泊まり込み業務と労働時間

2022年2月24日

 

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断続的な宿直・日直勤務については労基署長の許可を受けることで労基法上の労働時間に関する規定の適用を除外することができますが,原則として宿直業務は週1回,日直業務は月1回が限度であるとされています。

これに対して,常態として泊まり込みで業務にあたるような働き方をしている場合につき,労働時間をどのように考えるのかということが問題になった事例として,グローバル事件(福岡地小倉支判令和3.8.24)があります。

同事件では,被告が運営する障害者就労支援施設であるグループホームで寝泊まりしながら就労していた原告らが,24時間365日が労働時間であるとして未払賃金の支払いを求めました。その請求金額は,原告1につき約1,100万,原告2については約2,400万円となっていました。

裁判所は,1日のうち朝食時間の30分,夕食・入浴・外出等していた時間に相当する1時間,休日についてはこれらのほか昼1時間は労働時間には該当しないとしましたが,その他のほぼ全ての時間を労働時間として認定しました。夜間についても,利用者が相談をしてきた時やトイレの介助を頼んできた時は宿直担当者に起こされて利用者対応をしていたことから労働時間に該当するものと認定されています。

上記事案に限らず,支援施設の中には泊まり込みが前提となっているものも多数あるものと考えられます。それらの施設で宿日直を適正に運用するためには,相当な人員を確保した上で断続的労働の認可を得なければ,それこそ24時間365日のうちほとんどが労働時間と認定されるおそれがあるため注意が必要でしょう。
医療従事者の業界でも,新型コロナウイルス感染症による保育施設の相次ぐ休園に伴う自宅保育によって、多数の従業員が出勤困難となっていることが社会問題となっている現状においては,医療業界に限らず適正な宿日直勤務のための人員を確保することは極めて難易度が高くなっているものと考えられます。

 

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弁護士 石井拓士(いしい たくじ)(太田・石井法律事務所)

2006年早稲田大学法学部卒業、08年慶應義塾大学大学院法務研究科修了、09年弁護士登録。経営法曹会議会員。第一東京弁護士会労働法制委員会委員。
主な取り扱い分野は、人事労務を中心とした企業法務。
主な著書に『第2版 懲戒処分―適正な対応と実務』(共著、労務行政、2018年)、『労災保険・民事損害賠償判例ハンドブック』(共著、青林書院出版、2017年)、『退職金・退職年金をめぐる紛争事例解説集』(共著、新日本法規出版、2012年)などがある。

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