徴収できる場合
(他に国税に充てるべき十分な財産がない場合)
1 法第22条第1項の「他に国税に充てるべき十分な財産がない場合」については、次のことに留意する。- (1) 「他に」とは、法第22条第1項の譲渡した財産を除外することをいう。
- (2) 十分な財産がないかどうかは、4に準じて判定する。
- (3) 上記(2)の判定は、法第22条第1項の財産譲渡の時の現況により行う。
(質権又は抵当権)
2 法第22条の「質権又は抵当権」は、登記したものに限られ、登記しない質権又は抵当権については、法第22条の規定の適用がない。(注) 通則法、法その他の国税に関する法律の規定により担保を徴した国税に係る担保権については、法第14条の規定により担保を徴した国税が他の国税又は地方税に優先するため、法第22条の規定は適用されない。
(財産を譲渡したとき)
3 法第22条の「財産を譲渡したとき」とは、原則として第17条関係1と同様であるが、法人の分割(分社型分割に限る。)による財産の移転が含まれる。
なお、納税者が財産を譲渡した後、その譲受人が更にその財産を譲渡した場合においても、法第22条の規定の適用がある。
(国税に不足すると認められるとき)
4 法第22条第1項の「国税に不足すると認められるとき」とは、法第22条第4項の通知を発する時の現況において、納税者に帰属する財産(国税につき徴している担保財産で、第三者に帰属しているもの及び保証人の保証を含み、法施行地域内にある財産に限る。)で滞納処分(交付要求及び参加差押えを含む。)により徴収できるものの価額が、納税者の国税の総額に満たないと客観的に認められるときをいう(平成27.11.6最高判参照)。
なお、上記の判定は、滞納処分を現実に執行した結果に基づいてする必要はないものとする(昭和47.5.25最高判参照)。
この場合における財産の価額の算定については、平成26.6.27付徴徴3-7「公売財産評価事務提要の制定について」(事務運営指針)に定めるところによるが、次のことに留意する。
- (1) 財産について、法その他の法律の規定により納税者の国税に優先する私債権、公課、地方税又は納税者以外の者の国税がある場合には、その優先する債権額に相当する金額をその財産の処分予定価額から控除して財産の価額を算定する。
- (2) 法第76条第5項《給与の差押禁止の特例》の規定により納税者の承諾がある場合に限り差押えができる給料等がある場合には、原則として、その承諾が得られないものとしてその財産の価額を算定する。
- (3) 財産について、その取立てをすることとされている場合には、換価するものとしてその財産の価額を算定する。
- (4) 継続収入に係る債権又は将来生ずべき債権がある場合には、換価するものとしてその債権の価額を算定する(第62条関係1、平成21.9.29東京高判参照)。
- (5) 交付要求に係る財産がある場合には、直ちにその財産が換価されたとした場合において配当を受けることができると認められる金額を基準として、その財産の価額を算定する。
- (6) 滞納処分費を要すると認められる場合には、その見込額を控除して財産の価額を算定する。
- (7) 保証人の保証については、保証に係る国税の額の範囲内において、保証人に帰属する財産の価額を算定する。
(徴収できることの意味)
5 法第22条第1項の「徴収することができる」とは、質権者又は抵当権者が強制換価手続において、質権又は抵当権の被担保債権につき配当を受けるべき金額のうちから、納税者の国税を徴収できることをいう。
なお、質権者又は抵当権者は、その国税についての納付義務を負うものではないから、通則法第41条第1項《第三者の納付》の規定による第三者納付の場合以外は、その国税を自己の名において納付することができない。
(抵当権付債権の譲渡等と法第22条の適用)
6 法第22条第1項の質権又は抵当権の被担保債権が第三者に譲渡された場合にも、法第22条の規定を適用することができる。
なお、法第22条第1項の質権又は抵当権の被担保債権が強制換価手続により差し押さえられた場合(転付命令があった場合を含む。)において、これらの担保権の目的財産が強制換価され、その差押債権者がその執行機関から配当を受ける場合についても、同様である。
(被担保債権の弁済等と法第22条不適用)
7 法第22条の規定により質権者又は抵当権者から納税者の国税を徴収できるのは、質権者又は抵当権者が強制換価手続において配当を受けるべき金額がある場合に限られるので、次に掲げる場合には、法第22条の規定による徴収ができない。- (1) 強制換価手続終了前に質権又は抵当権の被担保債権が弁済(民法第473条)、免除(同法第519条)、混同(同法第520条)等により消滅し、配当を受けるべき金額がない場合
- (2) 民法第378条《代価弁済》、第379条《抵当権消滅請求》等の規定により抵当権が消滅した場合(不動産質権について、同法第361条《抵当権の規定の準用》の規定により質権が消滅した場合を含む。)
徴収できる金額
8 法第22条第1項の規定により納税者の滞納国税(その滞納処分費を含む(令第6条第1項第2号)。)を徴収することができる金額は、(1)に掲げる金額から(2)に掲げる金額を控除した額と納税者の滞納国税の額とのうち、いずれか少ない額である(法第22条第2項)。- (1) 法第22条第1項の質権又は抵当権の被担保債権が、譲渡に係る財産の換価代金から配当を受けることができる金額
- (2) 譲渡に係る財産を納税者の財産とみなして、その財産の換価代金につき納税者の国税の交付要求があったものとした場合において、法第22条第1項の質権又は抵当権の被担保債権が配当を受けることができる金額
- 〔例1〕抵当権が1つの場合
- 納税者(譲渡人)の国税(法定納期限等 平成18.3.15)・・・・・・・800万円
- 抵当権甲の被担保債権(設定登記 平成18.4.11)・・・・・・・・・・・600万円
- 換価代金・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1,000万円
- イ 上記の場合、本文(1)に規定する金額(以下第22条及び第24条関係において「配当金額」という。)と本文(2)に規定する金額(以下第22条及び第24条関係において「仮定配当金額」という。)は、次のとおりである。
- (イ) 配当金額・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・600万円
- (ロ) 仮定配当金額(換価代金1,000万円-国税800万円)・・・200万円
- ロ 徴収額の限度は、滞納国税800万円と配当金額600万円から仮定配当金額200万円を控除した金額400万円のうち、少ない額であるから、400万円となる。
- ハ したがって、国税は、抵当権者が配当を受けることができる金額600万円のうちから、400万円を徴収することができ、法第22条の規定による配当は、次のとおりである。
- (イ) 納税者(譲渡人)の国税・・・・・・・・・・・・・・・・・・・400万円
- (ロ) 抵当権甲の被担保債権・・・・・・・・・・・・・・・・・・・200万円
- (ハ) 差押え時の所有者・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・400万円
- 〔例2〕抵当権が2以上ある場合
- 納税者(譲渡人)の国税(法定納期限等 平成18.3.15)・・・・・・・600万円
- 抵当権甲の被担保債権(設定登記 平成18.4.11)・・・・・・・・・・・300万円
- 抵当権乙の被担保債権(設定登記 平成18.5.9)・・・・・・・・・・・・400万円
- 抵当権丙の被担保債権(設定登記 平成18.6.21)・・・・・・・・・・・200万円
- 換価代金・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1,000万円
- イ 配当金額
上記の場合において、換価代金1,000万円の各抵当権の被担保債権に対する配当金額は、抵当権の順位により次のとおりとなる。- (イ) 抵当権甲の被担保債権・・・・・・・・・・・・・・・・・・・300万円
- (ロ) 抵当権乙の被担保債権・・・・・・・・・・・・・・・・・・・400万円
- (ハ) 抵当権丙の被担保債権・・・・・・・・・・・・・・・・・・・200万円
- ロ 仮定配当金額
譲渡に係る財産を納税者の財産とみなして国税が交付要求をするとした場合、まず優先する国税に600万円配当され、残額400万円について、各抵当権の被担保債権に対する仮定配当金額は、担保権の順位により次のとおりとなる。- (ニ) 抵当権甲の被担保債権(400万円の範囲内で全額)・・・・・・300万円
- (ホ) 抵当権乙の被担保債権(400万円-(ニ)の300万円)・・・・・・100万円
- (ヘ) 抵当権丙の被担保債権
(400万円-(ニ)の300万円-(ホ)の100万円)・・・・・・0円
- ハ 徴収額の限度
各抵当権者から徴収することができる国税の金額は、配当金額から仮定配当金額を控除した各金額であることから、次のとおり、合計500万円であり、滞納国税より少ない金額であるため、徴収額の限度は合計500万円となる。- (ト) 抵当権甲の被担保債権から徴収できる金額
((イ)の300万円-(ニ)の300万円)・・・・・・・・・0円 - (チ) 抵当権乙の被担保債権から徴収できる金額
((ロ)の400万円-(ホ)の100万円)・・・・・・・・300万円 - (リ) 抵当権丙の被担保債権から徴収できる金額
((ハ)の200万円-(ヘ)の0円)・・・・・・・・・・・・200万円
- ニ したがって、法第22条の規定による配当は、次のとおりである。
- (ヌ) 納税者(譲渡人)の国税・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・500万円
- (ル) 抵当権甲の被担保債権・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・300万円
- (ヲ) 抵当権乙の被担保債権・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・100万円
- (ワ) 抵当権丙の被担保債権・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0円
- (カ) 差押え時の所有者・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・100万円
徴収できる場合
(他に国税に充てるべき十分な財産がない場合)
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