新春特別寄稿 会計学研究の展開と非財務情報の重要性

東京大学 大学院経済学研究科准教授 首藤昭信

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1.会計学の分析対象の拡大

金融庁は,2018年6月に公表された金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告の提言にもとづき,同年11月に「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正案を公表した。ディスクロージャーワーキング・グループ報告では,「財務情報及び記述情報の充実」,「建設的な対話の促進に向けた情報の提供」および「情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組」に向けて適切な制度整備を行うべきとの提言がなされており,有価証券報告書等の記載事項についての改正案が提示されている。

さらに金融庁は,同年12月に「記述情報の開示に関する原則(案)」を公表した。この原則案も同ワーキング・グループの提言にもとづいたものである。具体的には,ルールへの形式的な対応にとどまらない開示の充実を図るため,企業が経営目線で経営方針・経営戦略等,経営成績等の分析,リスク情報等を開示していく上でのガイダンスを,記述情報の開示に関する原則(案)として要約したものとなる。有価証券報告書における開示の考え方等を整理することを通じて,投資家による適切な投資判断を可能とし,投資家と企業との間で深度ある建設的な対話が行われ...