ハーフタイム ツキディデスの罠

解説
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米中貿易戦争は,単なる貿易戦争ではない,「ツキディデスの罠(ワナ)」だとみる人がいる。これは古代アテネの歴史家ツキディデスの『ペロポネソス戦争史』に由来するらしい。元軍人・政治家だった彼は普通の歴史家と違い,単に過去の事実を追うのではなく,実務経験と現在の目から遠近法的に過去をみて数々の歴史法則を発見したといわれている。

だがそう簡単に過去から将来を予測できるような歴史法則は発見できないであろう。

第一に,当時覇権国だったスパルタと新興国アテネは,たしかにペロポネソス戦争(前431~前404)で激しく対立した。ところがスパルタもアテネも古代ギリシャの都市国家であり,お互いに助け合った歴史も長い。最終的にはアテネはスパルタに全面降伏し,最強を誇ったアテネ海軍は解散させられ,すべての海外領有地を失った。でも世界を二分する米中とはスケールがあまりにも違い過ぎる。 

第二に,いまの米中貿易戦争を古代ギリシャ時代の覇権戦争になぞらえると,最終的な勝利者は米国であるようにみえる。とくに米国のタカ派にとってはそうであろう。他方,Financial TimesのG・ラックマンがその著『East...