会計不正の構造【file 08】子会社社長による在庫改ざん

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・タイプ(不正の種類):子会社社長による粉飾

・業種・業態:小売業

・手法・手口:在庫データの水増し改ざん

今回は,上場企業であるA社が買収した,同業他社である子会社(B社)の社長による在庫の過大計上の例を取り上げる。B社は創業一族が経営する地場の中小企業であるが,業績悪化のなか銀行の融資継続のため,A社からの買収に応じる以前から複数年に亘り,在庫の数量水増しによる粉飾決算を繰り返していた。金額は数億円規模に至り,債務超過が回避されていた。

当該水増しは,買収に際しての外部による財産調査でも発見できず,当該事項は買収価額(子会社株価の算定)に反映されなかった。また,買収後も,A社から派遣されたB社取締役および監査役から,B社在庫が過大である旨の指摘を何度も受けていたものの,粉飾自体の発見には至らなかった。当該,在庫水増しの粉飾をいかに早期に発見できるか,その解法を考える。

1.会計不正の概要

(1)会社の状況

親会社(A社)は老舗の小売業を営むが,株式上場後は,さらなる規模拡大を図り,自社の店舗展開のみならず,同業他社の買収も活発に行った。A社は,B社以外の子会社については,POSシステムはじめ店舗...