コロナ後に相続税の税務調査が急増|その理由と調査官に狙われやすいポイントを紹介
[ベンチャーサポート相続税理士法人 コラム]
2023/08/08
コロナ後に相続税の税務調査が急増|その理由と調査官に狙われやすいポイントを紹介
この記事でわかること
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✅ 相続税の税務調査がどのように行われるのか知ることができる
✅ 新型コロナ後の税務調査がどのような状況にあるかわかる
✅ コロナ後の税務調査で調査官に狙われやすい点を知ることができる
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新型コロナウイルスの感染拡大は、私たちの日常生活に様々な影響を及ぼしました。
税務署が行う相続税の税務調査に関しても、対面での税務調査が制限され、調査件数が大きく減少するなどしました。
最近は新型コロナの感染拡大が落ち着き、徐々に以前の生活に戻る中で、税務調査の状況にも変化が生じています。
ここでは、税務調査では何がポイントになるのかなど、税務調査に関する基礎知識についても解説していきます。
■相続税の税務調査における基礎知識
まずは、相続税の税務調査とはどのようなもので、どのように実施されるのかご紹介します。
どのような人が税務調査の対象となり、税務調査ではどのようなことが行われるのか、知っておけば不安は少なくなるはずです。
■相続税の税務調査とは
相続税の税務調査が実施されるのは、納税者が自分で相続税を計算して申告納税する申告納税制度を採用しているからです。
相続税だけでなく、法人税や所得税、消費税など多くの税金において、申告納税制度が採用されています。
多くの納税者は、正しい税法のルールに従って申告書を作成し、税額を計算しています。
ただ、中には不正な申告を行って、税額を少なくしようとする人もいます。
また、不正を働く意思はなくても、税法に精通していないために誤った計算になってしまうこともあります。
このような誤った申告や税額計算を放置しておくと、不正がどんどん増えてしまうこととなります。
その結果、国の税収が減少し、様々な悪影響が発生してしまいます。
そこで申告書の内容について税務署が確認を行うことがあり、これを税務調査といいます。
自分の申告に対して税務調査が行われるかどうかは分からないため、不正を行うことへの抑止力となっています。
■相続税の税務調査の実施時期と期間
相続税の申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に行うこととされています。
そして、税務調査は申告や納税が行われてから、1年が経過する頃から行われることが多くなっています。
相続税の申告は、1年中いつがピークというわけではなく、まんべんなく行われます。
このことは、所得税の確定申告が毎年2月~3月に申告され、時期が集中しているのとは大きく異なります。
そのため、相続税の税務調査は、1年の中で実施されやすい時期というものはありませんが、比較的少ないのは冬、多いのは夏以降です。冬は年末調整、償却資産の申告、給与支払報告書、確定申告などで税理士事務所側が繁忙期であるため、少なくなる傾向があります。
また、税務署では毎年7月に人事異動が行われます。
そのため、7月をまたぐような税務調査は実施されにくい傾向にあります。
結果的に、毎年夏以降に相続税の税務調査が実施されることが多く、この時期の税務調査を「本気の税務調査」と呼ぶ税理士もいます。
相続税の税務調査の実施期間は、財産や相続人の多さ、申告内容の複雑さなどによって大きく異なります。
シンプルな内容であれば実地調査は1日で終了し、後は書面でのやり取りになります。
申告内容に多くの問題点を抱えるようなケースでは、実地調査の後、結論が出るまでに1年以上かかることも考えられます。
■相続税の税務調査の対象者と割合
税務署は、すべての申告について税務調査を実施することはできません。
そのため、ある程度申告書の内容を見た上で、税務調査の対象者を絞って調査を実施しています。
最新のデータである「令和3事務年度における相続税の調査等の状況」によれば、実地調査の件数は6,317件となっています。
一方、令和3年中に相続税の申告対象となった被相続人数は、134,275人です。
通常、令和3年中に申告した人は、その年のうちに税務調査を受けることはほとんどありませんが、便宜的にこれらの数字を使って調査の対象となる割合を計算すると、約4.7%となります。
■【令和4年】コロナ後における相続税の税務調査の現状
新型コロナの感染拡大が確認された令和2年以降、人との接触を極力減らす取り組みが行われました。
そのため、税務署による税務調査にも大きな影響が出ました。
しかし、徐々にコロナの感染状況に合わせて、コロナ前の状態に戻す動きが見られるようになっています。
税務調査の実施状況についても大きな変化が見られました。
では、コロナ後の税務調査についてご紹介していきます。
■税務調査(実地調査)は増加している
まずは、令和4年12月に国税庁から公表された「令和3事務年度における相続税の調査等の状況」から、その内容を解説します。
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2022/sozoku_chosa/pdf/sozoku_chosa.pdf
令和3事務年度とは、令和3年7月~令和4年6月までの期間を指します。
この期間に、税務署がどのような相続税の税務調査を実施したのか、その件数や金額などが明らかにされています。
この統計によれば、令和3事務年度に行われた実地調査の件数は、6,317件となっています。
これは、令和2事務年度に行われた実地調査件数5,106件に対して約1,200件、割合にして24%ほど増加しています。
コロナ禍では、税務署による税務調査の件数は、相続税だけでなくすべての税目で大幅に減少していました。
人との接触を伴う税務調査は行わず、書面による調査が行われることもありました。
しかし、税務署は本来、実地調査による税務調査を実施したいと考えています。
新型コロナに対する対処法が確立する中で、徐々に実地調査の件数も増えていることがわかります。
なお、新型コロナウイルスの感染が確認される直前の令和元事務年度には、1万件以上の相続税の実地調査が行われています。
この件数と比較すると、まだ令和3事務年度の実地調査件数は6割以下に過ぎません。
そのため、今後、実地調査の件数はますます増加する可能性があります。
■実地調査まで発展しなくても非違割合は高い
実地調査の件数は、前年度と比較すれば増加傾向にありますが、それでもまだ以前ほどには回復していません。
そのため、相続税の申告内容に対するチェック機能が、以前より低下しているのではないかと思われるかもしれません。
しかし、実地調査以外の方法でも税務調査は実施されており、決してチェック機能が低下しているわけではありません。
特に相続税の申告については、申告書に書かれた内容に誤りがないかを事前に調べることが容易にできます。
相続人の人数、不動産や預金などの相続財産に過不足があれば、簡単にその内容を知ることができます。
そのため、実地調査を行わなくても、修正が必要になるケースが少なくありません。
実地調査ではなく電話連絡や税務署への来署など、簡易な接触をきっかけに修正申告が必要になるケースがあります。
令和3事務年度では、簡易な接触の件数が14,730件、簡易な接触からの非違件数が3,638件となっています。
これは、前事務年度と比較して件数で約1,100件、非違件数で約500件の増加となっています。
件数に対する非違件数の割合も、前事務年度の23.0%から24.7%に増加しており、効果的な調査が実施されていることがわかります。
■相続時精算課税制度利用者の申告漏れが多い
贈与税の申告制度には、「暦年課税制度」と「相続時精算課税制度」の2種類があります。
生前に贈与を行った際に、相続時精算課税制度を利用した場合、その申告内容をもとに相続税の申告を行わなければなりません。
この時にポイントになるのは、以下の2点です。
①相続時精算課税制度により贈与した財産を相続財産に含める
②相続時精算課税制度により贈与した財産は、贈与時の価額で相続税の計算を行う
この2つのポイントを問題なく満たすには、過去の申告書が必要です。
しかし、相続時精算課税制度の申告をした後、別の税理士に相続税の申告を依頼することがあります。
すると、過去に相続時精算課税制度を利用したことを忘れたまま、相続税の申告をしてしまうことがあり得ます。
税務署では、誰が相続時精算課税制度を利用したか、正しく把握しています。
そのため、納税者自身や税理士がわからなくても、正しくない申告が行われていることがわかります。
その結果、相続時精算課税制度を利用した人の中に、相続税の申告漏れとなるケースが増加しているのです。
■コロナ後に急増した税務調査件数
新型コロナが確認され、緊急事態宣言が発出された頃から、税務署による実地調査の件数は大幅に減少しました。
これは、税務署が署員のリモートワークを推奨したためです。
感染拡大を防ぐために、それまで実地調査を行っていた税務署員は、自宅でのリモートワークを余儀なくされました。
しかし、リモートワークでは税務調査を行うことはできないため、どうしても調査件数は減少してしまいます。
また、納税者が対面での調査を拒否するようになったことも、調査件数の減少に影響します。
コロナ対応を理由に、対面での税務調査を拒否する納税者が増加し、税務署はこれに対する有効な対応策がありませんでした。
そのため、コロナを理由に対面を拒否されると、手も足も出ない状態となっていたといえます。
しかし、コロナウイルスの感染が落ち着いてきて、様々な制約は徐々になくなってきています。
リモートワークはすでに終了し、コロナを理由に対面できない人も少なくなっています。
そのため、コロナのピークを超えて、税務調査の件数は大幅に増えているというわけです。
今後は、さらにコロナの感染防止のための行動制限はなくなることから、実地調査の件数は増加すると予想されています。
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■コロナ後の税務調査で調査官に狙われやすいポイント
コロナ後の税務調査においては、どのような点に注意しなければならないのでしょうか。
相続税の税務調査にしぼって、そのポイントとなる点を確認しておきましょう。
■外国にある資産の申告漏れ
海外にある資産を購入し、その資産から収益を得ている人がいます。
海外資産は日本の国税庁が把握することが難しく、申告しなくてもバレにくいと考えられています。
そのため、富裕層の中には、相続対策として、海外にある資産を積極的に購入している人がいるようです。
このような状況は国税当局も把握しており、国外取引や海外資産の申告について、力を入れています。
中でも、平成24年の税制改正によって国外財産調書制度が設けられたことが、税務調査に大きく影響しています。
国外財産調書は、国外に5,000万円を超える財産を保有している場合、その種類や金額などを記載した書面です。
毎年12月31日時点の国外財産について、確定申告の期限と同じである翌年の3月15日までに提出することとされています。
この国外財産調書のおかげで、税務署は国外にある財産を把握することができるようになりました。
国外にあっても相続財産となるため、正しく相続税の計算に反映しているかを確認することも容易にできます。
そのため、国外の資産であれば申告しなくてもバレないという考え方は、徐々に通用しなくなってきました。
海外資産の申告漏れがないか、税務署はより目を光らせています。
また、亡くなった人が生前に海外資産を購入していた場合、相続人が海外資産の存在に気付かないケースもあります。
この場合は、意図せずに相続税の申告漏れとなってしまいます。
こういった場合でも、申告漏れに悪意があるかどうかは関係ないことから、税務調査で指摘を受けることが今後も増えると考えられます。
■相続時精算課税制度適用者の申告
相続時精算課税制度を利用して財産を贈与した人が亡くなって相続が発生した時には、贈与した財産を含めて相続税を計算します。
相続時精算課税制度は平成15年に導入された制度であり、生前に利用した方が亡くなって相続が発生するケースが増えています。
そのため、相続時精算課税制度を利用したことについて、贈与された人が忘れてしまっていることがあります。
結果として、相続税の計算を行う時に、相続時精算課税制度を利用して贈与された財産を申告していないケースが多くなっています。
このような申告漏れが多いことは税務署も把握しており、東京国税局では独自に令和5年5月から相続時精算課税制度適用者に対してお知らせの書面の送付を開始しています。
しかし書面が届いても、自分には無関係と考える人も多く、正しい申告が行われないことが少なくありません。
実地調査を行うまでもなく、申告漏れの指摘を受けることとなり、このようなケースはますます増えると予想されます。
■コロナで財産の変動が目立つ人の申告
新型コロナは、個人の財産や収入にも大きな影響を及ぼしました。
飲食店を中心に、対面が求められる業種では売上が大幅に減少しました。
それ以外の業種でも、新型コロナや原材料高の影響で、これまでのような売上を上げることができないケースが増えています。
また、新型コロナ対策で金融機関からの融資を受ける人もいました。
さらに、飲食業や旅行業などの業種では、国や県などの給付金などを受給する人もいました。
このように、新型コロナの影響で財産が減った人、増えた人がそれぞれ大勢います。
このような財産の変動を踏まえて正しく申告しているか、税務調査で調べられることとなります。
■その他のポイント
コロナ後であるかどうかに関わらず、相続税の税務調査で重点的にチェックされるポイントがあります。
まずは、名義預金など、他人名義でも実質的に亡くなった人の財産と考えられる財産を、正しく申告しているかです。
生前に子供や孫の名前で預金口座を開設し、そこにお金を移動させているケースがあります。
これは、贈与が成立していないと考えられるケースが多く、他人名義であっても相続財産に含まれます。
そのような財産がないか、しっかりと確認しておく必要があります。
また、生前に暦年課税制度による贈与を行っている場合も、注意が必要です。
相続発生前3年以内(令和6年1月1日以降は相続発生前7年以内)に相続人に対して贈与された財産は、相続財産に含めることとされているためです。
相続税対策として贈与された財産も、結果的に相続財産に含まれることがあるため、確認しなければなりません。
贈与税の申告をしていない場合、あるいは贈与額が基礎控除以下で贈与税が発生していない場合でも対象になるため、注意しましょう。
■まとめ
新型コロナの影響で、税務署の税務調査は大幅に減少する形になりました。
しかし、新型コロナの影響が落ち着きを見せるようになり、徐々に実地調査による税務調査が増えています。
この傾向はこれからも続くと考えられ、ますます実地調査の件数は増えていくと予想されます。
相続税の申告にあたって、まずは税務調査を受けても問題のない正しい申告を行うことを第一に考えていきましょう。
また、相続税に精通した税理士に相続税の申告を依頼すれば、相続税に係る負担だけでなく、税務調査のリスクを低減することができます。
税務調査だけ依頼することも可能ですが、よりメリットの大きな方法を選択するといいでしょう。
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https://vs-group.jp/sozokuzei/supportcenter/souzokuzei/inh-documentsystem/
解説:古尾谷 裕昭(ふるおや ひろあき)
ベンチャーサポート相続税理士法人(相続サポートセンター) 代表税理士
東京税理士会 京橋支部所属(登録番号:104851)
1975年生まれ 東京都出身
明治学院大学卒業後、都内3カ所の税理士事務所勤務を経て、2006年に税理士資格取得、税理士事務所開業。2012年にベンチャーサポート税理士法人と合併。2017年にベンチャーサポート相続税理士法人を設立。相続専門の司法書士・弁護士・行政書士・社会保険労務士・不動産会社が在籍するベンチャーサポートグループの中核を担う「ベンチャーサポート相続税理士法人」を代表税理士として率いている。年間1,800件以上の相続税申告。10万人以上の登録者数を持つ相続YouTubeチャンネルを運営。「令和5年度版 プロが教える!失敗しない相続・贈与のすべて」など著書多数。
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