時価算定基準の導入について[あいわ税理士法人 コラム]
2022/07/21
時価算定基準の導入について[あいわ税理士法人 コラム]
1.はじめに
「時価の算定に関する会計基準」(以下「時価算定基準」という)は、2021 年4 月1 日以降開始する事業年度の期首より適用されています。同基準は、IFRS13 号「公正価値測定」の定めを取り込んだものであるため、用語や表現方法にわかりづらい点があります。
そこで本稿では、時価算定基準の概要を解説した上で、従来からの変更点を一部紹介します。
2.導入の背景
国際的な基準では、時価算定について、どのように公正価値(時価)を算定するのか「算定方法」に関する詳細な定めが既にありました。一方、日本では、金融商品会計基準等により時価の算定自体は求められていたものの、「算定方法」に関する詳細な定めがありませんでした。
そのため、従来からの会計慣行や実務を参考に時価の算定を行っていました。
しかし、このような状況下では国内外の財務諸表の比較可能性を確保することができないため、時価算定基準が導入されることとなりました。
3.制度の概要
■適用範囲
主な適用範囲は以下の2つとなります。
①金融商品会計基準における金融商品
②棚卸資産会計基準におけるトレーディング目的で保有する棚卸資産
■時価の定義
時価算定基準では、「算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格をいう」と定義しています。
市場の取引価格をベースとしている点では金融商品会計基準と同様ですが、時価算定基準では、「資産負債を清算した場合の価格」と算定方法を限定している点に特徴があります。
■時価算定の評価技法
時価算定基準では、「十分なデータが利用できる評価技法を用いる」とされています。その評価技法は大きく以下の3つとなります。
①マーケット・アプローチ
同一または類似の資産・負債の市場取引から生み出される価格を用いて評価する方法
②インカム・アプローチ
将来得られる利益やキャッシュ・フロー等を現在価値に割り引いて評価する方法
③コスト・アプローチ
資産を再調達するために現時点で必要となる金額に基づいて評価する方法
評価技法によって使用するデータが異なりますので、事前に入手できるデータを把握しておくことが重要となります。
■時価算定に用いる仮定
時価を算定する際に用いる仮定のことを「インプット」といいます。具体的には、上記評価技法を用いて時価を算定する際に使用する材料のことであり、株価や金利、将来CFなどがその代表例になります。時価算定基準では、インプットの観察可能性等を考慮して以下のように分類しています。
①レベル1のインプット
時価の算定日において、企業が入手できる活発な市場における同一の資産又は負債に関する相場価格であり調整されていないインプット
②レベル2のインプット
資産又は負債について直接又は間接的に観察可能なインプットのうち、レベル 1 のインプット以外のインプット
③レベル3のインプット
資産又は負債について観察できないインプット
■時価算定
分類したインプットと選択した評価技法を用いて時価を算定します。
算定した時価について、時価算定基準では「時価の算定において重要な影響を与えるインプットが属するレベルに応じて、レベル 1 の時価、レベル 2 の時価又はレベル 3 の時価に分類する」ことを求めています。
なお、「重要な影響を与える」インプットの判断基準に画一的な方法はありませんが、例えば、インプットの変化に対する時価の変化の程度を分析して(感応度分析)、変化量の大きいインプットを重要な影響を与えるインプットと判断する方法があります。
■開示
評価技法やインプットの内容、時価のレベルごとの内訳残高は注記の対象となります。
4.留意点
①その他有価証券の決算時の時価
従前は、継続適用を条件として期末日前1 カ月の市場価格の単純平均に基づいて算定された価額を用いることが認められていました。しかし、時価算定基準における時価の定義は、上述のとおり「算定日における」価格としていますので、今後は認められなくなりました。
②時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券
従前は、時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券は取得原価等で評価することが認められていました。しかし、時価算定基準では、入手できる最善の情報をもとに時価を算定することを求めていますので、今後は認められなくなりました。ただし、市場価格のない株式等については、引き続き取得原価等で評価することが認められています。
4.おわりに
各企業の所有する金融商品によっては、時価算定が複雑になり、開示内容の作成にも一定の工数を要することが想定されます。その場合は、早期適用会社やIFRS 適用会社等の他社事例が参考になりますので適宜ご参照ください。
執筆者:遠州 明洋
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