配偶者居住権はどのように評価するのか
<3分で読める税金の話>

2019年12月25日

 

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平成30年に民法が改正され、令和2年4月1日以後に開始する相続から配偶者居住権の設定が可能となり、これにより相続税実務も変わると思われます。

前回は、配偶者居住権の成り立ちから相続税額への影響などについて解説致しました。
配偶者居住権は相続税の節税になるのか<3分で読める税金の話>

今回はより実務に関連した「配偶者居住権はどのように評価するのか」という点に絞ってご説明したいと思います。

 

■配偶者居住権の評価方法

建物の相続税評価額は、配偶者居住権を設定すると配偶者居住権と建物所有権から構成されることになります。配偶者居住権の評価は、配偶者居住権自体をダイレクトに計算するのではなく、「建物の相続税評価額」から「配偶者居住権が設定された場合の建物所有権の金額」を差し引くことで計算します。

建物相続税評価額―建物相続税評価額×(建物の残存年数―存続年数)/建物の残存年数(*)×複利現価率
*下線部が0未満となる場合0とする

残存年数
耐用年数から建築当初から相続発生までの経過年数を引いたもの
*ここでの耐用年数は建物の構造に応じた法定耐用年数に1.5倍をし、自宅として使っていた場合の耐用年数としたもの。

存続年数
配偶者居住権の存在する年数。終身とした場合、平均余命。分割協議書で10 年と定めたならその年数となるが、分割協議時点での平均余命が7年だった としたら7年となる。

(建物の残存年数―存続年数)/建物の残存年数の部分は、建物の相続時の価値を100%とした場合の、配偶者居住権消滅時点の建物の価値を表しています。残存年数が20年、配偶者の平均余命が15年なら(20-15)/20 で25%となり、これに建物の相続税評価額をかけると配偶者居住権消滅時点の建物の評価額となります。

配偶者居住権が消滅するのは配偶者居住権設定時では将来のことなので、配偶者居住権消滅時点の建物の評価額に複利現価率をかけて配偶者居住権消滅時の建物評価額の現在価値を算出し(複利現 価率は存続年数に応じた複利現価率)、それを建物の相続税評価額から差し引くことで配偶者居住権の額を算出します。

 

■配偶者居住権は建物と敷地の両方

配偶者居住権というと、配偶者が自宅を使用する権利であるため建物に対しての権利と思われる方もいらっしゃると思いますが、建物を使用するということは必然的にその敷地も利用することになるので、配偶者居住権を取得するということは、配偶者居住権に基づく居住家屋の敷地使用権も一緒に取得することになります。

 

■土地利用権の評価

土地利用権の評価は、土地の相続税評価額から土地の相続税評価額に存続年数に応じた複利現価率をかけた額を差し引いた額となります。配偶者居住権が消滅するときの土地の価値は土地の相続税評価額そのものとなるため、この価額を現在価値に割り戻すことで相続開始時点における配偶者居住権(敷地利用権部分)を除いた土地の価額、つまり土地の所有権部分を算出し、これを土地の相続税評価額から差し引くことによって配偶者居住権(敷地利用権部分)の額を算出します。

 

■敷地使用権は小規模宅地等の特例の適用が可能

小規模宅地等の特例の適用があるのは宅地等であり、この宅地等には土地の上に存する権利を含みます(租税特別措置法第69条の4)。敷地使用権は「土地の上に存する権利」であるため、小規模宅地等の特例の適用が可能となりますが、もちろん別個の規定であるため敷地使用権が小規模宅地等の特例の要件を満たすかどうかの判定が必要です。

民法第1028条では、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、配偶者居住権を取得するとされており、被相続人と同居や生計が一であることは求められていないため、小規模宅地等の特例の要件である「被相続人の居住の用に供されていた宅地等」や「被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の居住の用に供されていた宅地等」に該当しない敷地使用権もありえますのでご留意ください。

 

■おわりに

配偶者居住権について2回に分けての説明となりましたが、いかがでしたでしょうか。今回の民法改正は、ご紹介した配偶者居住権をはじめ遺留分制度や特別寄与料、持戻し免除など今後の相続税実務に大きく影響すると予想されます。お正月は家族が集まり、家のことを考えるよい時期でもあります。遺言を書いていない方はこれをきっかけに書いてみる、すでに書いてある方は遺言を見直してみてもいいかもしれませんね。

 

 

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税理士高山 弥生

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