コロナ禍において経営難の飲食店が行う整理解雇の有効性

2022年8月24日

 

このコラムの次回更新を知りたかったら…@zeiken_infoをフォロー

 

 

周知のとおりコロナ禍では飲食店の経営は困難な状況に置かれており、現実に店舗の経営が不能となっている例は枚挙に暇がないところかと思われます。

そのような場合に経営再建策として行う整理解雇の有効性が問題となった事案として、アンドモワ事件(東京地裁令和3年12月21日判決)があります。

 

会社は約300店舗あった居酒屋のうち収益改善の見込みが高いと判断した約10店舗のみを残し、それ以外の店舗の経営からは撤退することとし、撤退対象となった店舗で勤務していた従業員を整理解雇の対象としました。

 

判決は、解雇以外に資金ショートのおそれを回避する手段はなかったことから人員削減の必要性が高かったものと認定し、さらに配転・出向を検討することも困難であり、閉店となる店舗で勤務していた従業員を解雇の対象として選定することも不合理とはいえないと判断しました。

しかし、解雇対象従業員に対して整理解雇の必要性やその時期・規模・方法等について説明することができないほどの事情があったとは認められないとして、解雇予告通知書を送付する直前にその予告の電話を入れただけでそれ以外に何らの説明も協議もしなかったことは手続きとして著しく妥当性を欠いており、整理解雇は無効と結論付けました。

 

整理解雇しか方法がないとすれば、仮に手続きで不相当な面があったとしても結局のところ整理解雇は避けられず、労働者との間で説明や協議を行ったとしても結論に変わりはないはずです。それにもかかわらず手続き面の問題のみを理由に解雇を無効とすれば、経営再建が遅れ、ひいては本来は残すはずであった約10店舗にもメスを入れざるをえなくなる可能性すらあり、その場合には閉店する店舗が増えて結局整理解雇の対象となる従業員も増加してしまいます。

 

コロナ禍という未曾有の事態において機動的な企業運営を図るためには、変わり得ない結論を巡った協議等に割ける時間は乏しいと言えるため、そのような諸般の事情を考慮した上で手続き面も評価されるべきと考えます。

そもそも整理解雇の有効要件が法律や判例によって明示されているものではなく、手続きの相当性も一考慮要素に過ぎません。全体として事案を見たときに手続きの不相当性がどの程度と評価されるものなのか、それが解雇の効力に影響を及ぼすほどのものなのかということは慎重に判断する必要があるでしょう。

 

 

このコラムの次回更新を知りたかったら…@zeiken_infoをフォロー

 

 

 

弁護士 石井拓士(いしい たくじ)(太田・石井法律事務所)

2006年早稲田大学法学部卒業、08年慶應義塾大学大学院法務研究科修了、09年弁護士登録。経営法曹会議会員。第一東京弁護士会労働法制委員会委員。
主な取り扱い分野は、人事労務を中心とした企業法務。
主な著書に『第2版 懲戒処分―適正な対応と実務』(共著、労務行政、2018年)、『労災保険・民事損害賠償判例ハンドブック』(共著、青林書院出版、2017年)、『退職金・退職年金をめぐる紛争事例解説集』(共著、新日本法規出版、2012年)などがある。

新着プレスリリース

プレスリリース一覧へ

注目タグ