東芝事件から監査のあり方を考える

東北大学会計大学院 教授 高田 敏文

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はじめに

東芝の不適切会計問題(以下「東芝事件」あるいは「会計不正」という)は,会計監査に関係する人々だけでなく,社会の多くの人々の間に「激震」となって走った。東芝事件を社会の人々はどのように受け止めたのかは,マスコミ報道をみれば明らかである。日本を代表する国際的な企業である東芝,ガバナンスの優等生と評されていた東芝,歴代社長の中には政府財政のあり方を厳しく規律する組織のトップを出していた東芝がどうしてこのような会計不正に手を染めてしまったのかという疑問から発して,その疑問は怒りにも似た感情となって人々の心の中に浸透している。

私は会計監査を専門とする研究に従事してきたアカデミアの世界の人間の一人であり,昨年9月まで日本監査研究学会会長であったことから東芝事件に対する意見を表明することを差し控えてきたが,会長を退任した今アカデミアの立場からこの問題をどのように考えたらよいのか,わが国の会計監査制度は何をしなければならないのかについて私見を公にしたいと考えてきた。私にも社会の人々と同様の疑問と怒りはあるが,本誌から私見を公にする機会をいただいたことから,頭をクールにして東芝事件から問いかけら...