2022年問題って何だったの?~今更聞けない生産緑地と納税猶予の関係を解説~
<3分で読める税金の話>

2022年8月8日

 

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生産緑地とは、都市計画法によって「生産緑地地区」として指定された市街化区域内の農地をいいます。高度経済成長期における都市部は深刻な住宅難であり住環境は悪く、農地の固定資産税は宅地並み課税とされ、農家はその負担を負い切れず土地を手放し、更なる開発が進みました。

しかしながら、都市部の農地や緑地の持つ環境保全や地盤保持・保水などの働きや密集地の空間確保など、都市災害の防止の機能が重要視され、昭和49年(1974年)に生産緑地法ができ、生産緑地として指定を受けた場合、以後30年営農を続けることと引き換えに固定資産税は一般農地並みに低くなり、納税猶予が受けられるなどの税制優遇措置が取られました。

 

納税猶予の特例とは、農業を営んでいた被相続人から農業の用に供されていた農地等を相続等により取得した農業相続人が引き続き農業を営む場合には、一定の要件の下に相続税額の納税を猶予し、農業相続人が死亡した場合など、一定の事由に該当すれば免除されるというものです。単に農業をやめて農地を売却するなどといった理由で納税猶予の打切りとなった場合、相続時にまで遡って課税されます(納税猶予対象農地の20%を超えて売却する場合)。猶予されていた本来の相続税と、猶予期間に応じた利子税を合わせて納付しなければならず、多額の税金が課せられることになりますが、逆に言えば納税猶予は納税する資金的余裕があるなら農業相続人の死亡を待たずに途中で猶予期限の確定とすることができます。

一方、生産緑地の解除は、生産緑地指定を受けてから30年営農して期限を迎えた、主たる従事者が死亡した、又は農業に従事できないほど故障した場合に自治体に対し土地の買取り申出を行うことができるようになり、自治体が買い取らない場合には生産緑地が解除され、開発・売却等ができますが、そうでなければ生産緑地は「売れない・貸せない・建てられない」といったとても不自由な土地です。

不自由さと引換えに税制上の特典を得ていますので、生産緑地で納税猶予を受けている場合、「生産緑地」と「納税猶予」により農地はダブルロックがかかった状態であることに注意が必要です。納税猶予税額と利子税を納付することで、相続税に関する「農地」としてのロックは外すことが可能ですが、生産緑地としての「農地」は、買取り申出ができる理由に該当しないのであればロックがかかったままになりますので、基本的に生産緑地はなにもできないと思っていた方がいいでしょう。

「売れない・貸せない・建てられない」生産緑地ですが、平成4年(1992年)に生産緑地法が改正され、生産緑地としての指定を受けた農地が、指定から30年を迎える令和4年(2022年)に買取り申出が可能となります。可能となる生産緑地が生産緑地全体の8割にもなるとのことで、一斉に買取り申出、生産緑地指定解除がなされ、その結果、土地の大量供給となり、不動産市場の混乱、急激な宅地化による都市環境の悪化が起こるという予想が2022年問題です。

 

2022年問題への対応策として、平成30年度税制改正において、納税猶予の対象となる都市営農農地等の範囲に、特定生産緑地が追加され、生産緑地のうち、申出基準日までに特例生産緑地の指定がされなかったもの等が除外されました。特定生産緑地は、指定を受けると申出可能時期が10年延期され、さらに10年経過後は所有者の同意を得て繰り返し10年の延期が可能となる生産緑地であり、平成29年(2017年)の生産緑地法改正により創設された制度です。よって、納税猶予が受けられるのは特定生産緑地指定を受けた農地であり、特定生産緑地として指定を受けず、今までの「生産緑地」のままである場合、納税猶予を受けることはできなくなりました(現状受けている納税猶予は継続されます)。

また、平成30年度税制改正において都市農地の貸借の円滑化に関する法律等に定めるところにより行われる貸付については農業経営を廃止していないとみなされ、自分が農業を続けられなくても、第三者に貸すことで生産緑地を維持して相続税も猶予することができるようになりました。

 

現在2022年ですが、様々な対策の結果、不動産市場の混乱などは生じておらず、とりあえず2022年問題は回避されたようです。私個人としては、今後の農業にとって生産緑地と納税猶予を維持したまま農地を貸すことができるようになったのは大きいと感じています。都市の環境保全にも、日本国民の食糧生産にも関わる生産緑地と納税猶予。2022年問題への対応が取られたことによって、今後の都市農家の在り方を変えていくかもしれません。

 

 

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税理士高山 弥生

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