【投資家が求める開示】企業分析の視点からみたIFRS財務諸表 第9回 従業員,仕入れ先,顧客の重視はサステナブルなコーポレートガバナンス

~株主を重視しないわけではありません!!~

野村総合研究所 上級研究員 三井 千絵

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筆者らは投資家等情報利用者を中心に自主的に集まり,IFRS財務諸表の課題について議論するワークショップを年3~4回開催している。このワークショップは,特定の資格や特定の業種に属するメンバーだけの集まりではないという点と,会計基準ではなくむしろ開示の問題を議論するという点が特徴となっている。毎回のテーマは参加者の希望により決めている。最近のテーマはIFRSに直接関連するものにとどまらず,国際的に注目されている開示の論点や動向,今後を見据えた内容へと広がりを見せている。

1.コーポレートガバナンス・コード,改訂の年

今年はコーポレートガバナンス・コード(以下,CGコード)の改訂の年だ。3年ぶりの改訂だが,この3年間でコーポレートガバナンスの議論はグローバルに大きく変わった。様々な観点があるがキーワードはサステナビリティだ。

以前はどこの国でもCGコードの議論では,株主価値の最大化を求める中でROEや資本効率が議論され,経営者の報酬を収益へリンクさせるインセンティブ報酬が重視された。しかし,ROEを高め株主価値を高めるといって自社株買いを行えば,将来への研究開発や従業員への投資に回せる分が減ること...