書評 田中 智徳 著『不正リスク対応監査』

解説

証券取引等監視委員会 委員 浜田 康

(同文舘出版刊/本体3,200円+税)
( 52頁)

本書は,著者が長年研究してきた不正対応の監査に関する論文をベースにまとめられたものである。

本書は二部構成になっている。第1部は「監査規制に見る不正対応の変遷」と題して,1844年の英国会社法での法定監査の始まりから説き起こし,米国監査基準,国際監査基準の変遷を丹念に整理しつつ,それらを取り込んでまとめられてきた日本の監査基準での不正対応などを検討している。米国監査基準等でも当初は不正対応を必ずしも目的とはしていなかったが,粉飾事件が相次ぎ,不正捜査型監査の要求など見直しを求める声は強まっていった。決定的になったのは,エンロン,ワールドコム事件の発覚である。これらは,両社経営陣の悪質性も話題になったが,監査における不正対応の必要性を決定的なものにした。米国では,サーベンス・オクスリー法制定などがあったが,国際的にもISA240の拡充・深化が進んだ。黎明期の監査論は経営者の誠実性を前提としていたが,経営者の誠実性を前提としてはいけない,という潮流になったのである。

日本の監査基準も,これらの動きに追随し...