競業行為

2022年11月24日

 

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在職中は競業行為が禁止されており、これは就業規則等に定めがなくとも当然のことと考えられています。一方で退職後の競業行為の可否については議論があり、就業規則や誓約書などの根拠があれば合理的な範囲で競業行為が制限されるものと解釈されておりますが、これらの根拠がない場合が問題となります。この点、裁判例では、前使用者の営業秘密を用いたり、その信用をおとしめたりするなどの不当な方法を用いていなければ、競業行為も自由競争の範囲内であるとして許容されている例があります。

 

競業行為を考えているような人物は誓約書を提出しないこともあり得ますので、退職後の競業行為を禁止したい場合は、きちんと就業規則で禁止しておくことが重要といえます。

 

競業行為については、損害額をどのように立証するのかということも問題になります。

東京地裁令和4年4月19日判決の事案では、学習塾の従業員が、内部生を別の塾に勧誘した行為につき、引き抜かれた内部生7名が引き抜き先で受講した141コマ分の授業料から講師給与と教材費用を控除した約112万円が損害と認定されました。

 

顧客引き抜きに関する損害賠償の金額としてはあまり高額とはいえませんが、今後これらの生徒について引き抜き先が授業を行うことは困難であることからすると、引き抜き先の事業運営に対する牽制の意味合いはあるかと思われます。一方で、これらの生徒が元の学習塾に戻るのかどうかは不明であり、訴えた側の損失は十分に補填されないおそれもあります。

 

こうして見ると、競業行為が違法であると認定されたとしても損害額の立証のハードルがあるため、訴えることによってカバーできる損失には限りがあるものと考えられます。

転職が容易な世の中になるとこのような事案も増えてくる可能性がありますが、それに併せて企業や個人間の自由競争の側面も強くなってくるおそれもあります。そうすると、営業秘密等を用いたりしているのでない限り退職後の競業を抑制することは難しくなってくる可能性があるため、企業としては企業価値を高めて退職者を減らすことが一番の対策となるかもしれません。

 

 

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弁護士 石井拓士(いしい たくじ)(太田・石井法律事務所)

2006年早稲田大学法学部卒業、08年慶應義塾大学大学院法務研究科修了、09年弁護士登録。経営法曹会議会員。第一東京弁護士会労働法制委員会委員。
主な取り扱い分野は、人事労務を中心とした企業法務。
主な著書に『第2版 懲戒処分―適正な対応と実務』(共著、労務行政、2018年)、『労災保険・民事損害賠償判例ハンドブック』(共著、青林書院出版、2017年)、『退職金・退職年金をめぐる紛争事例解説集』(共著、新日本法規出版、2012年)などがある。

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