ハーフタイム EUが抱える矛盾と対立

解説
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Brexit(英国のEU離脱問題)を通じてみえてくるのは,EU懐疑派・離脱派の言い分だけではない。巨大組織EUがもつ構造上の問題点や,欧州大陸27か国の地域対地域,国対国,地方対地方の利害対立や気質の違いも明らかになってくる。連邦主義的方向を目指す意向はあっても,歴史や考え方や文化が異なり,EU加盟各国の動機も様々である。

欧州統合の歴史を簡単に振り返ってみると,過去一世紀の間にフランスとドイツは二度にわたる世界大戦で周辺国にも多大な損害を与えた。両国間に協調関係を打ち立てることによって戦争を根絶しようという意欲が戦後急速に高まり,時間がかかる政治統合からではなく,手っ取り早く「欧州石炭鉄鋼共同体」からスタートした。戦後の欧州は固定相場制(ブレトン・ウッズ体制)によって安定成長できたが,1971年8月のニクソン・ショック後は,弱いフランと強いマルクを統合させる案をフランスが提唱してきた。ようやく実現するきっかけとなったのは1990年の東西ドイツ統一だった。強すぎるドイツを警戒する関係国の賛同を得るに「覇権国家ドイツ」ではなく「欧州のドイツ」となるほかなかった。1992年の...