金融会計の論点シリーズNo.10 事業会社の金融リスク管理

フジタ国際会計コンサルティング(株) 代表 藤田敬司

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はじめに:事業リスクと金融リスク

あらゆる事業は「事業リスク」に晒されている。技術革新やグローバリゼーションがもたらす「事業リスク」は,事業会社にとって最大のリスクであるが,競争力を高めるチャンスでもある。原材料の安定確保に向けた長期購入契約締結や部品メーカーの合併・買収,顧客ニーズに即応できる適正在庫水準の確保,製品販売網の拡充など,不確実性を減らすと同時に競争力を高めるチャンスでもある。その意味では,事業リスクは敢えて挑戦すべきものであり,それを完全に避ければ事業は成り立たない。

事業会社は「金融リスク」にも晒されている。「金融リスク」にも2面あるが,それをチャンスに変えるにはそれ相応の管理体制が要る。さもなければ危険のみをもたらすだろう。わが国の事業環境では,事業と金融の2つのリスクは緊密に絡み合っている。国内取引だけに頼っていられない企業では必然的に海外取引が増える。中小企業の海外進出も増えている。そのような環境では為替・金利の変動は本業とは切っても切れない金融リスクである。株式・債券相場の変動リスクも,保有有価証券の時価変動差額は直接に,企業年金基金の運用成績は間接に企業業績を...