懲戒処分と弁明の機会

2021年12月27日

 

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懲戒処分を実施するにあたっては弁明の機会を付与することが手続的適正のために必要と考えられております。裁判例では、弁明の機会を付与していなかった場合の懲戒処分の効力について、その事案内容に応じて有効・無効を判断しており、一律にその効力を判断することはできません。

近年の裁判例として、従業員に対する譴責処分について、弁明の機会の付与を欠いており無効とされたものがあります(テトラ・コミュニケーションズ事件・東京地判令3.9.7)。

同事件では、企業年金の確定拠出年金型への移行に係る必要書類の提出を求められた従業員が、関連資料の提出を求めた上、「この件で、私が不利益を被ることがありましたら、訴訟しますことをお伝えします。」とのメッセージを送信したところ、会社は、「訴訟」という単語による脅迫及び非協力的な態度が懲戒事由に該当するとして、弁明の機会を付与することなく譴責処分を下しました。

判決は、当該従業員がこれまでにも事あるごとに抗議して訴訟提起の可能性に言及するなどして敵対的な態度を示していたことが、抗議の方法として相当なものといえるのかは疑問の余地もあるとしながらも、それが「脅迫」に該当するのかということや、確定拠出年金型への移行に必要な書類の提出を拒むなどした態度が、懲戒処分を相当とするほどの非協力的で協調性を欠く行動であるといえるのかは、経緯や背景事情も含め、当該従業員の言い分を聞いた上で判断すべきものであったとし、そのような弁明の機会の付与を怠った懲戒処分は手続的相当性を欠き無効と判断しました。

弁明の機会を欠いたことが懲戒処分の効力に影響するか否かを判断するにあたっては、まず、その機会を付与していれば懲戒処分の有無・量定に関する判断に影響があり得たかという視点が重視されるものと考えられます。また、弁明の機会を付与することが容易な客観的状況にあったかということも考慮されるものと考えられます。
本件では、はたして懲戒事由に該当するのかという点も微妙な事案であり、少なくとも本人の言い分を聞かなければ情状等を判断しかねるという事情があったため、やはり、弁明の機会を付与せずに懲戒処分を行ったことは性急に過ぎるということになったのでしょう。

 

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弁護士 石井拓士(いしい たくじ)(太田・石井法律事務所)

2006年早稲田大学法学部卒業、08年慶應義塾大学大学院法務研究科修了、09年弁護士登録。経営法曹会議会員。第一東京弁護士会労働法制委員会委員。
主な取り扱い分野は、人事労務を中心とした企業法務。
主な著書に『第2版 懲戒処分―適正な対応と実務』(共著、労務行政、2018年)、『労災保険・民事損害賠償判例ハンドブック』(共著、青林書院出版、2017年)、『退職金・退職年金をめぐる紛争事例解説集』(共著、新日本法規出版、2012年)などがある。

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