世界の会計事務所から 第1回 ミャンマー 「驚くなかれ,諦めるなかれ,ミャンマーの会計事始め」

KPMG ミャンマー事務所長 藤井康秀

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1.会計実務事始め

貸借対照表も固定資産台帳も作ってない!

「大変です!先方が会計データを出せないと言っています。」

ある朝,現場に出向いているスタッフから悲鳴めいた電話が飛びこんで来た。クライアントが合弁相手先と選んだミャンマー企業の財務調査の初日のことである。

「そんな筈はないよ。クライアントは相手先と財務デューデリジェンスに全面的に協力する旨の合意書に署名しているし,提示をお願いする情報のリストは,もう二週間も前に先方に送ってあるしね。」

「でも,会社は,見せるべき過年度の損益計算書もないし,基準日現在の貸借対照表どころか固定資産台帳も作っていないそうです!」

こんな驚くべき会話は,ミャンマーのデューデリジェンスの現場では日常茶飯である。ここで驚いてはいけない。また,諦める必要もないのである。ミャンマー企業には,我々の想定するような会計帳簿や決算書を作成できない事情があったし,実際,これまで,その必要もなかったのである。

まともな決算書が作られてこなかった主な理由は3つある。

(1)多重為替レートによる理由

ミャンマーが長い社会主義経済体制から抜け出し,自由な経済活動を民間企業に許すことになったの...