不正事例に学ぶ子会社のリスク管理のポイント 第8回 グループガバナンスの確立に向けて

KPMGコンサルティング株式会社 パートナー 足立 桂輔

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1.はじめに~新型コロナウイルスによって明らかになったこと

新型コロナウイルス(Covid-19)の感染拡大はグループガバナンス,特に海外子会社管理においても大きな影響をもたらしました。国境を越えた移動が大きく制限され日本本社からの直接的なモニタリングや経営管理上の支援が滞ったり,また現地においても出社が制限されたり,または日本人駐在員が帰国を余儀なくされるような事態になりました。その結果,従来からの管理上の課題や弱点が改めて再認識されるようにもなりました。

ある企業では,駐在員が不在の間に,工場倉庫に保管されていた多額の在庫資産の持ち出しが発生し,また別の企業ではリモートワークの隙をついて技術情報の持ち出しとそれを携えての他社への転出なども発生しています。不正までとは至らずとも,決裁権を有する駐在員を欠いた状態で,給与をはじめとする支払いが止まったり,また決算が〆られないという事象も発生しました。

これらの事象の原因は,言うまでもなく,現地法人における基本的な統制の不足,またそれらの運用を任せるに足る信頼のおける現地人幹部の育成不足,そしてなによりも日本人駐在員頼みの状態の長年にわたる放置...