転籍前の非違行為に基づいて懲戒処分を行うことはできるか

2022年4月21日

 

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新たな会社に転籍した後に、実は転籍前の会社で懲戒事由に該当する非違行為を行っていたという事実が判明した場合、転籍後であっても懲戒処分できるのかということが問題になります。

転籍する理由としては、企業再編のほか、リストラに伴う転職支援措置、役職定年に伴いグループ内の他企業へ転籍する等があります。

そもそも、懲戒処分を行う根拠は企業秩序の維持にありますので、転籍前の会社での非違行為は、当然には転籍後の会社の企業秩序には影響しないものと考えられます。

たとえば、会社を退職して全く別の会社に就職する場合、仮に前職で非違行為を行っていたとしても、そのことが他社の企業秩序にまで影響を与えていることは稀であり、その非違行為を隠していたことが重大な経歴詐称と評価できるような場合を除いては、新たな就職先で懲戒処分を行うことは一般的には困難と考えられます。

この理は基本的には転籍にも同様に当てはまるものと考えられます。
したがって、退職して再就職する場合に限らず、労働者の合意に基づき新たな会社へ転籍する場合であっても、会社が異なる以上、転籍前の非違行為に基づいて懲戒処分を行うことは難しいものと考えられます。

しかし、企業再編のように、合併や分割で雇用契約が承継される場合は異なります。この場合、企業内のある程度のまとまりを持った組織が一体となって承継されるため、転籍前の非違行為による企業秩序への影響が、そのまま承継後の組織でも問題となり得るからです。

いずれにしても転籍先の企業としては、受け入れる労働者に対してあらかじめ懲戒事由がないことを明らかにさせ、仮にそのような事実が判明した場合には虚偽告知に基づき懲戒処分があり得るということを明示した上で転籍を受け入れるという予防措置を講じておく必要があるでしょう。
そのような措置を講じていれば、いずれの事案であっても転籍後の会社において懲戒処分を検討することが可能になるものと考えられます。

 

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弁護士 石井拓士(いしい たくじ)(太田・石井法律事務所)

2006年早稲田大学法学部卒業、08年慶應義塾大学大学院法務研究科修了、09年弁護士登録。経営法曹会議会員。第一東京弁護士会労働法制委員会委員。
主な取り扱い分野は、人事労務を中心とした企業法務。
主な著書に『第2版 懲戒処分―適正な対応と実務』(共著、労務行政、2018年)、『労災保険・民事損害賠償判例ハンドブック』(共著、青林書院出版、2017年)、『退職金・退職年金をめぐる紛争事例解説集』(共著、新日本法規出版、2012年)などがある。

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