税務用語辞典


  • 令和3年度 税制改正対応版※令和3年4月1日現在の法令等によっています。

納税義務の免除の特例

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1 課税選択

 基準期間における課税売上高が1,000万円以下でも、税務署長に消費税課税事業者選択届出書を提出することにより、その提出をした日の属する課税期間の翌課税期間以後は納税義務者となることができる。なお、消費税課税事業者選択届出書を提出した日の属する課税期間が、①課税資産の譲渡等に係る事業を開始した課税期間、②個人事業者が相続により課税選択の特例の適用を受けていた被相続人の事業を承継した場合におけるその相続があった日の属する課税期間及び③法人が合併により課税期間選択の特例の適用を受けていた被合併法人の事業を承継した場合におけるその合併があった日の属する課税期間、④法人が吸収分割により課税事業者を選択していた分割法人の事業を承継した場合におけるその吸収分割があった日の属する課税期間であるときは、その課税期間から納税義務者となる(法9④、令20)。

 課税選択をした納税義務者は、課税選択の適用をやめようとするとき又は事業を廃止したときは、税務署長に消費税課税事業者選択不適用届出書を提出しなければならない(法9⑤)。この届出書が提出されたときは、その提出があった日の属する課税期間の翌課税期間以後は納税義務が免除される(法9⑧)。ただし、課税選択をした場合は、事業を廃止したときを除き、少なくとも2年間は、継続適用しなければならない(法9⑥)。

 また、課税事業者を選択した事業者は、次のイからハに該当する場合には、ロの調整対象固定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、課税事業者選択不適用届出書を提出できない(法9⑦)。

  • イ 課税事業者となった課税期間の初日から2年を経過する日までの間に開始した各課税期間中に、
  • ロ 調整対象固定資産の課税仕入れ又は調整対象固定資産に該当する課税貨物の輸入を行った場合(以下「調整対象固定資産の仕入れ等」という。)
  • ハ その調整対象固定資産の仕入れ等の課税期間につき簡易課税制度の適用を受けない場合(一般課税で申告することとなっている場合)

 なお、やむを得ない事情があるため、課税事業者選択届出書又は課税事業者選択不適用届出書を課税選択の適用を受けようとし、又は受けることをやめようとする課税期間開始前までに提出ができなかった場合であっても、税務署長の承認を受けたときは、これらの届出書はその受けよう又は受けることをやめようとする課税期間開始前に提出されたものとされる(法9⑨、令20の2①)。

備考

相続があった場合における課税事業者の選択の適用は、次のようになる(基通1-4-12)。

  • (1) 被相続人が提出した課税事業者選択届出書の効力は、相続によりその被相続人の事業を承継した相続人には及ばない。したがって、その相続人が課税事業者の選択をしようとするときは、新たに課税事業者選択届出書を提出しなければならない。
  • (2) 事業を営んでいない相続人が相続により被相続人の事業を承継した場合又は個人事業者である相続人が相続により課税事業者の選択をしていた被相続人の事業を承継した場合において、その相続人が相続があった日の属する課税期間中に課税事業者選択届出書を提出したときは、その課税期間から納税義務者となる。

「相続」には包括遺贈が、「相続人」には包括受遺者が、「被相続人」には包括遺贈者が含まれる(法2④)。

2 前事業年度等の上半期における課税売上高

 個人事業者のその年又は法人のその事業年度の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である場合において、当該個人事業者又は法人(課税事業者を選択しているものを除く。)のうち、当該個人事業者のその年又は法人のその事業年度に係る次に掲げる期間(以下「特定期間」という。)における課税売上高が1,000万円を超えるときは、当該個人事業者のその年又は法人のその事業年度については、上記「小規模事業者の納税義務の免除」を適用しない(法9の2①)。

  • ① 個人事業者のその年の前年1月1日から6月30日までの期間
  • ② その事業年度の前事業年度(7月以下であるものその他一定のもの(③において「短期事業年度」という。)を除く。)がある法人の当該前事業年度開始の日以後6月の期間
  • ③ その事業年度の前事業年度が短期事業年度である法人のその事業年度の前々事業年度(その事業年度の基準期間に含まれるものその他一定のものを除く。)開始の日以後6月の期間(当該前々事業年度が6月以下の場合には、当該前々事業年度開始の日からその終了の日までの期間)

 上記の場合においては、個人事業者又は法人が特定期間中に支払った所得税法に規定する支払明細書に記載すべき給与等の金額に相当するものの合計額をもって、特定期間における課税売上高に代替して判定することができる(法9の2③)。

備考

特定期間における課税売上高は、法第9条の2第3項の規定により、基通1-5-23における給与等の金額の合計額とすることができる(基通1-4-2(注)1)。

特定期間における課税売上高が1,000万円を超えるかどうかの判定は、特定期間における課税売上高又は個人事業者若しくは法人が特定期間中に支払った支払明細書に記載すべき給与の金額に相当する一定のものの合計額のいずれかによることができる(基通1-5-23)。

3 相続人

(相続のあった年)

 相続があった年の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である相続人が、その基準期間における課税売上高が1,000万円を超える被相続人の事業を承継したときは、相続のあった日の翌日からその年の12月31日までの間における課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについては、納税義務は免除されない(法10①)。

備考

課税事業者たる個人事業者が死亡したときは、その相続人はその旨を所轄税務署長に届け出なければならない(法57①四)。

(相続のあった翌年及び翌々年)

 その年の前年又は前々年において相続により被相続人の事業を承継した相続人は、基準期間における課税売上高が1,000万円以下であっても、その基準期間における相続人と被相続人の課税売上高の合計額が1,000万円を超えるときは、納税義務は免除されない(法10②)。

(被相続人の課税売上高の計算の特例)

 相続により二以上の事業場を有していた被相続人の事業を二以上の相続人が各事業場ごとに分割して承継した場合における被相続人の基準期間の課税売上高は、相続人が相続した事業場に係る被相続人の基準期間の課税売上高によって、上記〔相続のあった年〕〔相続のあった翌年及び翌々年〕の措置が適用される(法10③、令21)。

備考

課税事業者たる法人が合併により消滅したときは、合併法人はその旨を所轄税務署長に届け出なければならない(法57①五)。

4 合併法人

(合併のあった事業年度)

① 吸収合併の場合

 被合併法人の合併法人の吸収合併があった日の属する事業年度の基準期間に対応する期間における課税売上高が1,000万円を超えるときは、合併法人のその事業年度(その基準期間における課税売上高が1,000万円以下である事業年度に限る。)の合併があった日から事業年度終了の日までの間における課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについては、納税義務は免除されない(法11①)。合併法人の基準期間に対応する期間における被合併法人の課税売上高は、次の算式により計算した金額である(令22①)。

 被合併法人の課税売上高=合併法人の合併のあった日の属する事業年度開始の日の2年前の日の前日から同日以後1年を経過する日までの間に終了した被合併法人の各事業年度における課税売上高の合計額×(12/被合併法人のその各事業年度の月数の合計数)

(合併のあった翌年及び翌々年)

 合併法人のその事業年度の基準期間の初日の翌日からその事業年度開始の日の前日までの間に合併があった場合は、合併法人のその事業年度の基準期間における課税売上高と被合併法人の合併法人のその事業年度の基準期間に対応する期間における課税売上高との合計額が1,000万円を超えるときは、合併法人のその事業年度(その基準期間における課税売上高が1,000万円以下である事業年度に限る。)における課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについては、納税義務は免除されない(法11②)。

 合併法人の基準期間に対応する期間における被合併法人の課税売上高は、次の算式により計算した金額である(令22②)。

 被合併法人の課税売上高=合併法人の基準期間の初日から同日以後1年を経過する日までの間に終了した被合併法人の各事業年度の課税売上高の合計額×(12/被合併法人のその各事業年度の月数の合計数)

 (注) その基準期間中に合併があった場合には、上記により計算した金額をその基準期間に含まれる事業年度の月数で除し、これにその基準期間の初日から合併があった日の前日までの期間の月数を乗じて計算した金額となる。

② 新設合併の場合

(合併のあった事業年度)

 被合併法人の合併法人の新設合併があった日の属する事業年度の基準期間に対応する期間における課税売上高のいずれかが1,000万円を超えるときは、合併法人の合併があった日の属する事業年度における課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについては、納税義務は免除されない(法11③)。

 合併法人の基準期間に対応する期間における被合併法人の課税売上高は、次の算式により計算した金額である(令22③)。

 被合併法人の課税売上高=合併法人の合併のあった日の属する事業年度開始の日の2年前の日の前日から同日以後1年を経過する日までの間に終了した被合併法人の各事業年度における課税売上高の合計額

     ×(12/被合併法人のその各事業年度の月数の合計数)

(合併のあった翌年又は翌々年)

 合併法人のその事業年度開始の日の2年前の日からその事業年度開始の日の前日までの間に合併があった場合は、合併法人のその事業年度の基準期間における課税売上高と各被合併法人の合併法人のその事業年度の基準期間に対応する期間における課税売上高の合計額との合計額が1,000万円を超えるときは、合併法人のその事業年度(その基準期間における課税売上高が1,000万円以下である事業年度に限る。)における課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについては、納税義務は免除されない(法11④)。

 合併法人の基準期間に対応する期間における各被合併法人の課税売上高は、次の算式により計算した金額である(令22④)。

 各被合併法人の課税売上高=合併法人の事業年度開始の日の2年前の日の前日から同日以後1年を経過する日までの間に終了した各被合併法人の各事業年度の課税売上高の合計額×(合併法人の事業年度開始の日の2年前の日の前日から合併があった日の前日までの期間の月数/被合併法人のその各事業年度の月数の合計数)

5 分割法人

① 分割等(分割、現物出資、事後設立)の場合

備考

分割等とは次のものをいい、その場合に分割等をした法人を新設分割親法人、分割等により設立された、又は資産の譲渡を受けた法人を分割子法人という(法12⑦、令23⑨)。

  • イ 新設分割
     会社法に規定する新設分割をいう。
  • ロ 一定の現物出資による法人の設立
     現物出資により発行済株式の総数又は出資金額の全部を出資法人が有することとなるもの(持分割合100%)に限る。
  • ハ 一定の事後設立
     法人が新たな法人を設立するため金銭出資により法人を設立した後、会社法に規定する事後設立契約に基づき資産を譲渡するいわゆる事後設立で、次の要件を満たすものをいう。
    • (イ) その新たな法人の設立時において発行済株式の全部を出資法人が有している(持分割合100%)こと
    • (ロ) その資産の譲渡がその法人の設立時において予定されており、かつ、その設立時から6月以内に行われたものであること

(注) 分割等により新たに法人を設立する場合の形態としては、一の法人により行われる単独型と複数法人により行われる共同型があり得るが、現物出資、事後設立については、持分割合が100%のものに限られているので、事実上単独型のみが本特例の対象となる。

イ 新設分割子法人

(分割等のあった事業年度)

 新設分割子法人の分割等の日の属する事業年度の基準期間に対応する期間における新設分割親法人の課税売上高(新設分割親法人が二以上ある場合には、いずれかの新設分割親法人の課税売上高)が1,000万円を超えるときは、納税義務は免除されない(法12①)。

 新設分割子法人の基準期間に対応する期間における新設分割親法人の課税売上高は、次の算式により計算した金額である(令23①)。

 新設分割親法人の課税売上高=新設分割子法人の分割等があった日の属する事業年度開始の日の2年前の日の前日から同日以後1年を経過する日までの間に終了した新設分割親法人の各事業年度における課税売上高の合計額×(12/新設分割親法人の各事業年度の月数の合計数)

(分割等のあった翌年)

 その事業年度開始の日の1年前の日の前日からその事業年度開始の日の前日までの間に分割等があった場合は、新設分割子法人のその事業年度の基準期間に対応する期間における新設分割親法人の課税売上高(新設分割親法人が二以上ある場合には、いずれかの新設分割親法人の課税売上高)が1,000万円を超えるときは、納税義務は免除されない(法12②)。

 新設分割子法人の基準期間に対応する期間における新設分割親法人の課税売上高は、次の算式により計算した金額である(令23②)。

 新設分割親法人の課税売上高=新設分割子法人のその事業年度開始の日の2年前の日の前日から同日以後1年を経過する日までの間に終了した新設分割親法人の各事業年度における課税売上高の合計額×(12/新設分割親法人の各事業年度の月数の合計数)

(分割等のあった翌々年以降)

 その事業年度開始の日の1年前の日の前々日以前に分割等(新設分割親法人が二以上あるものを除く。)があった場合は、その事業年度の基準期間における課税売上高が1,000万円以下であっても、当該基準期間の末日において新設分割子法人が特定要件に該当し、かつ、新設分割子法人のその事業年度の基準期間における課税売上高とその基準期間に対応する期間における新設分割親法人の課税売上高との合計額が1,000万円を超えるときは、納税義務は免除されない(法12③)。

(特定要件の意義)

 特定要件とは、新設分割子法人の発行済株式又は出資(その新設分割子法人が有する自己の株式又は出資を除く。)の総数又は総額の50%超の数又は金額の株式又は出資が新設分割親法人及び新設分割親法人と特殊な関係にある者の所有に属する一定の場合をいう(法12③令24④)。

 新設分割子法人の課税売上高及び新設分割子法人の基準期間に対応する新設分割親法人の課税売上高は、それぞれ、次の算式により計算した金額である(令23③④)。

 新設分割子法人の課税売上高=新設分割子法人のその基準期間における課税売上高×(12/その基準期間の月数)

 (注) 特定事業年度中に分割等があった場合には、上記により計算した金額を特定事業年度の月数の合計数で除し、これに分割等があった日から特定事業年度のうち最後の事業年度終了の日までの期間の月数を乗じて計算した金額となる。

 新設分割親法人の課税売上高=新設分割親法人の特定事業年度における課税売上高の合計額×(12/特定事業年度の月数の合計数)

備考

特定事業年度とは、新設分割子法人のその事業年度開始の日の2年前の日の前日から同日以後1年を経過する日までの間に開始した新設分割親法人の各事業年度をいう。

ロ 新設分割親法人

(分割等をした翌々年)

 新設分割親法人のその事業年度の基準期間の初日の翌日からその事業年度開始の日の1年前の日の前々日までの間に分割等が行われた場合の新設分割親法人のその事業年度については、その事業年度の基準期間における課税売上高が1,000万円以下であっても、その基準期間の末日において新設分割子法人が特定要件に該当し、かつ、新設分割親法人のその事業年度の基準期間における課税売上高とその基準期間に対応する期間における新設分割子法人の課税売上高との合計額が1,000万円を超えるときは、納税義務は免除されない(法12④)。

 新設分割親法人の基準期間に対応する期間における新設分割子法人の課税売上高は、次の算式により計算した金額である(令23⑤かっこ書)。

 新設分割子法人の課税売上高=新設分割親法人のその事業年度開始の2年前の日の前日から同日以後1年を経過する日までの間に開始した新設分割子法人の各事業年度における課税売上高の合計額×(12/新設分割子法人の各事業年度の月数の合計数)×(分割等があった日から新設分割親法人の基準期間の末日までの月数/新設分割親法人の基準期間に含まれる事業年度の月数の合計数)

(分割等後3年目以降)

 新設分割親法人のその事業年度開始の日の1年前の日の前々日以前に分割等が行われた場合の新設分割親法人のその事業年度については、その事業年度の基準期間における課税売上高が1,000万円以下であっても、その基準期間の末日において新設分割子法人が特定要件に該当し、かつ、新設分割親法人のその事業年度の基準期間における課税売上高とその基準期間に対応する期間における新設分割子法人の課税売上高との合計額が1,000万円を超えるときは、納税義務は免除されない(法12④)。

 新設分割親法人の基準期間に対応する期間における新設分割子法人の課税売上高は、次の算式により計算した金額である(令23⑤)。

 新設分割子法人の課税売上高=新設分割親法人のその事業年度開始の2年前の日の前日から同日以後1年を経過する日までの間に開始した新設分割子法人の各事業年度における課税売上高の合計額×(12/各事業年度の月数の合計数)

② 吸収分割の場合

イ 分割承継法人

(分割のあった事業年度)

 分割承継法人の吸収分割の日を含む事業年度の基準期間における課税売上高が1,000万円以下であっても、その基準期間に対応する期間における分割法人の課税売上高が1,000万円を超えるときは、分割承継法人の吸収分割があった日からその事業年度終了の日までの間は、納税義務は免除されない(法12⑤)。

 分割承継法人の基準期間に対応する期間における分割法人の課税売上高は、次の算式により計算した金額である(令23⑥)。

 分割法人の課税売上高=分割承継法人の吸収分割があった日の属する事業年度開始の日の2年前の日の前日から同日以後1年を経過する日までの間に終了した分割法人の各事業年度における課税売上高の合計額×(12/分割法人の各事業年度の月数の合計数)

(分割のあった翌事業年度)

 その事業年度開始の日の1年前の日の前日からその事業年度開始の日の前日までの間に吸収分割があった場合は、その事業年度の基準期間における課税売上高が1,000万円以下であっても、その基準期間に対応する期間における分割法人の課税売上高が1,000万円を超えるときは、納税義務は免除されない(法12⑥)。

 分割承継法人の基準期間に対応する期間における分割法人の課税売上高は、次の算式により計算した金額である(令23⑦)。

 分割法人の課税売上高=分割承継法人のその事業年度開始の日の2年前の日の前日から同日以後1年を経過する日までの間に終了した分割法人の各事業年度における課税売上高の合計額×(12/分割法人の各事業年度の月数の合計数)

ロ 分割法人

 分割法人の基準期間における課税売上高によって判定する。

6 新設法人等の納税義務の免除の特例

 その事業年度の基準期間がない法人(社会福祉法第22条に規定する社会福祉法人等を除く。)のうち、その事業年度の開始の日における資本金の額又は出資の金額が1,000万円以上である法人(新設法人)については、その新設法人の基準期間がない事業年度に含まれる各課税期間における課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについて、納税義務は免除されない(法12の2①)。

 なお、新設法人が次のイからハに該当する場合には、ロの調整対象固定資産の仕入れ等の日の属する課税期間から3期目の課税期間(当該仕入れ等の日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間)までの各課税期間については、引き続き事業者免税点制度は適用されず、納税義務は免除されない(法12の2②)。

  • イ その基準期間がない事業年度(前々事業年度のない設立当初の事業年度をいう。)中に、
  • ロ 調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合
  • ハ その調整対象固定資産の仕入れ等の課税期間につき簡易課税制度の適用を受けない場合(一般課税で申告することとなっている場合)

備考

「新設法人」には、法人を新規に設立した事業年度に限らず当該設立した事業年度の翌事業年度以後の事業年度であっても、基準期間がない事業年度の開始の日における資本金の額又は出資の金額が1,000万円以上である場合には、新設法人に該当することとなる(基通1-5-15)。

「出資の金額」には、営利法人である合名会社、合資会社又は合同会社に係る出資の金額に限らず、農業協同組合及び漁業協同組合等の協同組合に係る出資の金額、特別の法律により設立された法人で出資を受け入れることとしている当該法人に係る出資の金額、地方公営企業法第18条に規定する地方公共団体が経営する企業に係る出資の金額及びその他の法人で出資を受け入れることとしている場合の当該法人に係る出資の金額が該当する(基通1-5-16)。

当該法人が、法第9条第1項の規定により納税義務が免除されることとなる場合であっても、特定期間ができた以後の課税期間における納税義務の有無の判定は、法第9条の2第1項の規定の適用がある(基通1-5-18(注)1)。

(特定新規設立法人の納税義務の免除の特例)

 その事業年度に基準期間がない法人(新設法人、社会福祉法第22条に規定する社会福祉法人等を除く。)のうち、その基準期間がない事業年度の開始の日において特定要件に該当し、かつ、新規設立法人が特定要件に該当する旨の判定の基礎となった他の者及びその他の者と政令で定める特殊な関係にある法人のうち、いずれかの者のその新規設立法人のその新設開始日の属する事業年度の基準期間に相当する期間における課税売上高として計算した金額が5億円を超えるもの(以下「特定新規設立法人」という。)については、その特定新規設立法人の基準期間がない事業年度に含まれる各課税期間における課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについては、納税の義務は免除されない(法12の3①)。

 新規設立法人の新設開始日の属する事業年度の基準期間に相当する期間における課税売上高は、次の算式により計算した金額である(令25の4)。

 新設法人の課税売上高=基準期間相当期間の国内における課税資産の譲渡等の対価の額の合計額-{基準期間相当期間において行った売上げに係る対価の返還等の金額-基準期間相当期間において行った売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額×(100/78)}

(注) 特定要件とは、他の者により新規設立法人の発行済株式又は出資の総数又は総額の100分の50を超える数又は金額の株式又は出資が直接又は間接に保有される場合等をいう(法12の3①)。

備考

新規設立法人がその新設開始日において特定要件に該当し、かつ、左記に規定する他の者と特殊な関係にある法人であったもので、その新規設立法人の設立の前1年以内又はその新設開始日前1年以内又はその新設開始日前1年以内に解散したもののうち、その解散した日においてその特殊な関係にある法人に該当していたもの(以下「解散法人」という。)がある場合には、その解散法人はその特殊な関係にある法人とみなして、その新規設立法人につき、課税資産の譲渡等については、納税の義務は免除されない(法12の3②)。

(合併又は分割等により設立された法人における基準期間がない課税期間の納税義務の判定)

 合併又は分割により設立された法人については、上記4(法第11条)又は5(法第12条)の規定が適用されない場合であっても、基準期間がない課税期間については、法第12条の2第1項、第12条の3第1項又は第12条の4第1項若しくは第2項の規定により納税義務の有無を判定する(基通1-5-17)。

(新設法人等の3年目以後の取扱い)

 資本金の額又は出資の金額が1,000万円以上である法人であっても、基準期間ができた以後の課税期間(上記6なお書により法第9条第1項(小規模事業者に係る納税義務の免除)の規定が適用されないこととなる課税期間を除く。)における納税義務の有無の判定は、法第9条第1項の規定によることとなる(基通1-5-18)。

(新設法人又は特定新規設立法人の簡易課税制度の適用)

 新設法人又は特定新規設立法人の納税義務の免除の特例の規定が適用される新設法人であっても、法第37条第3項第2号に該当する場合、同項第3号若しくは第4号に該当する場合又は同条第4項が適用される場合を除き、同条第1項に規定する中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例(簡易課税制度)の選択ができる(基通1-5-19)。

7 高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除の特例

 事業者(免税事業者を除く。)が、中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例(簡易課税制度)の適用を受けない課税期間中に国内における棚卸資産及び調整対象固定資産のうちその価額が高額である一定の資産(以下「高額特定資産」という。)の課税仕入れ又は高額特定資産の保税地域からの引取り(以下「高額特定資産の仕入れ等」という。)を行った場合には、当該高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間から当該課税期間(自ら建設等をした高額特定資産にあっては、建設等が完了した日の属する課税期間)の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間においては、小規模事業者の納税義務の免除の特例は、適用されない(法12の4①、令25の5②)。

 事業者が、高額特定資産又は自ら建設等をした一定の棚卸資産(以下「調整対象自己建設高額資産」という。)について、納税義務の免除を受けないこととなった場合等の棚卸資産に係る消費税額の調整措置の適用を受けた場合には、その適用を受けた課税期間からその課税期間(調整対象自己建設高額資産にあっては、建設等が完了した日の属する課税期間)の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間においては、小規模事業者の納税義務の免除の特例は、適用されない(法12の4②)。

備考

高額特定資産とは、棚卸資産及び調整対象固定資産のうち、その価額等が高額なもの(1,000万円以上)をいう(法12の4①、令25の5①)。

左の高額特定資産の仕入れ等の日は、資産の区分に応じて次のように定められている(法12の4①一、二)。

  • (1) 高額特定資産(自己建設高額特定資産を除く。) 当該高額特定資産の仕入れ等に係る法第30条第1項各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日
  • (2) 自己建設高額特定資産 当該自己建設高額特定資産の仕入れを行った場合に該当することとなった日

調整対象自己建設高額資産とは、棚卸資産の建設等に要した費用の額が高額なもの(1,000万円以上)をいう(法12の4②、令25の5③)。

(高額特定資産等を売却等した場合の法第12条の4第1項及び第2項の適用関係)

 法第12条の4第1項の規定は、法第9条第1項本文の規定が適用されない事業者が、法第37条第1項の規定の適用を受けない課税期間中に法第12条の4第1項に規定する高額特定資産の仕入れ等を行った場合に適用されるのであるから、その後に当該高額特定資産を廃棄、売却等により処分したとしても、同項の規定は継続して適用される。

 また、法第12条の4第2項の規定は、法第36条第1項又は第3項の規定の適用を受けた高額特定資産又は調整対象自己建設高額資産をその後に廃棄、売却等により処分したとしても、継続して適用される(基通1-5-22の2)。

法第12条の4第1項に規定する高額特定資産の支払対価)

 資産が高額特定資産に該当するかどうかを判定する場合における令第25条の5第1項第1号に規定する「課税仕入れに係る支払対価の額」とは当該資産に係る支払対価の額をいい、当該資産の購入のために要する引取運賃、荷役費等又は当該資産を事業の用に供するために必要な課税仕入れに係る支払対価の額は含まれない(基通1-5-24)。

(共有に係る高額特定資産)

 事業者が他の者と共同で購入した資産(共有物)が高額特定資産に該当するかどうかを判定する場合において、令第25条の5第1項に規定する金額が1,000万円以上であるかどうかは、その事業者の共有物に係る持分割合に応じて判定する(基通1-5-25)。

(自己建設資産が調整対象固定資産である場合の高額特定資産の判定)

 高額特定資産に該当するかどうかは、自己建設資産が調整対象固定資産である場合には、令第5条各号に掲げる資産について、その資産ごとに、その建設等に要した仕入れ等に係る支払対価の額(令第25条の5第1項第2号に規定する「仕入れ等に係る支払対価の額」をいう。以下同じ。)の合計額を基礎として判定する(基通1-5-26)。

(自己建設資産が棚卸資産である場合の高額特定資産の判定)

 令第5条各号に掲げる資産であっても、棚卸資産の原材料として仕入れるものは、調整対象固定資産に該当しないのであるから、その原材料を自ら建設等する棚卸資産の原材料として使用した場合には、その原材料の仕入れに係る支払対価の額についても、その棚卸資産の建設等に要した仕入れ等に係る支払対価の額の合計額に含まれる(基通1-5-27)。

(保有する棚卸資産を自己建設資産の原材料として使用した場合)

 自己が保有する建設資材等の棚卸資産を自己建設資産の原材料として使用した場合には、その棚卸資産の仕入れに係る支払対価の額は、その自己建設資産の建設等に要した仕入れ等に係る支払対価の額に含まれる(基通1-5-28)。

(調整対象自己建設高額資産に係る法第12条の4第2項の適用関係)

 法第12条の4第2項の規定は、高額特定資産である棚卸資産若しくは課税貨物又は調整対象自己建設高額資産について法第36条第1項又は第3項の規定の適用を受けた場合に適用されるのであるから、これらの規定の適用を受けた課税期間の初日(相続、合併又は分割があったことにより、法第9条第1項本文の規定の適用を受けないこととなった場合には、その受けないこととなった日をいう。以下この7において同じ。)の前日において建設等に要した費用の額が1,000万円未満である棚卸資産について、その課税期間の初日以後においてその棚卸資産の建設等に要した費用の額が1,000万円以上となったとしても、法第12条の4第2項の規定は適用されない。なお、法第12条の4第2項の規定が適用されない場合であっても、棚卸資産について法第36条第1項又は第3項の規定の適用を受け、その棚卸資産が仕掛品等であったことにより、これらの規定の適用を受けた課税期間の初日以後においてその棚卸資産に係る課税仕入れ等を行った場合には、法第12条の4第1項の規定が適用される(基通1-5-29)。

(高額特定資産等が居住用賃貸建物である場合の法第12条の4の適用関係)

 高額特定資産又は調整対象自己建設高額資産について法第30条第10項の規定が適用された場合であっても、法第12条の4第1項又は第2項の規定は適用される(基通1-5-30)。

(調整対象自己建設高額資産の判定)

 調整対象自己建設高額資産の建設等に要した費用の額には、その調整対象自己建設高額資産の原材料として使用する令第5条各号に掲げる資産及び自己が保有する建設資材等の棚卸資産に係るものも含まれる(基通1-5-31)。

8 信託財産に係る資産の譲渡等の帰属

(「本文信託」の納税義務者)

 信託の受益者(受益者としての権利を現に有するものに限る。)は当該信託の信託財産に属する資産を有するものとみなし、かつ、当該信託財産に係る資産の譲渡等、課税仕入れ及び課税貨物の保税地域からの引取り(以下「資産等取引」という。)は当該受益者の資産等取引とみなして、消費税法の規定が適用される(法14①本文)。

 なお、信託の変更をする権限を現に有し、かつ、当該信託の信託財産の給付を受けることとされている者(受益者を除く。)は受益者とみなされる(法14②)。

 また、受益者(受益者とみなされる者を含む。以下「受益者等」という。)が二者以上いる場合におけるいわゆる本文信託の取扱いについては、信託財産に属する資産の全部をそれぞれの受益者等がその有する権利の内容に応じて有するものとし、当該信託財産に係る資産等取引の全部をそれぞれの受益者等がその有する権利の内容に応じて行ったものとされる(令26④)。

(「ただし書信託」の納税義務者)

 集団投資信託(法人税法2二十九)、法人課税信託(法人税法2二十九の二)、退職年金等信託(法人税法12④一)又は特定公益信託等(法人税法12④二)については、その信託財産の実質的な帰属者である受益者等ではなく、現実に信託財産を所有し、その運用等を行っている取引行為者である受託者が、現実の取引のままに、当該信託財産に属する資産を有し、当該信託財産に係る資産等取引を行ったものとし、課税資産の譲渡等が行われた場合には、当該受託者が納税義務を負うこととなる(法14①ただし書)。

(法人課税信託の受託者に関する消費税法の適用)

 法人課税信託の受託者は、各法人課税信託の信託資産等(信託財産に属する資産及び当該信託財産に係る資産等取引をいう。以下同じ。)及び固有資産等(法人課税信託の信託資産等以外の資産及び資産等取引をいう。以下同じ。)ごとに、それぞれ別の者とみなして、消費税法の規定を適用する(法15①)。また、各法人課税信託の信託資産等及び固有資産等は、こうしてみなされた各別の者にそれぞれ帰属するものとされる(法15②)。

 ただし、消費税の課税事業者であっても、課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れがなく、かつ、消費税の納税額が生じない場合には確定申告義務はない(法45①ただし書)。

 また、法人課税信託以外のただし書信託については、受託者課税であることは共通であるが、法人課税信託と異なり、課税資産の譲渡等がある場合には、受託者の固有事業に係るものと区別することなく消費税の申告を行うことになる。

 なお、あくまで申告する単位として便宜的に別の者が行ったものとみなすものであり、納税義務者としては依然として同一の受託者であるから、納税義務に関する規定(法5)や納税地(法2027)の規定等は別の者とする規定の対象ではない。また、輸入品に対する消費税の申告等に関する規定(法47等)については関税制度に合わせる観点から、同様に、別の者とする対象とはされていない。

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