わたしの働き方Vol.7 ~独立公認会計士インタビュー~

前田順一郎公認会計士事務所  前田 順一郎

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独立して働く公認会計士の方々に,これまでのキャリアや会計士の働き方などを聞く本コーナー。今回は,政治の道を志した前田順一郎氏に話を聞いた。キャリアを積む過程で抱いた政治への思いとは? 会計士の仕事の魅力などを交えながら語ってもらった。

1 経済不況を目の当たりに

─公認会計士を目指したきっかけを教えてください。

大学を卒業して何となく銀行に就職したのですが,入ってみると不良債権処理など後ろ向きのことばかりやらされました。銀行を辞めたいな,と思いながら,そもそも何でこんなに不良債権だらけになってしまったのか,その原因を考えると,政治の責任が極めて重いと感じ「自分が政治を変えたい」と思いました。ただ,その時はいきなり政治の世界に入る勇気もなく,とにかく銀行を辞めました。

将来政治家になるにせよやっぱり資格が重要と思い,公認会計士の試験を目指すことにし,運よく1年半の勉強で2002年に合格することができました。

朝日監査法人(当時)に入ると,その直後にりそな銀行の事件が起こります。先輩が自ら命を絶ったり,理事長が国会に呼ばれたり。仕訳一本で世の中が大きく変わる状況を目の当たりにし,この仕事は本腰を入れてやらなければならないと思うようになりました。

─監査法人入所後のお仕事はどのようなものでしたか。

主に銀行の監査を担当していました。自己査定監査ばかりやっていた記憶があります。あの頃は会計士の自己査定監査の判断で大企業がつぶれる時代でしたので,やりがいはありました。

2007年には米国KPMGロサンゼルス事務所にトレーニーとして出向し,リーマンショックを目の当たりに。帰国後は銀行の企業結合やIFRS導入などを手掛けていました。

2013年からは国土交通省で任期付き専門官として空港民営化の仕事をすることになりました。関西国際空港や福岡空港など,まさに大きな改革の仕事でした。

PFIの会計基準の開発にも関わり,企業会計基準委員会(ASBJ)や国税庁と調整したりもしました。

2 政治への志

─政治を志すことになったきっかけを教えてください。

今まで生きてきて一貫して何を感じていたかというと,経済が不安定になると人々がギスギスしてくるんです。日本は経済成長が止まってしまい,一方で格差が広がっていく。このままでは日本の平和が危ないという危機感がありました。

正直者が報われる社会を実現しなければならないという思いを強く抱くようになり,民主党(当時)に公募し,板橋区で衆議院議員選挙の候補予定者になりました。最終的には2017年の衆議院議員選挙に立憲民主党から出馬となりましたが,残念ながら落選してしまいました。

─会計士と政治の共通点はありますか。

会計士は会社がうそをつくのを許さない仕事です。報酬をもらっている相手に対してうそは駄目と厳しいことを言わないといけない。だから,自分の価値観をしっかり持っていなければなりません。

政治も同じだと思います。自分の価値観を持って前に進めて,ノーはノーと言わないといけない。そういう意味では,会計士がもっと政治や行政の世界に入っていっていいと思います。事実に基づいてぶれずに判断する。そういった能力を会計士は持っていると思います。

3 会計士は「チャレンジできる仕事」

─若手の会計士や会計士を目指している人たちにアドバイスをお願いします。

会計士はノーをノーと言うことによってお金をもらえる数少ない仕事です。そんな仕事に誇りを持ってもらいたいです。

それから,会計監査ほど様々な情報に触れられる仕事はありません。分からないことがあれば社長を呼んでインタビューさせてほしいとか,そんなことができる仕事ってなかなかないですよ。将来,会計監査を続けるかどうかは別として,何をするにしても,若い人たちには会計監査の仕事を通じて貪欲に勉強していただきたいです。

─会計士の働き方にはどのような可能性があるでしょうか。

監査法人にしがみつく必要はないと思います。監査法人にいなくても公認会計士という資格はあります。政治家は落選すればただの人,と言われます。私も落選しましたが,かろうじて公認会計士と名乗れます。これは大変ありがたいことです。

逆に言うと,資格があるから色々なことにチャレンジできると思うんですよね。若い会計士の方々には,様々な分野にチャレンジできるメリットを活かす働き方をしていただきたい。私も今は会計の仕事をしながら,また次に向けてチャレンジしてまいりたいと思います。

前田 順一郎(まえだ・じゅんいちろう)氏

1975年3月2日生まれ。東京大学経済学部卒業。マンチェスター大学MBA。都市銀行,監査法人,国土交通省航空局での勤務を経て,2017年の衆院選に立憲民主党から立候補するも次点で落選。現在は,板橋区で会計事務所を営む傍ら政治活動を続ける。趣味は天体観測とバスケットボール。