書評 猪熊 浩子著「グローバリゼーションと会計・監査」

(同文館出版刊/本体3,200円+税)

筑波大学大学院ビジネス科学研究科  弥永真生

( 62頁)

我が国においても,連結財務諸表との関連で,指定国際会計基準の任意適用が広がりつつあるが,企業会計審議会「我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中間報告)」(平成21年6月30日)では,「個別財務諸表は,会社法上の分配可能額の計算や,法人税法上の課税所得の計算においても利用されており」,「仮に,IFRSを個別財務諸表に適用することを検討する場合には,これらの他の制度との関係の整理のための検討・調整の時間が必要となる」とされていた。

このような中で,IFRSの適用に伴う配当規制,課税所得計算及び監査上の問題については少なからぬ論稿が公表されているものの,本書のように網羅的かつ統合された形でこれらの問題を分析した包括的な著作は存在しなかったように思われる。しかも,本書は,イギリス,ドイツおよび(とりわけ,必ずしも従来は詳細に紹介されてこなかった)フランスなどにおける状況をも要領よく紹介しつつ,理論的な面にも実務的な面にも目を配りつつ,我が国における宿題に明確かつ現実的な答えを与えようとしたものであるということができる。なかでも,たとえば,第5章において,IFRSの導入が諸外国で企業...