配偶者居住権は相続税の節税になるのか
<3分で読める税金の話>

2019年12月20日

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平成30年に民法が改正され、令和2年4月1日以後に開始する相続から配偶者居住権の設定が可能となり、これにより相続税実務も変わると思われます。

配偶者居住権とは何か、設定されることにより相続税実務にどのような影響が出るのか。また、配偶者居住権の評価はどのようにするのか。今回は2回に分けてご説明したいと思います。

 

■配偶者居住権とは?

配偶者居住権は、配偶者の生存中は被相続人の所有していた建物に引き続き無償で居住できる権利です。同居や生計が一であることは求められておらず、被相続人の所有していた建物に配偶者が居住していたことが要件となります。

所有権はほかの相続人が取得することができますので、配偶者居住権を設定すると一つの自宅に利用権と所有権の二つの権利が存在することになります。ただし、被相続人と配偶者ではない者とが建物を共有していた場合、配偶者居住権の設定はできません(民法第1028条)。

 

■配偶者居住権により配偶者の居住、老後生活の安定を図る

夫が亡くなって相続人が妻と子どもで、妻と子どもの仲が悪かったとします。法定相続分で財産を相続するとして、すべての財産が自宅5,000万円と預金3,000万円とします。妻は住み慣れた家に住み続けたいため、妻は自宅を相続するとしましょう。

しかしながら、妻の相続できる財産額は(5,000万円+3,000万円)/2人=4,000万であり、自宅を相続すると1,000万円オーバーしてしまいます。妻が固有の財産を持っていれば代償分割をすればよいのですが、妻が財産を他に持っていない場合、自宅を売却する必要がでてきます。

そこで、自宅を配偶者居住権という利用権と、所有権に分けることにしたのです。配偶者居住権が2,500万円だったと仮定すると、妻は配偶者居住権2,500万円と預金1,500万円を相続し、子どもは自宅の所有権2,500万円と預金1,500万円を相続することで、妻は自宅を失うことなく、預金も相続することができ、老後生活を安定させることができます。

配偶者居住権は、実は愛人の子に妻が追い出されないように政治家が罪滅ぼしで作った法律だという噂を小耳にはさんだことがありますが、再婚で前妻に子どもがいるなど、家族関係が複雑な場合、配偶者居住権の設定は配偶者の老後を守るために有用といえるでしょう。

 

■配偶者居住権の設定、消滅

配偶者居住権は、遺産分割協議、遺言、家庭裁判所の審判で設定することができます。配偶者居住権の存続期間は原則として、配偶者の終身の間とされています(民法第1030条)。つまり、配偶者が死亡した場合消滅します。配偶者居住権の譲渡はできません。生存中の配偶者居住権の合意解除は可能ですが、配偶者が配偶者居住権を所有者に贈与したとして贈与税が課税されます。

 

■二次相続(配偶者居住権取得者の死亡)で配偶者居住権に相続税はかからない

配偶者居住権を取得した配偶者が死亡した場合、配偶者居住権の消滅は民法の規定によって予定通り消滅するだけであり、配偶者から建物の所有者に相続を原因として移転はしないため、相続税の課税関係は生じないということになります。

 

■配偶者居住権を設定したほうが相続税負担は軽くなる

自宅評価5,000万円、配偶者居住権が1,000万円、自宅所有権が4,000万円と仮定します。

①配偶者居住権を設定する場合

配偶者が配偶者居住権を設定1,000万円、子どもが自宅の所有権を相続4,000万円

②配偶者と子どもが共有で取得する場合

配偶者は所有権を相続1,000万円、子どもも自宅の所有権を相続4,000万円

確実に①のほうが相続税の節税になります。配偶者居住権は、二次相続(配偶者死亡)で消滅し、相続財産として存在しないからです。相続税対策の面から考えますと、相続人の間でトラブルがなくとも、配偶者居住権の設定をしたほうが有利となります。すでに遺言を書いてある方は見直しが必要となりそうです。

ただし、配偶者が老人ホームに入居するにあたって自宅を売却して資金を捻出したくとも、所有権は別の相続人が所持しているため、思うように処分ができないなど、デメリットも予想されますので、よく検討した上でどうするかを決めたほうがよいでしょう。

 

次回は、「配偶者居住権はどのように評価するのか」を説明します。

 

 

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税理士高山 弥生

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