会計不正の構造【file18】経理課長による着服

解説
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・タイプ(不正の種類):従業員による着服

・業種・業態:貴金属製造・販売

・手法・手口:支払取引を偽装し着服,その隠蔽のために架空の仕入および買掛金計上および架空在庫計上を行った。

今回は,本社勤務の経理課長が,数年間にわたり,会社資金の着服を繰り返し,総額4億円もの損害を会社に与えた事例を取り上げる。

現金出納,預金振込業務にかかわる経理担当者による不正をいかに防止および早期発見すればよいのかを考える。

1.会計不正の概要

(1)会社の状況

X社は,貴金属装身具の製造・販売業を営む中堅規模の会社である。設立後,数十年の歴史をもち,平成に上場を果たす。

(2)不正の手口

経理課長(甲氏)が,①電子送金の際,承認者の設定が不要である旧式のオンラインシステムを利用し,総合振込に含めて,自己の口座へ取引銀行の当座預金から不正に送金を行った。総合振込では当座預金照合表に振込先が印字されないことが悪用された。また,②前任者が退職した後,自身が管理することになった会社の印鑑を利用,払戻請求書を不正に発行して押印し,銀行窓口から不正に預金の引き出しを行った。③営業所の閉鎖に伴い,本来,廃棄しなければな...