更新日:2022年9月2日
不動産保存の先取特権等の優先
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不動産保存の先取特権
(意義)
2 (注) 不動産の保存のために要した費用等には、例えば次のような費用がある。 1 不動産の保存のために要した費用には、不動産の滅失又は毀損を防ぐために行った修理の費用等がある。 2 権利の保存のために要した費用には、例えば、納税者の所有不動産を第三者が占有しており、取得時効が完成しようとしている場合において、納税者の債権者がその時効を完成猶予又は更新させるために要した費用等がある。 3 権利の承認のために要した費用には、2の例で占有者に対して納税者の所有権を承認させたときに要した費用等がある。 4 権利の実行のために要した費用には、2の例で占有者が納税者へ不動産を返還させたときの費用等がある。
(効力の保存)
3 不動産保存の先取特権は、保存行為の完了後直ちに、その債権額を登記することによってその効力を保存するものであるから(民法第337条。不動産登記法第83条参照)、登記をしていない場合はもちろん、遅滞して登記をしている場合は、先取特権としての優先権を行使できない。
(優先順位)
4 不動産保存の先取特権が、共益費用を除く一般の先取特権、他の特別の先取特権、抵当権又は不動産質権と競合した場合には、その登記の時期の前後にかかわらず、不動産保存の先取特権が優先する(民法第329条第2項、第331条第1項、第339条、第361条)。
不動産工事の先取特権
(意義)
5 (注) 不動産の工事は、不動産の保存と対比すべきものであって、例えば、倒れかかっている家屋を修理するのは保存であり、一定の計画に従って改造するのは工事である。また、一連の工事のうち、上棟までの費用を工事費とし、その後の費用を保存費とすることは許されない(明治43.10.18大判参照)。
(増価額の評価)
6 不動産工事の先取特権の目的となっている不動産を換価する場合には、税務署長は、その工事によって生じた不動産の増価額を評価しなければならない。この場合において、税務署長は、必要があると認めるときは、鑑定人に評価を委託し、その評価額を参考として増価額を定めるものとする( (注) 民法第338条第2項《不動産工事による増価額の評価》では、不動産の増価額は配当加入のときに裁判所において選任した鑑定人をして評価させることを要する旨規定しているが、この規定は、滞納処分による換価の場合には適用されない。
(効力の保存)
7 不動産工事の先取特権は、工事を始める前に、費用の予算額を登記することによってその効力を保存するものであるから(民法第338条第1項前段。不動産登記法第85条参照)、登記をしていない場合はもちろん、工事を始めてから登記をしている場合には、先取特権としての優先権を行使できない。
なお、登記した予算額よりも実際の費用が超過した場合には、先取特権は登記した予算額を限度として存在し(民法第338条第1項後段)、実際の費用が予算額よりも少ない場合には、実際の費用の額を限度として先取特権が存在する。
(優先順位)
8 不動産工事の先取特権は、不動産保存の先取特権に次ぐ順位の優先権を有するから(民法第331条第1項)、共益費用の先取特権を除く一般の先取特権、不動産保存の先取特権を除く他の特別の先取特権、抵当権及び不動産質権に優先する(同法第329条第2項、第331条第1項、第339条、第361条)。
みなし不動産工事の先取特権
(都市再開発法第107条の施行者の先取特権)
9 都市再開発法第107条《先取特権》の先取特権は、施行者が施設建築物の一部を取得した者から徴収すべき清算金について、その施設建築物の一部の上に有する先取特権であり(同条第1項)、その効力の保存及び優先順位については、以下のとおりである。
都市再開発法第107条《先取特権》の先取特権は、同法第101条第1項《施設建築物に関する登記》の規定による登記(施設建築物及び施設建築物に関する権利についての必要な登記)の際に、清算金の予算額を登記することによってその効力を保存するものであるが、清算金の額がその予算額を超過するときは、その超過額については、先取特権が存在しない(同法第107条第2項)。
都市再開発法第107条《先取特権》の先取特権は、不動産工事の先取特権(民法第327条)とみなされ、また、(1)によってした登記は、民法第338条第1項前段《不動産工事の先取特権の保存》の規定に従ってした登記とみなされるから(都市再開発法第107条第3項)、優先順位については、8と同様である。
(都市再開発法第118条の事業代行者の先取特権)
10 都市再開発法第118条《先取特権》の先取特権は、事業代行者である都道府県知事又は市町村長(同法第114条参照)が統轄する地方公共団体が、市街地再開発組合の債務について保証契約をした場合(同法第116条参照)において、その保証に係る債務を弁済したときに、その求償権に関し、市街地再開発組合の取得すべき施設建築物の一部の上に有する先取特権であり(同法第118条第1項)、その効力の保存及び優先順位については、9と同様である(同条第2項、第3項)。
(マンションの建替えの円滑化等に関する法律第88条の施行者の先取特権)
11 マンションの建替えの円滑化等に関する法律第88条《先取特権》の先取特権は、施行者が施行再建マンションの区分所有権を取得した者から徴収すべき清算金について、その施行再建マンションの区分所有権の上に有する先取特権であり(同条第1項)、その効力の保存及び優先順位については、9と同様である(同条第2項、第3項)。
立木の先取特権
(意義)
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(優先順位)
13 立木の先取特権は、他の権利に対して優先の効力を有するが、民法第329条第2項ただし書《共益費用の優先》の規定の適用は妨げられない(立木ノ先取特権ニ関スル法律第2項)。
商法第802条の積荷等についての先取特権
(意義)
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(救助料債権)
15 救助料債権については、次のことに留意する。
なお、救助料に係る債権を有する者が、救助された積荷等に有する先取特権は、その発生後1年を経過したときは、消滅する(
(優先順位等)
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また、
商法第842条の船舶債権者の先取特権
(先取特権を有する債権)
17 (注) 船籍港内で発生した修繕費等の債権は、上記の「航海を継続するために必要な費用に係る債権」に含まれない(昭和55.5.26福岡地判参照)。 (注) 船員法第46条《雇止手当》の雇止手当及び船舶所有者が労働組合との協定に基づき船員を解雇した場合に支給すべき退職慰労金は、上記の「雇用契約によって生じた船長その他の船員の債権」に含まれない(昭和58.9.28福岡高判参照)。
(先取特権の目的となる財産)
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(優先順位)
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(消滅原因) (注) この期間は除斥期間である。
21 削除
22 削除
船舶の所有者等の責任の制限に関する法律第95条第1項の先取特権
(意義)
23 船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(以下第19条関係において「船主責任制限法」という。)第95条第1項《船舶先取特権》の先取特権は、船主責任制限法第3条第1項及び第2項《船舶の所有者等の責任が制限される債権》に掲げる船舶の運航又は救助活動に直接関連して生ずる損害等に基づく債権(制限債権のうち物の損害に関する債権に限る。)につき、その債権者が事故に係る船舶、その属具及び受領していない運送賃の上に有する先取特権である(船主責任制限法第95条第1項)。
(責任制限手続の開始の効果との関係)
24 責任制限手続(船主責任制限法に基づく責任制限手続をいう。以下25において同じ。)開始決定後においては、当該開始決定の取消し又は手続の廃止の決定が確定したときを除き(同法第95条第4項)、船主責任制限法第95条第1項《船舶先取特権》の先取特権を行使することはできない(同法第33条後段)。
(優先順位等)
25 船主責任制限法第95条第1項《船舶先取特権》の先取特権は、
なお、上記の先取特権が発生後1年で消滅する前に、責任制限手続の開始決定があり、その後に当該開始決定の取消し又は手続の廃止の決定が確定したときは、当該取消し又は廃止の決定の確定後1年を経過した時に消滅する(船主責任制限法第95条第4項)。
船舶油濁損害賠償保障法第40条第1項の先取特権
(意義)
26 船舶油濁損害賠償保障法(以下第19条関係において「油濁保障法」という。)第40条第1項《船舶先取特権》の先取特権は、同法第2条第6号に掲げるタンカーから流出した油等による油濁損害に基づく債権につき、その債権者が事故に係る船舶、その属具及び受領していない運送賃の上に有する先取特権である(同法第40条第1項)。
(優先順位等)
27 責任制限手続(油濁保障法に基づく責任制限手続をいう。)の開始の効果と油濁保障法第40条第1項《船舶先取特権》の先取特権との関係については、24と同様であり(同法第38条)、同条の先取特権の優先順位及び消滅については、25と同様である(同法第40条)。
優先債権等のための動産保存の先取特権
(国税に優先する債権)
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(優先債権のために動産を保存した者の先取特権)
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なお、農業動産信用法第4条第1項第1号《農業用動産等の保存資金貸付けの先取特権》の先取特権(32参照)は、上記の動産保存の先取特権と同様に取り扱う(同法第11条参照)。
(国税のために動産を保存した者の先取特権)
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なお、農業動産信用法第4条第1項第1号《農業用動産等の保存資金貸付けの先取特権》の先取特権(32参照)は、これと同様に取り扱う(同法第11条参照)。
(動産保存の先取特権)
31 (注) 動産の保存のために要した費用等には、例えば次のような費用がある。 1 動産の保存のために要した費用には、動産の滅失又は毀損を防ぐために行った修理の費用等がある。 2 権利の保存のために要した費用には、例えば、納税者の所有物を第三者が占有しており、取得時効が完成しようとしている場合において、納税者の債権者がその時効を完成猶予又は更新させるために要した費用等がある。 3 権利の承認のために要した費用には、2の例で、占有者に対して納税者の所有権を承認させたときに要した費用等がある。 4 権利の実行のために要した費用には、2の例で、占有者から納税者へ動産を返還させたときの費用等がある。
(農業用動産等の保存資金貸付けの先取特権)
32 農業動産信用法第4条第1項第1号《農業用動産等の保存資金貸付けの先取特権》の先取特権は、農業用動産又は農業生産物について、その保存又はその物に関する権利の保存、追認若しくは実行のために必要な資金の貸付けをした場合において、農業協同組合等(同法第4条参照)の貸付債権につき、その農業用動産又は農業生産物の上に存する先取特権である(同法第5条)。
なお、上記の先取特権は、優先権の順位について、動産保存の先取特権とみなされる(同法第11条)。
(優先順位)
33 動産保存の先取特権及び農業動産信用法第4条第1項第1号《農業用動産等の保存資金貸付けの先取特権》の先取特権の優先順位は、次のとおりである。
(先取特権の追及の制限)
34 動産に関する先取特権は、その動産が第三取得者に引き渡されたときは行使することはできない(民法第333条)。
証明の期限と方法
35 第19条第1項第3号(登記したものを除く。)から第5号までの先取特権が第1項の規定の適用を受けるための証明については、
登記事項の調査確認
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不動産保存の先取特権等の優先
1 法第19条第1項各号に掲げる先取特権(仮登記(保全仮登記を含む。)がされたものを含む。法第133条第3項、令第50条第4項参照)は、特定の行為により財産の価値を保存した等の場合に成立するものであり、その行為によって国税も利益を受けること及びこれらの先取特権は質権又は抵当権に優先する効力を有することから、法第20条第1項に規定する先取特権とは異なり、その成立の時期が国税の法定納期限等後である場合又は差押え後である場合にも、国税に優先する。
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