INTERVIEW ESGを企業価値に転換する ~PBR2倍への処方箋(前編)

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エーザイ株式会社 専務執行役 柳 良平
慶應義塾大学大学院 客員教授 西川 郁生

<編集部より>

PBR1倍割れ。時価総額が解散価値を下回っているということであり、極論すれば、市場から「会社を清算して財産を株主に返せ」と言われているに等しいが、日本企業の4割はPBR1倍割れであり、全体の平均でも1倍を少し超える程度に過ぎない。

この点、エーザイのCFOであり早稲田大学の客員教授でもある柳良平氏は、PBR1倍超の部分はESGの価値であり、日本企業のESGの潜在価値が顕在化すればPBRは2倍以上にはなると指摘する。企業会計基準委員会の元委員長で、慶應義塾大学大学院客員教授を務める西川郁生氏が、昨年『CFOポリシー(第二版)』を上梓した柳氏に、ESGを企業価値に転換し日本企業のPBRを2倍以上に押し上げるための処方箋、すなわち次世代CFOの財務戦略・非財務戦略を聞いた。

1.CFOポリシー

(1)長期の投資リターンはROEに収斂する

西川  本日は、著名なCFOである柳良平さんからお話を伺いたいと思います。編集部でずっと考えていた企画ということで、私も大変楽しみにしております。ご著書の『CFOポリシー(第2版)』に詳述されている「CFOポリシー」や「PBRモデル(柳モデル)」の核心部分について伺いたいと思います。柳さんは、CFOであるとともに、機関投資家をサポートした経歴をお持ちでIR活動に両側から関わられています。また、大学で教鞭をとる学究という顔をお持ちで、実践に活用している手法が実証的に裏付けられている点が素晴らしいと思います。

柳  このような機会を頂戴しまして、心より御礼申し上げます。西川さんには以前エーザイの社外取締役・監査委員長をお願いしており、ご指導いただきました。独立した立場で監督するお立場でしたが、会計基準のトップだった方の慧眼に多くを学ばせていただきました。IFRSや日本基準の会計の哲学にも絡むと思いますが、今も、そのときを思い出し、CFOとして、財務会計の基本をベースに財務戦略を構築しております。

西川  恥ずかしい限りです(笑)。それでは早速ですが、CFOポリシーの3つの柱の一番目にあるROE経営からお話を伺いたいと思います。

柳 私はCFOの財務戦略としてROE経営を掲げています。なぜROE(株主資本利益率)なのかというと、これが資本生産性を表す代理変数だからです。資本...