ

取引上優越した地位にある事業者(買手)が、インボイス制度の実施後の免税事業者との取引において、仕入税額控除ができないことを理由に、免税事業者に対して取引価格の引下げを要請し、取引価格の再交渉において、仕入税額控除が制限される金額※について、免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の負担も考慮した上で、双方納得の上で取引価格を設定すれば、結果的に取引価格が引き下げられたとしても、独占禁止法上問題となるものではありません。

しかし、再交渉が形式的なものにすぎず、仕入側の事業者(買手)の都合のみで著しく低い価格を設定し、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格を設定した場合には、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となります。

また、取引上優越した地位にある事業者(買手)からの要請に応じて仕入先が免税事業者から課税事業者となった場合であって、その際、仕入先が納税義務を負うこととなる消費税分を勘案した取引価格の交渉が形式的なものにすぎず、著しく低い取引価格を設定した場合についても同様です。
※ 免税事業者からの課税仕入れについては、インボイス制度の実施後3 年間は、仕入税額相当額の8 割、その後の3 年間は同5 割の控除ができることとされています。

② 商品・役務の成果物の受領拒否、返品

取引上の地位が相手方に優越している事業者(買手)が、仕入先から商品を購入する契約をした後において、仕入先が免税事業者であることを理由に、商品の受領を拒否することは、優越的地位の濫用として問題となります。

また、同様に、その仕入先から受領した商品を返品することは、どのような場合に、どのような条件で返品するかについて、その仕入先との間で明確になっておらず、その仕入先にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合、その他に正当な理由がないにもかかわらず、その仕入先から受領した商品を返品する場合には、優越的地位の濫用として問題となります。

③ 協賛金等の負担の要請等

取引上優越した地位にある事業者(買手)が、インボイス制度の実施に伴い、免税事業者である仕入先に対し、取引価格の据置きを受け入れるが、その代わりに、取引の相手方に別途、協賛金、販売促進費等の名目での金銭の負担を要請することは、その協賛金等の負担額及びその算出根拠等について、その仕入先との間で明確になっておらず、その仕入先にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合や、その仕入先が得る直接の利益等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えた負担となり、その仕入先に不利益を与えることとなる場合には、優越的地位の濫用として問題となります。

また、取引価格の据置きを受け入れる代わりに、正当な理由がないにもかかわらず、発注内容に含まれていない役務の提供その他経済上の利益の無償提供を要請することは、優越的地位の濫用として問題となります。

④ 購入・利用強制

取引上優越した地位にある事業者(買手)が、インボイス制度の実施に伴い、免税事業者である仕入先に対し、取引価格の据置きを受け入れるが、その代わりに、当該取引に係る商品・役務以外の商品・役務の購入を要請することは、その仕入先が、それが事業遂行上必要としない商品・役務であったり、又はその購入を希望していない場合には、優越的地位の濫用として問題となります。

⑤ 取引の停止

事業者がどの事業者と取引するかは基本的に自由ですが、例えば、取引上の地位が相手方に優越している事業者(買手)が、インボイス制度の実施に伴い、免税事業者である仕入先に対して、一方的に、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格など著しく低い取引価格を設定し、不当に不利益を与えることとなる場合であって、これに応じない相手方との取引を停止した場合には、独占禁止法上問題となる可能性があります。

⑥ 登録事業者となるような慫慂(しょうよう)等

課税事業者が、インボイスに対応するために、取引先の免税事業者に対し、課税事業者になるよう要請することがあります。このような要請を行うこと自体は、独占禁止法上問題となるものではありません。

しかしながら、課税事業者になるよう要請することにとどまらず、課税事業者にならなければ、取引価格を引き下げるとか、それにも応じなければ取引を打ち切ることにするなどと一方的に通告(強制)することは、独占禁止法上又は下請法上、問題となる可能性があります。

例えば、免税事業者が取引価格の維持を求めたにもかかわらず、取引価格を引き下げる理由を書面、電子メール等で免税事業者に回答することなく、取引価格を引き下げる場合は、これに該当します。また、免税事業者が、その要請に応じて課税事業者となるに際し、例えば、消費税の適正な転嫁分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置く場合についても同様です。

したがって、取引先の免税事業者との間で、取引価格等について再交渉する場合には、免税事業者と十分に協議を行っていただき、仕入側の事業者の都合のみで低い価格を設定する等しないよう注意する必要があります。

 

 

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税理士島添 浩(しまぞえ ひろし)

2006年アースタックス税理士法人を設立。現在、一般企業の税務顧問業務のほか、企業再編や事業承継対策などの経営コンサルティング業務にも従事し、さらに豊富な実務経験を活かした税法実務セミナーの講師や執筆も数多くこなしている。また、1998年より会計税務の専門学校(TAC)にて税理士講座やFP講座の消費税法、所得税法、相続税法の講師も務めており、実務に役立つ実践的な講義を行っている。

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