新型コロナウイルスによる休業と休業手当

2022年5月23日

 

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新型コロナウイルスの影響により売上が減少したことに対して、従業員の勤務日数や時間を削減して対応する場合、休業手当の支払いが必要になるのか、という問題があります。

コロナ禍による事業の休止と休業手当との関係については、厚労省のQ&Aが次のような見解を示しています。
「今回の新型コロナウイルス感染症により、事業の休止などを余儀なくされた場合において、労働者を休業させるときには、労使がよく話し合って労働者の不利益を回避するように努力することが大切です。
また、労働基準法第26条では、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないとされています。休業手当の支払いについて、不可抗力による休業の場合は、使用者に休業手当の支払義務はありません。
具体的には、例えば、海外の取引先が新型コロナウイルス感染症を受け事業を休止したことに伴う事業の休止である場合には、当該取引先への依存の程度、他の代替手段の可能性、事業休止からの期間、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、判断する必要があると考えられます。」

これは新型コロナウイルスが原因とはなっていますが、直接的には取引先の事情という外部的要因によるものであり、具体的な状況によっては休業手当の支払いが不要になる場合もあり得るかのような記載となっています。

それでは、新型コロナウイルスという天変地異にも似た事象により、客足等が途絶えたことで売上が減少し、従業員のシフト等を削減する場合はどのようになるのでしょうか。

このような場合におけるホテル従業員の休業手当の要否ついて争われた事案が、ホテルステーショングループ事件(東京地判令3.11.29)です。
同事件で判決は、「事業を停止しているのではなく、毎月変動する売上の状況やその予測を踏まえつつ、人件費すなわち従業員の勤務日数や勤務時間数を調整していたのであるから、これはまさに使用者がその裁量を持った判断により従業員に休業を行わせていたものにほかならない。そうだとすれば、本件休業が不可抗力によるものであったとはいえず、労働者の生活保障として賃金の6割の支払いを確保したという労基法26条の趣旨も踏まえると、原告の本件休業は、被告側に起因する経営・管理上の障害によるものと評価すべきである。」とし、休業手当を支払うべきとしました。

事業の休止ではなく、事業の継続を図りながら人件費の削減を実現しようとしていたわけですので、一方的に賃金を全額カットすることは困難であり、休業手当の支払いを要するものと判断されたものと考えられます。
たとえ新型コロナウイルスが原因であるとしても、経営上の理由でシフトを一方的に削減する場合には、休業手当の支払いにも十分に留意する必要があるでしょう。

 

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弁護士 石井拓士(いしい たくじ)(太田・石井法律事務所)

2006年早稲田大学法学部卒業、08年慶應義塾大学大学院法務研究科修了、09年弁護士登録。経営法曹会議会員。第一東京弁護士会労働法制委員会委員。
主な取り扱い分野は、人事労務を中心とした企業法務。
主な著書に『第2版 懲戒処分―適正な対応と実務』(共著、労務行政、2018年)、『労災保険・民事損害賠償判例ハンドブック』(共著、青林書院出版、2017年)、『退職金・退職年金をめぐる紛争事例解説集』(共著、新日本法規出版、2012年)などがある。

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