【令和5年(2023年)税制改正】暦年贈与や相続時精算課税はどうなる?
[ベンチャーサポート相続税理士法人 コラム]

【令和5年(2023年)税制改正】暦年贈与や相続時精算課税はどうなる?

 

この記事でわかること
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✅ 税制改正により暦年贈与を実行した時には持ち戻しの可能性が高まる
✅ 相続時精算課税制度にこれまでなかった基礎控除が新設される
✅ 暦年贈与と相続時精算課税制度の選択のポイントがこれまでと変わる
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子や孫に財産を譲り渡したい、あるいは相続税対策を行いたいという理由で、贈与を行う方がいるでしょう。
贈与を行う際には、将来的な相続税の負担との関係を考慮し、損をしない選択が求められます。
令和5年度の税制改正により、暦年贈与と相続時精算課税制度に大きな変更が生じるものとされています。
具体的にどのような変更があり、どのような影響があるのか、解説していきます。

 

 

 

 

■暦年贈与制度の持ち戻し期間が延長


受贈者ごとに、毎年1月1日から12月31日までの1年間に110万円の非課税枠があり、これを基礎控除といいます。
基礎控除内の贈与であれば贈与税はかからず、仮に110万円を超えても、その超えた部分に対してのみ贈与税がかかります。

暦年贈与とは、1月1日から12月31日までの1年間における贈与総額を110万円以下にすることで、贈与税がかからないように贈与することです。

贈与税の計算を行う際は、贈与者と受贈者の関係により、適用する税率が変わります。
祖父母や両親などの直系尊属から、成人の子や孫に贈与された場合は「特例贈与財産」として計算を行います。
また、特例贈与財産に該当しないケースでは「一般贈与財産」として、贈与税の計算を行います。
特例贈与財産に該当する方が、贈与税の負担は少なく済みます。

贈与された財産は、将来的に相続が発生した時、相続財産に含まれないため、相続税の節税につながります。
また、贈与を基礎控除内の金額で行えば贈与税の負担も発生せず、無税で財産を子や孫に移すことができます。
しかし、亡くなる直前に贈与をすれば、贈与税や相続税の負担を逃れることができてしまうことになります。
そこで、相続開始前3年以内に贈与された財産は、贈与がなかったものとして相続財産に含めることとされます。
このことを「持ち戻し」といい、持ち戻しが行われると生前贈与しても相続税の節税にはなりません。

令和5年度の税制改正によれば、この持ち戻しの対象となる暦年贈与が、これまでの相続開始前3年以内から7年前に拡大されます
ただし、新たに対象となった4年間の贈与については、合計100万円の非課税枠が設けられることとなります。

この改正は2024年1月1日以降に行われる暦年贈与から順に適用されるため、2027年1月1日以降に発生する相続から影響を受けます。

 

 

■相続時精算課税制度にも基礎控除が設けられた


贈与を行った場合には、暦年贈与の他に相続時精算課税制度の適用を受けることもできます。
相続時精算課税制度を選択すると、贈与を行っても2,500万円までの非課税枠があり、この金額までの贈与は贈与税がかかりません。
また、非課税枠を超えて贈与を行うと、一律20%の税率で贈与税が発生します
贈与者が亡くなると、それまでに贈与した財産はすべて相続財産に加算して相続税の計算を行います。
ただし、贈与税として納付した金額がある場合は、その額を相続税から差し引き、差額を納付することとなります。

相続時精算課税制度を利用して贈与した財産は、すべて相続税の計算対象に含まれることとなります。
つまり、相続時精算課税制度では贈与したすべての財産が持ち戻しの対象となっていたということです。
また、一度相続時精算課税制度を利用すると、その後に暦年贈与を行うことができなくなります。
そのため、相続税の節税などのメリットがほとんどなく、利用は限定的でした。

ところが令和5年度税制改正では、相続時精算課税制度に110万円の基礎控除が新たに設けられることが明記されました
これまで2,500万円の非課税枠だけを贈与税の計算で考慮していましたが、別に非課税となる計算ができるようになります。
しかも基礎控除内で贈与された財産の額は持ち戻しの対象とはならず、相続税が課されません。

これまで贈与時精算課税制度を利用すると、贈与した財産はすべて相続税の対象となっていたため、大きな変化となるでしょう。

 

 

■【どちらがお得?】暦年贈与と相続時精算課税


これまで、生前贈与を行うことで相続税の節税を行ってきた方も多いでしょう。
そして、これまでは相続時精算課税制度は全額が持ち戻しの対象になるため、暦年贈与を行えば間違いなく節税になると考えられていました。
しかし、今回の改正が予定通り行われると、贈与税と相続税の課税関係に大きな変化が起こります。

①暦年贈与を行っても持ち戻しの対象となる期間が大幅に増える
②相続時精算課税制度を利用しても贈与税・相続税の対象にならない金額が発生する

そこで、最終的に贈与税や相続税の課税対象にならない金額、持ち戻しの対象になる金額を比較して、有利不利を考えてみましょう。

 

 

■相続開始前の10年間、毎年110万円贈与した場合

たとえば相続開始前の10年間に毎年110万円贈与した場合で考えてみましょう。
贈与税と相続税の対象となる金額には、以下のようなことが起こります。

 

①贈与税の納税額

10年間、毎年110万円の贈与を行っていた場合、暦年贈与でも相続時精算課税制度でも基礎控除内となるため、贈与税は発生しません

 

②相続税の対象となる金額

贈与者が亡くなった時に、贈与された財産の中に持ち戻しの対象となるものがあります。
暦年贈与を行った場合は、相続開始前7年以内の贈与が持ち戻しの対象となります
そこで、110万円×7年=770万円が相続財産に加算されます。
ただし、相続開始前3年を超え7年以内に贈与された財産については、合計100万円の非課税枠があります。
そのため、持ち戻しの対象となる金額は、770万円-100万円=670万円となり、この金額が相続財産に加算されます。

一方、相続時精算課税制度を利用した場合は、基礎控除内の贈与であれば持ち戻しの対象にはなりません
そのため、このケースでは持ち戻しの金額はゼロとなります。

 

③どちらが効果的に節税できるか

基礎控除内の贈与を行った場合、相続時精算課税制度を利用した方が、税負担が少なくなります。

 

 

相続開始前の10年間、毎年300万円贈与した場合

次に、相続開始前の10年間に、毎年300万円贈与した場合を見ていきましょう。

 

①贈与税の納税額

暦年贈与を行っていた場合、毎年(300万円-110万円)×10%=19万円の贈与税が発生します。
そのため、10年間では総額190万円の贈与税を納税することとなります。
ただ、後ほど持ち戻しの対象となる財産にかかる贈与税額は、相続税の額から差し引かれます
そのため贈与税として納めた後、精算されない実質的な負担金額は19万円×3年=57万円です。

一方、相続時精算課税制度では、基礎控除までは非課税となる他、総額2,500万円まで贈与税は発生しません。
このケースでは、基礎控除を超える金額は10年間であわせて1,900万円となるため、贈与税は1円も発生しないこととなります。

 

②相続税の対象となる金額

贈与者が亡くなり相続が発生した際には、暦年贈与を行っていた場合は相続開始前7年間に贈与された2,100万円が持ち戻されます。
ただし、100万円の非課税枠があるため、実際には2,000万円が持ち戻しにより相続財産に加算されます。

これに対して、相続時精算課税制度を選択した場合、持ち戻しの対象となる金額は(300万円-110万円)×10年=1,900万円です。
暦年贈与の方が相続財産に加算される金額が多いため、相続税の負担が大きくなります。

 

③どちらが効果的に節税できるか

このケースでは、相続時精算課税制度を利用した方が、税負担が少なく済みます。

 

 

■相続開始前の30年間、毎年500万円贈与した場合

では最後に、贈与した年数と金額が多い場合を考えてみましょう。
この例では30年間、毎年500万円を贈与したとして説明していきます。

 

①贈与税の納税額

暦年贈与でも相続時精算課税制度でも、基礎控除を上回る贈与を行っているため、贈与税が発生します。
暦年贈与の場合、贈与税の額は(500万円-110万円)×15%-10万円=48.5万円となります。
この贈与を30年間行ったため、トータルの税額は48.5万円×30年=1,455万円となります。
ただ、持ち戻しの対象となった7年分の贈与税は、相続税を計算する際に精算されます。
そのため、実質的に贈与税として負担すべき金額は、1,115.5万円となります。

一方、相続時精算課税制度を利用した場合、贈与税の対象となるのは(500万円-110万円)×30年-2,500万円=9,200万円です。
そのため、30年間で9,200万円×20%=1,840万円の贈与税を納付しますが、この金額はすべて相続税の計算時に差し引かれます。
この場合、贈与税として確定した税額は1円もないのです。

 

②相続税の対象となる金額

贈与者が亡くなり相続が発生すると、贈与された財産の中から持ち戻しが行われます。
暦年贈与の場合は、500万円×7年-100万円=3,400万円が相続財産に加算されます。
一方、相続時精算課税制度の場合は、(500万円-110万円)×30年=1億1,700万円が相続財産に加算されます。

相続時精算課税制度を利用した場合の方が、持ち戻しの金額が8,000万円以上大きいため、相続税の負担は大きくなります
ただ、この時の相続税の計算は、相続人の数や他の相続財産の金額も計算に大きく影響します。
贈与税の負担とあわせて、どちらが有利になるか慎重に判断しましょう。

 

③どちらが効果的に節税できるか

暦年贈与による方が節税に効果的な場合もあります。
贈与額や贈与年数も加味して考える必要があります。

 

 

■暦年贈与と相続時精算課税を選ぶ時の注意点


暦年贈与と相続時精算課税制度のいずれが効果的な節税になるかはケースバイケースであり、事前によく検討しなければなりません。

それぞれを選択して贈与を行う時、注意すべき点を確認しておきましょう。

 

 

■相続時精算課税制度を選択すると暦年贈与に戻れない

相続時精算課税制度を選択する場合、贈与税の申告書にその旨を記載します。
すると、その翌年以後は暦年贈与による贈与税の計算はできなくなります
「どちらが効果的か」についての考えが変わっても、もう一度暦年贈与に戻ることはできないため、よく考えてから選択するようにしましょう。

 

 

■孫が相続時に財産を取得する場合は注意

暦年贈与で持ち戻しの対象となる財産は、相続や遺贈により財産を取得した人に対する贈与財産だけです。
相続が発生しても財産を取得しない人に対する贈与は、持ち戻しの対象にはなりません
そこで、法定相続人でない孫に暦年贈与を行うことが考えられます。
ただ、法定相続人ではなくても遺贈により財産を取得することがあるため、注意が必要です。
また、贈与者が亡くなったことで生命保険金を受け取った人も、持ち戻しの対象となります。
孫であれば、絶対に持ち戻しの対象にならないわけではないため、注意しましょう。

 

 

■まとめ


相続税の負担を軽減するために贈与を行ってきた方は、これまでほとんどの方が暦年贈与を行ってきたでしょう。
しかし、令和5年度税制改正では、相続時精算課税制度を選択することでより節税になるケースが想定されます
必ずどちらが効果的な節税になるとは言い切れない場合もあるため、様々な可能性を踏まえて判断する必要があります。
特に相続財産の総額や被相続人の年齢、相続人の数などを加味して、総合的に考えましょう。

 

 

 

解説:古尾谷 裕昭(ふるおや ひろあき)
ベンチャーサポート相続税理士法人(相続サポートセンター) 代表税理士

東京税理士会 京橋支部所属(登録番号:104851)
1975年生まれ 東京都出身

明治学院大学卒業後、都内3箇所の税理士事務所勤務を経て、2006年に税理士資格取得、税理士事務所開業。
2012年にベンチャーサポート税理士法人と合併。
2016年に相続税専門部署を開設。
2017年にベンチャーサポート相続税理士法人設立。
相続専門の司法書士・弁護士・行政書士・社会保険労務士・不動産会社が在籍するベンチャーサポートグループの中核を担う「ベンチャーサポート相続税理士法人」を代表税理士として率いている。

 

■相続サポートセンター:https://vs-group.jp/sozokuzei/supportcenter/
■ベンチャーサポート相続税理士法人:https://vs-group.jp/sozokuzei/

 

 

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