男女差別

2021年11月30日

 

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労働分野における男女差別の問題は古くは、男女別賃金表の設定、年齢給における女性のみの頭打ち、住宅手当や家族手当の男性のみへの支給等がありましたが、男女雇用機会均等法が改正され、その意識も浸透した現在ではこのような典型的男女差別はほとんど聞かなくなりました。

しかし、男女差別の問題がなくなったわけではなく、いわゆる総合職と一般職の賃金差について、総合職は男性のみであり、女性ばかりが一般職に振り分けられているとして紛争になった近年の例として、巴機械サービス事件(横浜地裁令和3年3月23日判決)があります。
被告となった会社では、会社設立から令和2年5月時点までの約42年間の間に採用した一般職は9名すべてが女性で、総合職は56名すべてが男性でした。

判決は、女性労働者が会社に対して総合職への転換を希望する意向を明確に伝えているにも関わらず、会社側から総合職への転換を勧めたり、転換に必要となる具体的基準や手続き等を示したりすることすらなく、かえって、「女性に総合職はいない」などと回答していることからすれば、一般職から総合職への転換制度を整備・運用しないことについて合理的理由は見当たらず、この事実は違法な男女差別に該当すると判断しました。

そして、総合職への転換の機会を提供せず、結果として原告両名の職種変更の機会を奪ったことについて違法行為と認定しましたが、機会を与えたとしても実際に総合職に転換(合格)できたかどうかは不明である以上、総合職としての地位確認や、総合職との間の差額賃金の請求は認めず、100万円の慰謝料請求のみを認めました。

大規模な企業で一般職がすべて女性で、総合職がすべて男性であれば、採用の時点から男女差別が疑われますが、本件ではそこまで大人数ではなかったからか、採用時点での男女差別は認定されておりません。
しかし、採用後の職種転換制度の整備・運用を怠ったという点について違法性を認めたことは注目に値するものと考えられます。
雇用は時には何十年もかかる長期間の契約関係ですので、採用時のみならず、採用後の関係性においてもキャリアへの十分な配慮を行うことが企業に義務付けられている旨を明示した裁判例として、他の事例への影響も小さくはないものと考えられます。

 

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弁護士 石井拓士(いしい たくじ)(太田・石井法律事務所)

2006年早稲田大学法学部卒業、08年慶應義塾大学大学院法務研究科修了、09年弁護士登録。経営法曹会議会員。第一東京弁護士会労働法制委員会委員。
主な取り扱い分野は、人事労務を中心とした企業法務。
主な著書に『第2版 懲戒処分―適正な対応と実務』(共著、労務行政、2018年)、『労災保険・民事損害賠償判例ハンドブック』(共著、青林書院出版、2017年)、『退職金・退職年金をめぐる紛争事例解説集』(共著、新日本法規出版、2012年)などがある。

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