営業職と事業場外みなし労働時間制

2022年10月24日

 

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事業場外における労働時間の把握が困難な場合には一定の労働時間(所定労働時間等)働いたものとみなすことが法律上可能とされており、よく出張などで適用されています。

外回りの営業職に適用している例も多いのですが、これに関しては紛争になっている例も散見されます。

どちらかというと事業場外みなし労働時間制の適用を認める裁判例が優勢かと思われますが、そのような例のうち直近のものとして、セルトリオン・ヘルスケア・ジャパン事件(東京地裁令和4年3月30日判決)を紹介します。

 

同事案で、営業職は自宅と営業先を直行・直帰する働き方をしており、システム上で「出勤」「退勤」ボタンを押すことで始業・就業時刻を自己申告していました。訪問先や訪問スケジュールは営業職の労働者自身が原則として決定し、上司がその詳細について具体的な指示・決定をすることはなく、また、週1回訪問先や活動状況を記載した週報を上司に提出していましたが、週報の内容は簡易であり、何時から何時までどのような業務を行っていたかといった業務のスケジュールについて具体的に報告させるものではありませんでした。このほか、システム上で訪問先の施設、当該施設側の担当者及び活動結果の種別等の情報を入力することとなっていましたが、各日のスケジュールを具体的に記載するものではなく、当該情報はもっぱら顧客管理のために用いられるものとなっていました。

 

以上の事実関係を前提に裁判所は、事業場外における労働時間を具体的に把握することは困難であるとして、事業場外みなし労働時間制の適用を認めました。

 

この手の議論でよく言われることとして、営業職が具体的な業務スケジュールを報告していないから労働時間を算定困難であるとすることは妥当ではなく、むしろ具体的なスケジュールを報告させるなどの指示を尽くしていない会社側に落ち度があり、事業場外みなし労働時間制の適用を認めるべきではないと主張されることがあり、現にそのように述べる裁判官もいます。

 

しかし、労働者本人に具体的なスケジュール等を報告させていたとしても、それが正しいか否かを担保する客観的な資料は乏しく、また、仮に正しいか否かの検証が理論的には可能であったとしても、それを上司が営業職一人ひとりについて、GPSやメール、PCのログイン・ログオフ等の証拠と突き合わせながら業務スケジュールの詳細を検証するなどという作業に労力を割くことは非合理的です。むしろ端的に、外回りの営業職については「労働時間の算定が著しく困難」であるものとして、事業場外みなし労働時間制の適用を認めるべきでしょう。

 

 

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弁護士 石井拓士(いしい たくじ)(太田・石井法律事務所)

2006年早稲田大学法学部卒業、08年慶應義塾大学大学院法務研究科修了、09年弁護士登録。経営法曹会議会員。第一東京弁護士会労働法制委員会委員。
主な取り扱い分野は、人事労務を中心とした企業法務。
主な著書に『第2版 懲戒処分―適正な対応と実務』(共著、労務行政、2018年)、『労災保険・民事損害賠償判例ハンドブック』(共著、青林書院出版、2017年)、『退職金・退職年金をめぐる紛争事例解説集』(共著、新日本法規出版、2012年)などがある。

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