第1回 まずは現状の把握から、月次決算を現金主義から発生主義へ
~比較的手軽に、すぐに実践できる管理会計の手法とは?~

2021年1月21日

 

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この連載では、中小企業の管理会計について、たくさんのリソースを必要とする管理会計手法ではなく、
比較的手軽に、すぐに実践できる管理会計の手法をご紹介していきます。

 

経営者の意思決定に役立つ、日々の管理に役立つことが「管理会計の目的」。

管理会計というと、一般的には予算管理、部門別PLをイメージされる方も多いと思います。ですが、中小企業の管理会計の第一歩は、実は月次決算なんです。

もともと、管理会計には、特に決まったルールはなく、経営者の意思決定に役立つとか、日々の管理に役立つことが重要であり、目的になります。これは具体的には、税務申告の納税額の計算以外、すべての数字に関わるところが管理会計の範囲になります。つまり、結構広い範囲というふうに考えていただけたらと思います。

どういうものかというと、経理の方や会計事務所の方が、決算が終わって、経営者に報告するときに、納税額を伝えて、いつまでに納付してくださいという話をすると思います。それとあわせて、「増減分析」、例えば売上高が今年は増えましたとか、利益が出ましたとか、利益率が何パーセントですというようなこと。あとは、「資金繰り」、今年は業績がいいですけど、設備投資をしたので今後ちょっと資金繰りが苦しくなっていきます、といった話なんかをすることで、経営の参考になるような情報を提供すると思います。そういった部分も含めた、すべてが管理会計に含まれます。

 

 

月次決算の精度を上げていき、早い段階で「現在」の数値を把握する。

その中で、まずやってもらいたいのが月次決算の精度を上げていき、早い段階で数値を把握することです。これが、管理会計的な手法の活用や分析にあたってのファーストステップになると考えています。月次決算が早く正確に出来るということは、会社の足元の数値を把握できているということです。

管理会計と言えば、将来のことと考えがちですが、この月次決算があまりうまくいっていない状況で、予算の策定をしようとしても、足もとが不安定なところに建物を建てるようなもので、数値の信頼性が保てません。正確でない予算で、予算管理をされてしまうと、営業や製造といった現場はむしろ混乱してしまいます。

このように、実績、現在の状況を把握することが大事であり、月次決算こそ、管理会計のファーストステップとなります。

決算なら年に1回はやっているので、それで良いじゃないかと考えられる方もいるかもしれませんが、やはり、1年に1度では遅い。数値を通じて会社の状況を把握するのが遅くなり、分析をするにしても粗くなってしまいます。例えば、年度決算だと最初の頃の数値は1年以上前のものとなりますし、旅費交通費の分析をするにしても、1年分まとめてだと様々な要因が含まれていて、内容がつかみにくくなります。

 

年度 < 半期 < 四半期 < 月次

 

 

『日々は現金主義、決算で発生主義』からの脱却。

ここで、月次決算で何をするべきかというと、『日々は現金主義、決算で発生主義』から脱却することです。小規模、零細企業では、日々は現金主義であり、入金・出金があったところで記帳していくというのが一般的です。

そこで、月次決算をする時には、重要なところから発生主義に。例えば売上であれば入金ベースではなくて、業務の完了や請求書発行したところで記帳しましょうという、現金主義から発生主義に変えていくことが重要となってきます。これは日頃、会計事務所で指導していることと同じなんですね。

 

現金主義 : 入金で売上を計上し、支払で費用を計上する会計処理
発生主義 : モノを引き渡した時に売上を計上し、モノを使った時に費用を計上する会計処理

 

 

月次決算で「やるべきこと」と「やるべきでないこと」とは!?

月次決算をするにあたって、月次で現金主義から発生主義にしていくという話をしました。次に大事なことは、スピードです。経営者としては、数値と自分の肌感覚の答え合わせをしたい、何か変わったことが起こっていないかなど、経営に役立てるために月次決算の数値を使いたいはずです。そうすると、月次決算が、数か月後に締まるようでは数値の鮮度が落ちてしまいます。やはり翌月2,3週目、遅くても翌月末までには数値を届けたいところです。

 

(図1)

 

 

そうすると、月次決算でやるべきことと、やるべきでないことを明確に分けていくことが重要になってきます。まず、売上、仕入や外注費は、会社の事業の根幹に関わるもので、最初に、発生主義にしていただきたいと考えます(図1の①)。もちろん、手を抜けるところもあります。重要でないものは現金主義のままとします。

この発生主義にする、しないの区分けをする時に大事になるのが管理会計の目的になります。この目的は、経営者の経営意思決定に役立つことです。この目的に合わないものはやらないという判断をしないといけません。

例えば、年間12万円の保険料がかかるときに、その支払いが年1回なので、月次決算で未払費用や前払費用を立てることまでやってしまうと、正確性は高まりますが、それが経営の役に立つかどうかというと、役に立つ可能性は高くないでしょう。長期で契約していると、月で比べても削減できるものではありません(図1の③)。

賞与なんかは難しいところで、賞与引当金を計上して月次決算で費用とすることで、月次決算を正確にし、同じ年のどの月が儲かっているかの判断に役立ちます。ただ、賞与は売上と連動するものではなく、人事考課などに基づき、だいたい毎年同じ時期に支払われるものです。このため、支払った時に費用としても、前期比較や月次分析で判断を誤るということも少ないと考えられ、会社の求めるものに応じて手間をかけるかどうか決める項目となります(図1の②)。

たな卸資産も、在庫の金額が大きかったり、月での変動が大きければ、ぜひ月次で正確にしたい項目ですが、少額であったり、毎月同じくらいの在庫であれば、月次では無視しても問題ないということです(図1の②)。

正確性を追い求めるとキリがないので、経営の役に立つかどうかという判断基準を持って、正確性をあきらめるというところが、時間をかけないで管理会計を活用するコツになります。

 

図1は、月次決算で、発生主義にするかどうかの科目ごとの整理したものです。

金額的な重要性や、固定費であるか変動費であるかなど、他の要素もあるので常に正しいとは言えませんが、一つの目安として参考にしてみて下さい。

 

ここまで読んでいただいて、管理会計も、月次決算、現金主義と発生主義など親しみのある内容と感じて頂けたのではないでしょうか。この月次決算を使って、いろいろな管理会計的な手法を活用していきます。

これからも、日常やっている業務から、管理会計の実践につながっていく内容を説明していきたいと思います。

 

 

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公認会計士・税理士林健太郎

税理士法人ベルダ代表社員
監査法人トーマツ(当時)、辻・本郷税理士法人を経て、2011年に地元で独立開業し、広く四国・関西エリアで活躍中。管理会計を活用したアドバイスを中小企業の経営者に提供するとともに、大学院でも管理会計を教えている。「中小企業での会計の活用」を目指す。趣味は地元サッカーチーム、徳島ヴォルティスの応援。徳島県鳴門市出身。

» 事務所HP:http://www.kh-kaikei.com/

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公認会計士梅澤真由美

管理会計ラボ㈱代表取締役
通称「管理会計のマドンナ」。監査法人トーマツ(当時)を経て、日本マクドナルド㈱とウォルト・ディズニー・ジャパン㈱にて、経理業務などに10年間従事。「経理のためのエクセル基本作法と活用戦略がわかる本」(税務研究会)など著書多数。「つくる会計から、つかう会計へ」がモットー。趣味は、オンラインヨガと「あつまれどうぶつの森」。静岡県沼津市出身。

» 会社HP:http://www.accountinglabo.com/

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