アイドルと労働者性

2022年6月21日

 

このコラムの次回更新を知りたかったら…@zeiken_infoをフォロー

 

働き方が多様化する中で、働いている人が個人事業主であるのか、それとも労働者であるのかということが今日的な問題として議論されています。この労働者性の問題には、労基法上の労働者性の問題と、労組法上の労働者性の問題の2つがあります。

労組法は主として団体交渉に関する問題ですが、労基法上の労働者であれば、解雇制限、労働時間規制、最低賃金制度等、様々な保護を受けられることになります。

労基法上の労働者性が問題となる事例は多く、個人請負の運転手や楽団や劇団の団員等様々な紛争例があります。最近の注目すべき裁判例として、アイドルの労働者性が争われました。

農作物の生産・販売等を行うとともに、「農業アイドル」として活動するタレントの発掘・育成に関する業務を行う会社に所属していたアイドルが死亡した後、その実母及び養父が会社に対して最低賃金とこれまでの報酬との差額を請求したという事案です。

裁判所は、グループのメンバーに対して支払われていた報酬について、メンバーの励みになるようにその活動によって上がった収益の一部を分配するものとしての性質が強く、労務の対価としての性質は弱いこと、イベントへの参加は義務ではなく、不参加を選択することも可能で、タレント活動を行うかどうかについて諾否の自由が認められていたこと等から、当該アイドルについて労基法上の労働者には該当しないと判断しました。

業務の依頼について諾否の自由があるという点が特に大きかったといえるでしょう。

アイドルや劇団・楽団の団員等は、表舞台でパフォーマンスするために努力しているという要素が強く、それをやるもやらないも自由であり、自分が好きなことをやっているため、一般的な働き方とは異なると考えられます。

今後も様々なケースで労働者性が問題になることが増えていくものと予想されます。

 

このコラムの次回更新を知りたかったら…@zeiken_infoをフォロー

 

弁護士 石井拓士(いしい たくじ)(太田・石井法律事務所)

2006年早稲田大学法学部卒業、08年慶應義塾大学大学院法務研究科修了、09年弁護士登録。経営法曹会議会員。第一東京弁護士会労働法制委員会委員。
主な取り扱い分野は、人事労務を中心とした企業法務。
主な著書に『第2版 懲戒処分―適正な対応と実務』(共著、労務行政、2018年)、『労災保険・民事損害賠償判例ハンドブック』(共著、青林書院出版、2017年)、『退職金・退職年金をめぐる紛争事例解説集』(共著、新日本法規出版、2012年)などがある。

新着プレスリリース

プレスリリース一覧へ

注目タグ