<IFRS COLUMN>暖簾に腕押し 第45回 持ち合い株(その2)

 国際会計基準審議会(IASB)前理事 鶯地 隆継

( 18頁)

安定株主

まだ入社間もない頃,3月決算が終わると,経理部員が総出で総会関係資料のチェックに駆り出された。その当時に先輩方から聞いた都市伝説を紹介したい。ある会社の招集通知で誤植があり,そのせいで株主総会が大もめになってしまった。誤植とは,招集通知で社長の顔写真のすぐ横にある「株主のみなさまへ」というタイトルが,なんと,「株式のみなさまへ」となっていたというのだ。太字で大きなフォントで掲げられている一番目立つ部分にも関わらず,招集通知をチェックした全員が見落としたようだ。おそらく,チェックした人たちは,まさかそんなところに間違いがあるとは夢にも思わずに,もっと細かいところをチェックしていたのであろう。教訓として言われたのが,気を抜かずに徹底的にチェックしろということだった。総会屋の羽振りが良かった頃の話である。

総会屋が跋扈できたのは,株主総会が形式的であったことも一因である。議案に異議を唱える株主はおらず,唯一,総会屋だけが騒ぎを起こす可能性があった。総会屋が騒がなければ,年1回の株主総会がわずか20分程度で終了した。株主総会がそれだけ予定調和的であったのは,安定株主が発行済み株式数の多く...