1 土地、建物などの交換の場合の特例
1年以上所有していた土地(借地権及び農地の耕作権を含む。)、建物(附属する設備及び構築物を含む。)、船舶、機械及び装置又は鉱業権(租鉱権及び採石権その他土石を採掘し又は採取する権利を含む。)を、それぞれ他の者が1年以上所有していたこれらの資産で種類を同じくするものと交換し、交換によって取得した資産を交換によって譲渡した資産の譲渡直前の用途に供した場合には、譲渡がなかったものとみなされ、譲渡所得は課税されない(法58)。
ただし、相手方が交換のために取得したと認められる資産と交換したとき、又は交換のために差金などを授受した場合にその差金の額が譲渡した資産の時価又は取得した資産の時価のうちどちらか高い方の金額の20%を超えるときは、いずれも特例の適用を受けることはできない。
なお、20%以下の差金が授受された場合は特例が適用されるが、この場合は、交換によって譲渡した資産のうち、受け取った差金に相当する部分については、譲渡所得とされる。
(差金の額)-{〔譲渡資産の取得費〕×〔(差金の額)/((取得資産の時価)+(差金の額))〕+〔交換による譲渡費用〕
×(差金の額)(取得資産の時価)+(差金の額)}=受け取った差金に係る譲渡益
〈特別控除及び買換えの特例等〉
土地建物等に係る譲渡所得の特別控除及び買換えの特例等については、「土地建物等の譲渡に係る所得税」(188頁以下)として別掲してあるので、その項を参照されたい。
(1) 同時に二以上の種類の資産を交換した場合(例えば、土地及び建物と土地及び建物とを交換した場合)には、土地は土地と、建物は建物と交換したものとしてこの特例が適用されるから、これらの資産が全体としては等価であっても土地と土地又は建物と建物とが等価でない場合には、その差額はそれぞれの種類の資産について、交換に際して差金が授受されたと同様に取り扱われる(基通58-4)。
(2) この特例の適用を受けるためには、確定申告書に特例の適用を受けようとする旨を記載するとともに、交換資産の種類及び用途などの明細書を添付しなければならない。
2 国外転出をする場合の譲渡所得等の特例
- (1) 国外転出をする居住者が、有価証券等を有する場合又は未決済デリバティブ取引等に係る契約を締結している場合には、その者の事業所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上、その国外転出の時に、次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める金額によりその有価証券等の譲渡又はその未決済デリバティブ取引等の決済があったものとみなす(法60の2)。
- ① その国外転出の日の属する年分の確定申告書の提出時までに納税管理人の届出をした場合、納税管理人の届出をしないでその国外転出をした日以後にその年分の確定申告書を提出する場合又はその年分の所得税につき決定がされる場合
その国外転出の時におけるその有価証券等の価額に相当する金額又はその未決済デリバティブ取引等の決済をしたものとみなして算出した利益の額若しくは損失の額 - ② 上記①に掲げる場合以外の場合
その国外転出の予定日の3月前の日におけるその有価証券等の価額に相当する金額又はその未決済デリバティブ取引等の決済をしたものとみなして算出した利益の額若しくは損失の額
- (2) 本特例は、次の①及び②に掲げる要件を満たす居住者について適用する。
- ① 国外転出をする時における上記(1)①又は②の金額の合計額が1億円以上である者
- ② 国外転出の日前10年以内に、国内に住所又は居所を有していた期間として一定の期間の合計が5年超である者
- (3) 本特例の適用を受けるべき者が、その国外転出の日から5年(納税の猶予に係る期限の延長の届出をした場合には、10年)を経過する日までに帰国をした場合において、その者がその国外転出の時において有していた有価証券等又は契約を締結していた未決済デリバティブ取引等でその国外転出の時以後引き続き有しているもの又は決済をしていないものについては、上記(1)による譲渡又は決済がなかったものとすることができる(法60の2⑥⑦)。
- (4) 本特例の適用を受けるべき者が、その国外転出の日から5年を経過する日までに当該個人が死亡したことにより、その者が国外転出の時に有していた有価証券等又は締結していた未決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引に係る契約の相続又は遺贈による移転があった場合において、次に掲げる場合に該当することとなったときは、上記(1)による譲渡又は決済がなかったものとすることができる(法60の2⑥)。
- ① その国外転出の日から5年を経過する日までに、相続又は遺贈により有価証券等又は未決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引に係る契約の移転を受けた相続人及び受遺者である個人の全てが居住者となった場合
- ② 遺産分割等の事由により、相続又は遺贈により有価証券等又は未決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引に係る契約の移転を受けた相続人及び受遺者である個人に非居住者(当該国外転出の日から5年を経過する日までに帰国をした者を除く。)が含まれないこととなった場合
なお、上記(3)、(4)の取扱いは、帰国等の日から4月を経過する日までに、更正の請求をすることにより適用を受けることができる(法153の2)。
(注) 国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予については、後掲299頁を参照のこと。
「国外転出」とは、国内に住所及び居所を有しないこととなることをいう。
「有価証券等」とは、所得税法に規定する有価証券又は匿名組合契約の出資の持分をいい、有利な条件で発行された新株予約権等で国内源泉所得を生ずべきものを除く。
「未決済デリバティブ取引等」とは、決済していないデリバティブ取引、信用取引又は発行日取引をいう。
国外転出等の日の属する年分の所得税につき確定申告書の提出及び決定がされていない場合、その国外転出等の時に保有していた有価証券等又は未決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引に係る契約について、その国外転出等の時における価額をもって取得したものとはみなされない。
「一定の期間」とは、国内に住所又は居所を有していた期間及び法第137条の2第1項又は第137条の3第1項若しくは第2項の規定による納税の猶予に係る期間をいう(令170③)。
「遺産分割等の事由」とは、次に掲げる事由をいう(法151の6①、令273の2)。
- ① 相続又は遺贈に係る対象資産について民法(第904条の2(寄与分)を除く。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って非居住者に移転があったものとして国外転出(贈与)時課税制度の適用がされていた場合において、その後当該対象資産の分割が行われ、その分割により非居住者に移転した対象資産がその相続分又は包括遺贈の割合に従って非居住者に移転したものとされた対象資産と異なることとなったこと
- ② 強制認知等により相続人に異動が生じたこと
- ③ 遺贈に係る遺言書が発見され、又は遺贈の放棄があったこと
- ④ 相続又は遺贈により取得した財産についての権利の帰属に関する訴えについての判決があったこと
- ⑤ 条件付の遺贈について、条件が成就したこと
- ⑥ 遺留分による減殺の請求に基づき返還すべき、又は弁償すべき額が確定したこと(令和元年7月1日前に開始した相続又は遺贈により所得税法等の一部を改正する法律(平成31年法律第6号)の規定による改正前の所得税法第60条の3第1項から第3項までの規定の適用を受けた居住者について生じたものに限る。)
「帰国等」とは、その者が帰国すること、その者が国外転出の時において有していた有価証券等又は契約を締結していた未決済デリバティブ取引等に係る契約が贈与又は相続若しくは遺贈により居住者に移転することをいう(法60の2⑥)。
3 贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例
- (1) 次に掲げる要件を満たす居住者が有する有価証券等又は締結している未決済デリバティブ取引等に係る契約が、贈与、相続又は遺贈(以下「贈与等」という。)により非居住者に移転した場合には、その居住者の事業所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上、その贈与等の時に、その時におけるその有価証券等の価額に相当する金額又はその未決済デリバティブ取引等の決済をしたものとみなして算出した利益の額若しくは損失の額により、その有価証券等の譲渡又は未決済デリバティブ取引等の決済があったものとみなす(法60の3)。
- ① その贈与等の時において有している有価証券等及び契約を締結している未決済デリバティブ取引等のその贈与等の時における有価証券等の価額並びに未決済デリバティブ取引等の決済をしたものとみなして算出した利益の額又は損失の額の合計額が1億円以上である者
- ② その贈与等の日前10年以内に、国内に住所又は居所を有していた期間として一定の期間の合計が5年超である者
- (2) 本特例の適用を受けるべき者から、その贈与等により有価証券等又は未決済デリバティブ取引等に係る契約の移転を受けた受贈者等が、その贈与等の日から5年(納税の猶予に係る期限の延長の届出をした場合には、10年)を経過する日までに帰国をした場合において、その受贈者等がその贈与等の時以後、引き続き有している有価証券等又は決済していない未決済デリバティブ取引等については、上記(1)による譲渡又は決済がなかったものとすることができる(法60の3⑥⑦)。
- (3) 本特例の適用を受けるべき者が、その贈与等により有価証券等又は未決済デリバティブ取引等に係る契約の移転を受けた受贈者等が死亡したことにより、その贈与等により移転した有価証券等又は締結していた未決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引に係る契約の相続又は遺贈による移転があった場合において、次に掲げる場合に該当することとなったときは、上記(1)による譲渡又は決済がなかったものとすることができる(法60の3⑥)。
- ① その贈与等の日から5年を経過する日までに、相続又は遺贈により有価証券等又は未決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引に係る契約の移転を受けた相続人及び受遺者である個人の全てが居住者となった場合
- ② 遺産分割等の事由により、相続又は遺贈により有価証券等又は未決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引に係る契約の移転を受けた相続人及び受遺者である個人に非居住者(当該贈与等の日から5年を経過する日までに帰国をした者を除く。)が含まれないこととなった場合
なお、上記(2)、(3)の取扱いは、帰国等の日から4月を経過する日までに、更正の請求をすることにより適用を受けることができる(法153の3)。
「有価証券等」及び「未決済デリバティブ取引等」については、上記「2国外転出をする場合の譲渡所得等の特例」の備考を参照。
「一定の期間」については、上記「2国外転出をする場合の譲渡所得等の特例」の備考を参照(令170の2①)。
本特例の適用を受けるべき者が、贈与等の日の属する年分の所得税につき確定申告書の提出及び決定がされていない場合、贈与等により移転した有価証券等又は未決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引に係る契約について、その贈与等の時における価額で所得価額の洗い替えがあったとはみなされない。
「受贈者等」とは、非居住者である受贈者又は同一の被相続人から相続若しくは遺贈により財産を取得した全ての非居住者をいう(法60の3⑥一)。
「遺産分割等の事由」については、上記「2国外転出をする場合の譲渡所得等の特例」備考を参照。
相続の開始の日の属する年分の所得税につき贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例の適用を受けた居住者について生じた遺産分割の事由により、非居住者に移転した対象資産が増加し、又は減少した場合には、その居住者の相続人は、その遺産分割等の事由が生じた4月以内に、その年分の所得税について、税額が増加する場合等には修正申告書を提出しなければならないこととされ、税額が減少する場合等には更正の請求をすることができることとされている(法151の6、153の5)。
「帰国等」については、上記「2国外転出をする場合の譲渡所得等の特例」の備考を参照。
4 外国転出時課税の規定の適用を受けた場合の譲渡所得等の特例
居住者が外国転出時課税の適用を受けた有価証券等又は未決済デリバティブ取引等の譲渡又は決済をした場合における事業所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その外国転出時課税の規定により課される外国所得税の額の計算において収入金額に算入されることとされた金額をその有価証券等の取引に要した金額とし、又はその未決済デリバティブ取引等の決済損益額からその外国所得税の額の計算において算出された利益の額若しくは損失の額に相当する金額の減算若しくは加算をする(法60の4)。
(注) 贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予については、後掲299頁を参照のこと。
「外国転出時課税の規定」とは、外国における国外転出に相当する事由等が生じた場合に有価証券等の譲渡又は未決済デリバティブ取引の決済があったものとみなして外国所得税を課税することとされる外国の法令の規定をいう(法60の4③)。
「有価証券等」及び「未決済デリバティブ取引等」については、上記「2国外転出をする場合の譲渡所得等の特例」の備考を参照。
5 その他の特例
- (イ) 国、地方公共団体等に財産を寄附した場合(措法40)
資産を贈与又は遺贈した場合において、贈与又は遺贈の相手方が国又は地方公共団体であるときは、譲渡所得は課税されない。また、贈与又は遺贈の相手方が、独立行政法人、国立大学法人、大学共同利用機関法人、地方独立行政法人(一定の業務を主たる目的とするもの又は公立大学法人に限る。)、日本司法支援センター、公益社団法人、公益財団法人、特定一般法人又は社会福祉法人、宗教法人、学校法人などのような公益事業を行う法人であるときは、その贈与又は遺贈が公益の増進に著しく寄与する等一定の要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けた贈与又は遺贈に限って非課税とされる。
なお、寄附を受けた財産が公益目的事業の用に供されなくなったこと等一定の事由により非課税の承認が取り消された場合には、非課税の特例の対象となる法人に対して、寄附時の譲渡所得等に係る所得税が課される。 - (ロ) 国等に対して重要文化財を譲渡した場合(措法40の2)
文化財保護法の規定により重要文化財として指定されたものを国、一定の独立行政法人、地方公共団体又は一定の文化財保存活用支援団体に譲渡した場合の譲渡所得については非課税とされる。 - (ハ) 物納の場合(措法40の3)
個人がその財産を相続税法の規定により相続税の納付のために物納した場合は、その財産の譲渡はなかったものとされる。 - (ニ) 債務処理計画に基づき資産を贈与した場合の課税の特例(措法40の3の2)
中小企業者に該当する内国法人の取締役等である個人でその内国法人の債務の保証人であるものが、その個人が有する資産(有価証券を除く。)でその資産に設定された賃借権、使用貸借権その他資産の使用又は収益を目的とする権利が現にその内国法人の事業の用に供されているものを、その内国法人について策定された一定の債務処理に関する計画に基づき、平成25年4月1日から令和4年3月31日までの間にその内国法人に贈与した場合には、一定の要件の下でその贈与によるみなし譲渡課税を適用しない。
左の規定は、当該法人を設立するための財産の提供についても適用される。
特定一般法人とは、法人税法別表第2に掲げる一般社団法人及び一般財団法人で、法人税法第2条第9号の2イに掲げるものをいう。
左の規定は、土地については適用されない。
「一定の独立行政法人」とは、独立行政法人国立文化財機構、独立行政法人国立美術館、独立行政法人国立科学博物館及び一定の地方独立行政法人をいう。
「一定の文化財保存活用支援団体」とは、公益社団法人(その社員総会における議決権の総数の2分の1以上の数が地方公共団体により保有されているものに限る。)又は公益財団法人(その設立当初において拠出をされた金額の2分の1以上の金額が地方公共団体により拠出をされているものに限る。)であって、その定款において、その法人が解散した場合にその残余財産が地方公共団体又は当該法人と類似の目的をもつ他の公益を目的とする事業を行う法人に帰属する旨の定めがあるものをいう。