時事談論 vol80「作り方,伝え方,読み方」

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●財務諸表の限界と特性

財務諸表では,企業活動の一部でしかない会計取引と認識された情報を数値化し,定量的また定性的情報として提供する一方で,人的資源会計は採用されず,自己創設のれんは計上されないなどの一定の限界/特性がある。

また,従来,連結財務諸表の限界として,業種,通貨,会計基準の3つが挙げられていたが,業種(企業内の製造販売業と斡旋販売業等の利益率,資本回転率が大きく異なる事業の売上高等が連結される)については,セグメント情報で手当てされた。しかし,過度な情報提供との議論を無視すれば,何百社もの連結子会社群を数個のセグメントで開示することと,個社の財務諸表を1社ずつ全部提供することとを比較すると,情報の詳細度は後者が上回る。また,通貨に関しては,現実的に通貨間の裁定が完全ではないという問題がある。最後の会計基準に関してIFRSの適用会社では,国内外で会計基準の適用に差異はないが,実務レベルの課題は多い。例えば,外国通貨に係る将来キャッシュ・フローの見積りに関して,割引率の決定には相当に苦労する。使用価値の算定に用いられる割引率を算定する際に,資本コスト等の数値の算定に加え,当該事業が...