誌上検討会「IFRS15号の開示(四半期報告書)を読む」(前編)

大阪経済大学大学院 客員教授 山田浩史
PwC京都監査法人 公認会計士 山田善隆

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<編集部より>

国際会計基準(IFRS)第15号「顧客との契約から生じる収益」が2018年1月1日以後開始事業年度から適用されている。日本でもIFRS15号をベースとした企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」等(以下,「新収益基準」という。)の適用時期が迫りつつあるなか(2021年4月1日以後開始事業年度から),IFRS15号の適用事例(四半期報告書(2018年度第1四半期))は日本基準企業にとっての貴重な先行事例となる。そこで本誌では,パナソニック株式会社の理事を務めたのち,現在は大阪経済大学大学院で教鞭を執る山田浩史教授と,PwC京都監査法人の山田善隆会計士にIFRS任意適用企業における2018年度第1四半期報告書のIFRS15号に関する開示について分析いただく誌上検討会を開催した。なお,対談の中で意見にわたる部分は私見である。

1. IFRS15号適用による損益等への影響

編集部  本日はよろしくお願いいたします。このほど編集部ではIFRS任意適用企業におけるIFRS15号の適用による影響について調査しました(次号掲載)。まずは損益に与える影響についてご見解を伺いたいのですが,「軽微」あるいは「影響がない」という開示が多数を占めました。これはどのように受け止められましたか。

山田善隆氏(以下,「山田会計士」)  IFRS15号に関しては,国際会計基準審議会(IASB)の議論のときに現行の実務を大幅に変えないという前提で議論しています。その上で実務にばらつきがある点については統一的な考え方を示しています。業種,業態,取引種別によって一部変更の影響がありますが,影響額については想定内かと思いました。

山田浩史氏(以下,「山田教授」) IFRS15号適用の影響額は従前の会計基準が何であるかによって違いがあると思います。例えばIFRSや米国基準であれば,IAS18号で対応済の論点(総額・純額,取引価格の算定など)がありますので,新基準適用の影響は少なくなります。従前の基準が日本基準ですと影響が比較的大きくなるケースがあり,実務的な負担も大きいと思います。IFRSや米国基準適用企業の方が日本基準適用企業よりIFRS15号のゴールに近いところから対応が始められます。全体として,IFRS15号の適用による影響はそれほど出ていないようですが,商社等の一部の企業で総額・純額の変更が...