【簡単】
第7回 監査で実際にやっていることをシンプルに伝える話

~監査って一体何やっているの?粉飾決算はなぜなくならないの?~

2020年10月10日

 

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「監査って一体何やっているの?」「粉飾決算はなぜなくならないの?」 監査と聞くといろんな疑問が湧いてきますよね。そこで今回は、監査で実際にやっていることを、理論から離れてシンプルに解説します。

 

 

1.全ての取引はチェックしていない

監査は、会社が作った決算書に大きな間違いがないかを監査法人がチェックすることをいいます。この「大きな間違い」というところがミソで、決算書を読む人が判断を間違えるような間違いをしっかりチェックするのが監査です。逆にいうと監査は、全ての取引をチェックしているわけではないということです。ですから「絶対大丈夫」というわけではなく、どうしても「間違いを見逃しちゃうリスク」はあります。もちろん監査法人は、間違いを見逃さないようにしっかり計画を立てて監査手続を進めますが、すべての取引を見ていない以上、どうしても可能性をゼロにはできません。

 

 

 

2.重要性

決算書を読む人が判断を間違えるレベルの「大きな間違い」って、具体的にどんな間違いなのでしょうか?監査の現場では、「重要性の基準値」という金額を決めて、監査の手続を進めていきます。間違っていた会計処理を足しても、重要性の基準値を超えていないかを確かめるのが監査です。重要性の基準値は、「監査で見逃したらいけない大きな間違いの金額」といってもよく、利益などをベースに計算しています。詳しくはそれぞれの監査法人がルールで決めていて、監査を受ける会社に知らせないようしています。

 

 

 

3.報酬を払うのは誰?

監査を依頼した会社は、自分の会社の決算書をチェックされるので「お客さん」という認識を持ちにくいですが、監査もお客さんへ提供するサービスの1つです。ですから、お客さんである会社から報酬を頂きます。一方で監査は、頑張れば頑張るほどお客さん(特に経理担当者)の負担が増えてしまうので、「頑張ってくれて当社の役に立った!ありがとう!」という気持ちになりにくい一面もあります。現実的には監査を受ける会社に役立っているのですが、監査を受ける立場の会社から見れば都合の悪いことをいろいろ言われるのが監査です。なので、「自分たちの役に立っている」と感じにくいのは事実です。そんな背景があるので、監査の代金である「監査報酬」をたくさん払おうとはなりにくくなります。

 

 

 

4.監査担当者が変わる

すべての公認会計士が監査法人で監査の仕事をしているわけではなく、監査法人から転職していく公認会計士も少なくありません。また、ずっと同じ会社の監査を担当するわけではなく、担当が変わることもあります。つまり、監査を受けている会社から見ると、監査をしている担当者が変わっていくということです。経理担当者も監査を担当する公認会計士も人間ですから、「前回の監査担当者とはウマがあったけど・・・」ということも起こり得ます。監査というと機械的な作業というイメージがありますが、人間がしている仕事ですから、意外とこういった一面があるのも事実です。

 

 

5.監査法人も利益を出さなきゃいけない

監査法人は「会社の決算書のチェック」という公的機関っぽいことをやっていますが、必要なお金を税金で賄っている市役所などの公的な機関と違って「監査報酬」で運営されています。ですから、クライアントから頂いている監査報酬の範囲内で必要なコストをカバーしないといけません。つまり、一般の会社と同じく「赤字」を避けて利益を出さないといけません。監査を受ける会社からすれば「たくさん報酬を払っているのだから、しっかり監査をしてほしい」という気持ちになりますが、一方の監査法人は「必要な監査手続をしっかり終わらせる」ことと「赤字にならない範囲での監査時間」を気にしながら監査を進めます。ですから、「経験の豊かなキャリアの長い公認会計士に監査してほしいのに、キャリアの浅い公認会計士がたくさん来た」という、会社と監査法人での「気持ちのミスマッチ」が起きることもあります。

 

 

6.監査担当者の個人的な意見が通りにくくなっている

20年近く前までは、監査報告書にサインをする公認会計士(社員とかパートナーといいます)の判断が監査・決算へ影響を及ぼす度合いがかなりの割合を占めていました。ですから、監査を受ける会社としては、社員の公認会計士をいかに納得させるかに大きな関心がありました。また、ある会計処理について一度OKをもらえれば、よほどのことがない限りは「やっぱりダメ」にはならない時代でした。その後、大規模な粉飾決算などが相次いだことで、担当公認会計士の判断に「他人の目によるチェック」を入れるべきではないかという議論が強くなっていきました。このような他人の目によるチェックのことを「審査」と呼んでいます。近年は、担当の公認会計士がOKしても審査でOKが出ない限りは、監査報告書をもらえなくなりました。

 

 

7.監査調書はチェックされている

「この決算書は大きな間違いはありません!」と監査法人がお墨付きを与えながら、後日になって粉飾決算が見つかったという事例が相次いで発生しています。このような監査で粉飾決算を見抜けなかった事例が続くと、「監査は何をやっていたんだ?」という意見が大きくなって、監査の意味を疑問視されてしまいます。監査法人は監査手続の内容や判断結果を「監査調書」という文書に書き残していますが、監督官庁や日本公認会計士協会が監査調書をしっかりチェックするのが主流になっています。つまり監査法人は、会社の決算書をチェックしたら仕事は終了というわけではなく、監督官庁や会計士協会からの監査調書のチェックを受けるのも仕事になっています。もちろん、監査調書をチェックされてもされなくてもしっかり監査手続を進めているでしょうが、監査法人はどうしても「監査調書のチェックでどういう指摘を受ける可能性があるか?」を常に気にせざるを得ない状況になっています。

 

 

 

第7回はここまでです。第8回は減価償却について解説します。

 

 

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公認会計士・税理士内田正剛

うちだ会計事務所代表。
週刊「経営財務」での連載のほか、Twitter(@uchida016)やYouTubeを通じて、「難しい会計」を「わかりやすく簡単に」解説した情報を発信中。主な著書に「売上・収益の会計ルール入門」、「不正会計対応はこうする・こうなる」、「赤字決算の原因と対策がわかる本」(いずれも中央経済社)など。

» Twitter https://twitter.com/uchida016
» Youtube bit.ly/uchida016-youtube

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