【初心者向け】
第8回 減価償却を「秒速」で理解できる5つのポイント

~減価償却とは?~

2020年11月10日

 

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「減価償却」 決算書を見たり簿記3級のテキストを読むとすぐに目に入ってきて、「なんとなくわかるんだけど・・・」と思いますよね。そこで今回は、「減価償却はこれだけ知っておけばオッケイ」というポイントを5つ紹介します。

 

 

1.費用だけどお金は出ていかない

会計は、「どれだけのコストをかけてどれくらいの成果を稼げたのか?」を損益計算書で示すのが目的の一つです。「80円のコストをかけて100円稼ぎました。だから儲けは20円です!」みたいな感じです。この考え方は会計用語で「費用収益対応の原則」といいます。コストって耳にすると、請求書が届いてお金を払うというイメージがありますよね。大半の費用はその通りなんですが、1年以上使い続ける固定資産を使ったら発生する減価償却費は違います。「固定資産を買ってお金を払ったけど、今後○年使えるから、払ったタイミングで全額費用にするのはおかしくない?」という発想が、減価償却の考え方の原点です。ですから、お金を払ったタイミングと費用にするタイミングがズレた状態で費用を会計帳簿へ載せているのが減価償却費です。

 

 

 

2.減価償却は見積計算

では、減価償却費は何円会計帳簿へ載せればいいのでしょうか? 「材料を1万円買って使いました」のようなケースでは費用は1万円とはっきりわかりますが、減価償却費はそうもいきません。「どれだけ使ったのか?(=価値が減ったのか)」が目に見えないからです。わからないから費用にしないというわけにはいかないので、「固定資産の価値がどれくらい減ったのか?」を見積計算するという方法が会社の決算・税金の申告では採用されています。これを「減価償却計算」といい、後ほど解説する方法で計算された金額を減価償却費として会計帳簿へ載せます。

 

 

 

3.実は会計に細かいルールはない

会計のルールのことを会計基準といいますが、日本では企業会計基準委員会(「ASBJ」といいます)という組織が精力的に会計基準を作って公表しています。「ということは減価償却計算も細かいルールがいっぱい定められているんじゃ?」と思いますが、実は違います。金額が大きくなりがちな減価償却費ですが、会計基準では細かく定められていないのです。日本の会計制度では、法人税が減価償却費の計算の仕方を定めています。会計的には、「法人税の減価償却費の計算結果が明らかに実態と合わないという事情のない限りはOK」というスタンスを採用しています。

 

 

 

4.法人税に詳しいルールがある

時代によって、減価償却費の計算の仕方は改正が重ねられてきました。そのため、固定資産を買ったタイミングの違いでいろんなルールが複雑に定められています。今回は減価償却の入門知識を紹介するのが目的ですので、「今固定資産を買ったらどんなルールが採用できるの?」という視点からルールを解説します。

 

(1) 固定資産は何年使えるの?

減価償却費は、固定資産を使った量(=減った価値)に応じて決まります。ですが、固定資産をどの程度使ったのかは、パッとみぃわかりません。決算書を作る会社が「○年使えます!」って適当に決められると、国が集める法人税の金額が減ってしまいます。そこで法人税では、固定資産の種類に応じて「○年使えます」と決めて、年数に応じて「償却率」という率を使って減価償却費を計算するという方法を採用しています。なお、「○年使えます」という年数のことを「耐用年数」といいます。

 

(2) 計算方法

ここで計算方法の内容をごく簡単に紹介しますが、「定額法」とか「定率法」でググると、税金を担当している官庁である国税庁が計算の仕方を具体例を交えながら教えてくれるので、興味があれば是非ググってみてください。

 

① 定額法

「固定資産の使い方は毎年同じような感じだから、価値は同じくらい減っていく」という発想に立って、毎年同じ金額の減価償却費を会計帳簿へ載せる考え方です。具体的には、固定資産を買った時に払った金額(=「取得価額)といいます)に、法人税の法律で定められた率(=「償却率」といいます)をかけて、減価償却費を計算する方法です。固定資産を使い始めたタイミングによりますが、耐用年数が来るまで減価償却費は毎年同じ金額になります。だから、減価償却費が毎年一定の金額になるという意味で「定額法」と呼ばれます。

 

② 定率法

「固定資産は使い始めた当初の頃ほど価値が大きく減っていく」という発想に立って、減価償却費を計算する直前の価値(=「帳簿価額」といいます)に毎年同じ償却率をかけて減価償却費を計算する方法です。定額法の時と同じく、定率法で使う償却率も法人税の法律で決められています。なお、減価償却費の計算でチェックする金額(=「償却保証額」といいます)を計算結果が下回ったら、取得価額と償却率にアレンジを加えて減価償却費を計算します。

 

 

 

5.減損会計

このように固定資産の減価償却計算は法人税法がルールをほぼ決めていますが、一方で会計は、「資産の価値が下がったら会計帳簿に載せている金額を下げる(=損失計上する)」という会計処理を多く採用しています。

一番メジャーなのが減損会計で、固定資産の「将来お金を稼ぐ力」が落ちたりしたら、会計帳簿に載っている固定資産の金額(=帳簿価額)を「将来お金を稼ぐ力の金額」まで下げましょうというルールです。減損会計は法人税では一切認められていないため、法人税が想定している固定資産の帳簿価額と、会計が実際に帳簿に載せている帳簿価額にズレが発生します。そして、法人税は会計が減損会計のルールで会計帳簿の金額を下げたかどうかに関係なくこれまでどおりに減価償却費の計算をします。

難しくなるので詳しい内容の解説は省略しますが、法人税と会計の帳簿価額のズレは、時間が経過して法人税が毎年減価償却費の計算を進めていくに従って、徐々に解消していく関係にあります。このあたりは、法人税の減価償却費の考え方と固定資産の減損会計の考え方を詳しく勉強していくと、「あぁなるほどね」って感じで理解が深まっていきます。

 

第8回はここまでです。第9回は税務会計について解説します。

 

 

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公認会計士・税理士内田正剛

うちだ会計事務所代表。
週刊「経営財務」での連載のほか、Twitter(@uchida016)やYouTubeを通じて、「難しい会計」を「わかりやすく簡単に」解説した情報を発信中。主な著書に「売上・収益の会計ルール入門」、「不正会計対応はこうする・こうなる」、「赤字決算の原因と対策がわかる本」(いずれも中央経済社)など。

» Twitter https://twitter.com/uchida016
» Youtube bit.ly/uchida016-youtube

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